男性更年期と女性更年期。男女でこんなに違うのはなぜ?
なぜだか最近、やる気が出ない。寝ても疲れが取れない気がする。もしかして、それってホルモンの仕業? 男女の更年期、その違いをまずは学習。
取材・文/石飛カノ 取材協力/久末伸一(恵佑会札幌病院泌尿器科部長)
初出『Tarzan』No.907・2025年7月17日発売

目次
更年期は男女でここまで違う。
更年期。それは性ホルモンの分泌量に変化が表れてくる時期。ときにはその変化によってカラダやココロにさまざまな不具合が表れることがある。これがいわゆる「更年期障害」と呼ばれるもの。
普通に生活している分にはまず意識されることのないホルモンは、脳や甲状腺、副腎といったカラダの内分泌器官で作られ、血液によって運ばれてさまざまな組織で作用する化学物質。
カラダの成長を促したりエネルギー代謝を補助したり、血管の収縮や血圧を調節するなど健康維持には不可欠な働きを担っている。ごくわずかな量で抜群の生理作用を及ぼす分、少しでも乏しくなると不調が引き起こされることもあるのだ。
そのホルモンのうち、主に生殖腺という内分泌器官で分泌されるのが性ホルモン。男性ホルモンの代表格はテストステロン、女性ホルモンの代表格はエストロゲン。これらのホルモンが男女の性差を作り出すほか、男性と女性のカラダを強力にサポートしてくれる。
多くの場合、歳を経るに従って性ホルモンの分泌量は減っていく。大切なものの価値は失ってから初めて気づくもの。そのときを迎えてオロオロしないようにあらかじめ知っておこう、男と女の性ホルモンのこと。
女性ホルモンの代表格・エストロゲン。
まずは女性ホルモンの分泌ルートについて。脳の視床下部から下垂体にCRHとLH-RHという2種類のホルモンによる指令が下る。すると下垂体から副腎と卵巣にそれぞれ「性ホルモンを作れ」という指示が伝わり、女性ホルモンが作られて分泌される。
女性ホルモン分泌のメカニズム
女性ホルモンの代表格はエストロゲンだが、もうひとつプロゲステロンという月経の調節や妊娠期の維持などで重要な働きをするホルモンもある。
下のグラフをご覧の通り、排卵を境に月経周期の前半はエストロゲンが主に分泌され、後半はプロゲステロンの分泌量が増えて子宮内膜の厚みが増し妊娠の準備が整えられる。この二重支配こそ女性が女性たる所以だ。
月経周期とカラダの変化
排卵直前に卵巣からエストロゲンが大量に分泌され、排卵後はその分泌量が減る代わりにプロゲステロンが卵巣から分泌される。すべては妊娠に備えたホルモンバランス。
出典/『くすりと健康の情報局』
エストロゲンが減るとどうなる?
皮膚のツヤや肌の張りを維持し、乳房の発達など女性らしいカラダのラインを形成するのは主にエストロゲンによる作用。
「それだけでなく骨の維持にも働いていて、閉経後に女性に骨粗鬆症が多く見られるのはそのせいと考えられています。男性はテストステロンを酵素で女性ホルモンに転換して骨の健康維持ができるので歳を取っても骨粗鬆症になりにくいんです」
エストロゲンの働き
その他、エストロゲンはコレステロールを減らしたり血管のしなやかさを保つなど生活習慣病の予防にもひと役買ってくれている。よって減れば減るほどカラダにとってリスク増というわけだ。セルフチェックで今の状態を見極めるべし。
女性更年期セルフチェック。
無症状から強く症状が出ているものまで、各項目ごとに症状のレベルをチェック。合計点で更年期障害レベルを割り出す。
出典/小山嵩夫・簡略更年期指数(SMI)より
男性らしさを形作る、テストステロン。
さて、男性ホルモンの分泌ルートも途中までは女性と同様。脳から下垂体にホルモン指令が下り、下垂体から副腎と精巣に男性ホルモン製造オーダーがなされる。
男性ホルモン分泌のメカニズム
女性のカラダがエストロゲンとプロゲステロンの二重支配を受けているのに対し、男性はテストステロンほぼ一択。しかも生まれる前からテストステロンの刺激を大いに受けているというところが男性特有。
男性になるべき遺伝子を持った胎児にはまず精巣ができて、そこからテストステロンが放出されて陰茎が形作られる。生まれた直後もテストステロンが大量に放出され、今度は脳が男性化する。女性ホルモンにはこのような胎児や新生児での大量放出は見られない。
生前生後の男性ホルモン
男性は胎児のときからテストステロンの影響を受け、その作用で生殖器が形作られる。この世に生まれ落ちた直後に再びテストステロンの作用で男性らしい嗜好の脳の土台が作られるのだ。
出典/Forest et al. J Clin Invest 1941
テストステロンは冒険と性欲とカラダづくりを律する。
恵佑会札幌病院の泌尿器科部長・久末伸一さんによれば、
「男性更年期を評価するのには心とカラダと性、この3つが柱となります。基本的にテストステロンが働くところには受容体がありますが、それが最も機能しているのは生殖器、その次が筋肉です」
性欲や勃起を促したり筋肉の合成をサポートするというのが、やはりテストステロンの真骨頂。
テストステロンの働き
「それ以外にテストステロンは女性ホルモンに変換されて骨に作用したり脳の活性を促します。また、テストステロンから作られるジヒドロテストステロンは記憶を司る海馬にも作用することが分かっています」
ジヒドロテストステロンは育毛を妨げるデメリットもあるが、テストステロンの低下は健康に圧倒的不利。
男性更年期セルフチェック。
各症状について「なし」から「きわめて重度」までの5つのレベルでチェック。合計点が今のあなたの更年期レベル。
出典/国際的に使用されているAMSスコアより
女性の更年期は有限、男性の更年期は無期限?
20代で性ホルモンがピークを迎え、加齢とともに分泌量が低下するのは男女共通。ただ低下のカーブは大違い。
「女性は閉経という一大イベントがあり、そこで女性ホルモンが一気にゼロに。激しいホルモン変化で心身ともに不調が表れることがありますが、閉経後5年くらいで不調は回復します。だから閉経前後5年くらいの時期は更年期と呼ばれています。一方、男性は20代以降男性ホルモンはダラダラ減っていき、いつ不調が始まっていつ終わるか分からないんです」
つまり、男性更年期はメリハリなき更年期ということだ。
男女の性ホルモンの加齢変化
女性の閉経の平均年齢は51歳。これを機に女性ホルモンの分泌量は急降下。一方、男性ホルモンはひたすらダラダラ低下していくのみ。女性のようにはっきりした更年期がない。
資料提供/久末伸一