目元のしこりは要注意。コレステロール値の“黄色信号”とは?
高コレステロール値への対策として、定期的な健康診断を怠らず、食生活や運動に意識を向けるべき……というのは釈迦に説法。しかし然るべき対策をせず、カラダの異変を放置したら、どんな未来が待っているのだろうか。コレステロール値が高いことで起きる「目にみえる変化」と、その末路を解説しよう。
取材・文/井上健二 撮影/大内カオリ 取材協力/山下静也(りんくう総合医療センター理事長) 参考文献/動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版、The Japan Diet ダイジェスト版
初出『Tarzan』No.898・2025年3月6日発売

教えてくれた人
山下静也(やました・しずや)/りんくう総合医療センター理事長。大阪大学医学部卒業。大阪大学大学院総合地域医療学寄附講座教授などを経て現職。専門は脂質異常症、動脈硬化症など。日本動脈硬化学会動脈硬化専門医・指導医。医学博士。
悪玉の数値が高いのは「一番ヤバい」。
脂質異常症には、高LDLコレステロール血症、高トリグリセライド(中性脂肪)血症、低HDLコレステロール血症、高non—HDLコレステロール血症がある。
どれも大いに気になるが、なかでも“ヤバい”というエビデンスがいちばん揃っているのは、高LDLコレステロール血症だ。
「遺伝的な要因で高LDLコレステロール血症になる家族性高コレステロール血症(FH)では、動脈硬化が早期に進みやすいことがわかっています。それ以外の高LDLコレステロール血症でも、スタチンなどの薬でLDL値を下げてやると、動脈硬化による心臓病や脳卒中の発症率が低下するとわかっています」(りんくう総合医療センター理事長の山下静也先生)
中性脂肪が多いと、急性膵炎で悶絶の未来!?
次に同じくらい危ないのが、高トリグリセライド血症。中性脂肪が多すぎると、動脈硬化による心臓病や脳卒中の発症率が高く、その再発リスクも上がる。
むろん他の脂質異常症も軽視してはダメ。とくに高血糖や高血圧を併発しているタイプは動脈硬化の危険度が高いから、コレステロールも中性脂肪も正常値から外れないようにモニタリングせよ。
また、腹部や背中に強い痛みが生じて悶絶するのが急性膵炎。多くはアルコールの飲みすぎが引き金だが、アルコールを飲まないのに急性膵炎を起こすケースもある。その一つが、中性脂肪が多すぎる場合だ。
詳しいメカニズムはまだわかっていないが、中性脂肪による急性膵炎にはどうも持って生まれた体質が関わっているようだ。
「小腸から肝臓へ中性脂肪を運ぶカイロミクロンはとても大きな粒子です。体質的にカイロミクロンを分解する酵素の活性が低いと、分解されないカイロミクロンが膵臓の毛細血管で目詰まりし、血栓のようなものができて炎症が起こるという説があります」
この他、多すぎる中性脂肪から分解された遊離脂肪酸が、膵臓の細胞にダメージを与えることによるという異説も。中性脂肪値が高くて急性膵炎の再発を繰り返すと、最悪命を落とすこともある。薬物治療などで中性脂肪値を下げて、急性膵炎の頻度を減らそう。
家族が高コレステロール値なら要注意。
染色体や遺伝子の異変で起こる遺伝性疾患のなかで、もっとも頻度の高いものの一つが、家族性高コレステロール血症(FH)。
FHでは、細胞の表面でLDLをキャッチする受容体の働きが遺伝的に低下して、LDLを細胞内へうまく取り込めなくなる。そのため血液中にLDLが溢れるようになり、高LDLコレステロール血症に陥る。治療しないと動脈硬化が進行しやすくなり、それによる心臓病(冠動脈疾患)患者の約30人に1人はFHが占める。
FHにはホモ型とヘテロ型がある。ホモ型は両親から受け継ぐ遺伝子の双方に変異があるもので、ヘテロ型は両親のどちらかに遺伝的変異があるもの。
「ホモ型は36〜100万人に1人という珍しい病気(指定難病)ですが、ヘテロ型は300人に1人程度います」
子供の頃からLDL値が高い、親兄弟子供にFHがいる、皮下や腱などに黄色いしこりのようなもの(黄色腫)があるなどの場合、病院で専門的な検査を。FHと確定したら、なるべく早く薬物などを用いた治療を始めたい。
家族性高コレステロール血症患者の心臓病の発症年齢。
FHヘテロ型患者329例のうち、心筋梗塞や狭心症を罹患している101例について、1969〜2007年6月に初めてそれらを発症した年齢を検討した研究結果。男性では30〜40代がもっとも多い。
Harada-Shiba M.et al. J Atheroscler Thromb 2010; 17: 667-674
目元のしこりはカラダの危険信号。
名画『モナ・リザ』の女性をよく見ると、左目の目元に黄色いしこりのようなものが描かれている。
「これはおそらく眼瞼黄色腫。モデルになった女性は高LDLコレステロール血症、もしくは家族性高コレステロール血症(FH)だった可能性が考えられます」
黄色腫とは血中のLDLコレステロール値が高く、酸化されたLDLがマクロファージに食べられて蓄積したもの。目元にできる眼瞼黄色腫以外にも、アキレス腱や手の甲にできる腱黄色腫、お尻や太腿などに多発する発疹性黄色腫、肘や膝といった関節に生じる結節性黄色腫、手のひらや指の腹にできる手掌線状黄色腫などがある。眼瞼黄色腫はFHでなくても起こり得るけれど、腱黄色腫や結節性黄色腫はもっぱらFHによる。
眼瞼黄色腫自体は良性の腫瘍だが、目立つ場所ゆえに見て見ぬふりはできない。「プロブコール」という脂質低下薬を1年以上飲めば必ず小さくなるか消える。
アキレス腱の肥厚化から病気が見つかる。
家族性高コレステロール血症(FH)かどうかを簡便に見分ける方法の一つが、アキレス腱のチェック。FHに多く見受けられるのが、ふくらはぎのアキレス腱が厚くなる肥厚化。
「これはFH特有の腱黄色腫の一種。アキレス腱の肥厚化からFHが見つかることもあります」
アキレス腱が分厚くなるのは、LDLを溜め込んだマクロファージが集まるから。
通常太さ6mm程度のアキレス腱が8mm以上と分厚くなったにもかかわらず、炎症が生じて中身はスカスカになる。
腱は筋肉と骨の付着部であり、本来コラーゲン線維が規則正しく並び強度を保っている。腱黄色腫だと正常なコラーゲン線維が減り急激に弱体化してしまう。アキレス腱肥厚がある患者は、少しの衝撃でアキレス腱断裂に見舞われることもあり得る。