6割失っても蘇る再生力!ハイスペックな臓器・肝臓の不思議。

実はとっても仕事ができてタフな臓器・肝臓。「人体の化学工場」と呼ばれるだけではなく、解毒もするし異物の侵入も防ぐ。知れば知るほど面白い、肝臓の特殊スキル。ただ、この記事を読めば思うはず。「肝臓のこと、もっと労わらなきゃ」と。

取材・文/石飛カノ イラストレーション/野村憲司(トキア企画) 取材協力/泉 並木(医学博士・武蔵野赤十字病院統括管理監・名誉院長)

初出『Tarzan』No.893・2024年12月12日発売

肝臓の働き方
教えてくれた人

泉並木(いずみ・なみき)/武蔵野赤十字病院統括管理監・名誉医院長。専門は消化器内科全般、B型肝炎・C型肝炎や肝臓がんなどの診断と治療を得意とする。日本消化器学会消化器専門医、日本肝臓学会肝臓指導医等多くの資格を持つ。

3本の血管で栄養を吸収。全身に送る。

健康な肝臓はプリプリと張りがあり暗紫色に輝いている。それもこれも大量の血液で満たされているから。肝臓には肝臓固有の動脈と静脈、それに加えて“門脈”という特殊な血管が通っていて豊富な血液が常に循環している。

「他の臓器には酸素を運ぶ動脈と静脈しか通っていません。もう1本の血管、門脈は肝臓特有で小腸から栄養を運ぶ役割も担っています。これが肝臓という臓器の特徴のひとつ」(武蔵野赤十字病院統括管理監・名誉院長の泉並木さん)

口から摂取した食べ物は小腸で最小単位の栄養素に分解され、門脈を経由して肝臓に運ばれる。ブドウ糖は肝臓でグリコーゲンというエネルギー源に変換され、アミノ酸は各種のタンパク質に合成される。食べたものを栄養として吸収し、カラダに必要な物質に作り変えて各所に送る。これこそが人体の化学工場といわれる肝臓の最も重要な働き。

肝臓

右の肋骨の下に位置する肝臓は成人男性で約1.2㎏、女性で約1㎏ある人体最大の臓器。酸素や栄養を運ぶ動脈だけでなく、小腸からの血液を運ぶ門脈、胆汁を胆囊に送る胆管が走っている。

肝小葉

肝臓の最小単位の組織が肝小葉。数十万個の肝細胞が放射状に連なった形をしている。肝小葉には動脈、門脈、細胞の隙間には無数の毛細血管が走っていて、中心には静脈が1本通っている。

お酒や薬の解毒、胆汁づくりも請け負っている。

肝臓は500以上のマルチタスクをこなすスーパーエリート臓器。そのなかでも、前項の栄養素の処理と同じくらい大事な仕事がカラダに有害な物質の解毒だ。

タンパク質の分解や合成の際に作られるアンモニアを尿素に変換して血液中に放出する。薬や食品添加物などに含まれる有害な物質も無毒化し、アルコールが肝臓の酵素で分解される際に作られる有害物、アセトアルデヒドも肝臓の酵素で無毒化される。

さらにもうひとつの仕事は脂肪やタンパク質の分解に不可欠な胆汁を作り出すこと。これがなければ大好きなとんかつや唐揚げを安心して食べられない。栄養代謝、解毒、胆汁生成が肝臓3大タスク。

6割を切り取っても蘇る再生能力を持っている。

とっても仕事ができるうえにタフであることも肝臓の大きな特徴。相当悪くなるまで弱音を吐かないという意味ではない。たとえば手術などでその6割を切り取っても元通りに再生する能力があるという意味だ。メカニズムは詳しく分かっていないが、肝細胞には通常の細胞の2倍、3倍の染色体を持つものがあることが再生力に関係するといわれている。

そして、たとえ肝臓の一部が失われても生体機能が保たれ、500にも及ぶマルチタスクは粛々と実行される。理由は脳のように局所で役割分担をしていないから。

「肝臓の細胞の最小単位である小葉のひとつひとつは、すべての仕事ができると考えていいと思います。小葉の中でも門脈の周辺は酸素や栄養が多くて中心に行くほど酸素が少なくなるという違いはありますが、やっている仕事はどの小葉も同じです」

異物から身を守る免疫力も備わっている。

「小腸は人体最大の免疫器官」とよくいわれる。カラダの外から入ってくる異物をチェックする関所だから免疫の備えは万全。でも、その関所をくぐり抜けて門脈に侵入してくる異物もある。

「たとえば、大腸菌がそのひとつ。こうした外敵を攻撃するのが肝臓に存在するクッパー細胞という免疫細胞です」

ところが肝臓の機能が低下してクッパー細胞が働かないと次のような恐ろしいことに。

「大腸菌が肝臓に到達すると、そこでアンモニアが大量に作られます。肝臓でアンモニアを処理し切れなくなると血液の中にアンモニアが放出され、“肝性脳症”という脳の働きの異常が起こります」

車の運転の反応が遅くなる、計算能力が落ちる、ひどくなると目の前にいる相手が誰だか分からない、自分がどこにいるか分からないといった認知障害が起こるケースもあるという。怖っ。

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