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教えてくれた人
泉並木(いずみ・なみき)/武蔵野赤十字病院統括管理監・名誉院長。専門は消化器内科全般、B型・C型肝炎や肝臓がんなどの診断と治療を得意とする。日本消化器学会消化器病専門医、日本肝臓学会肝臓指導医等多くの資格を持つ。
川口巧(かわぐち・たくみ)/久留米大学医学部内科学講座消化器内科部門主任教授。久留米大学大学院修了後、米テキサス大学、久留米大学医学部准教授を経て2022年より現職。専門は肝臓病の栄養療法と運動療法。
栗原毅(くりはら・たけし)/元東京女子医科大学教授。2008年に生活習慣病予防や治療を目的とした〈栗原クリニック東京・日本橋〉を開院し院長に就任。脂肪肝、高血圧、糖尿病などの対策を一般人向けに解説した著書多数。
目次
カロリーより糖質を気にせよ。
肝臓の病気の入り口、脂肪肝を予防する食事で気をつけるべきはカロリーというより糖質量。というのは、過剰な糖質摂取で血糖値が急上昇し、インスリンの働きで糖質が肝臓にどんどん運ばれ、中性脂肪が合成されてしまうから。
また、肥満になると肝臓で脂肪酸が分解されにくくなるので余計に脂肪が蓄積されやすくなる。さらに脂肪肝は肝炎に移行するだけでなく、肝臓に溜まった脂肪がインスリンの働きを阻害して糖尿病を引き起こすこともあるという。
「血糖値の急上昇をうまくブロックできれば、肥満はもちろん肝臓病や糖尿病など多くの病気を抑えることができると私は考えています」と言う栗原クリニック東京・日本橋院長の栗原毅さんが実践しているのが、主食10%カットという食事法。
「ごはん1杯に含まれる糖質量は約53gですから、これを47gくらいに抑えます。ごはんなら2口くらい残すイメージ。糖質を1割減らしてタンパク質を1割増やすのが理想的だと思います。あまり厳しく制限する食生活は長続きしないので1割、多くても2割程度カットするのがおすすめです」(栗原さん)
ごはんの盛りを少し減らす習慣を。
日本人男性の1日の平均糖質摂取量は250g強。この1割に当たる25gの糖質はごはん約1/2杯に相当する。これくらいの制限なら長続きするはず。
「令和元年国民健康・栄養調査報告」(厚生労働省)より
食べる順番でよく耳にするのがベジファースト。目的は最初に食物繊維を含む野菜を食べて食物の吸収速度を落とし、血糖値の急上昇を防ぐこと。
「でも、野菜を先に食べてしまうと、満腹になって肉や魚など主菜であるタンパク質食品まで到達しないことがあります。だから最初にタンパク質を口にして余裕があったら野菜を食べ、最後に10%オフした主食を食べる。これが脂肪肝を防ぐ理想的な食べる順番です」(栗原さん)
寝る2時間前に糖分を含むものを食べない。糖質の過剰摂取は避ける。そして寝る2時間前はたとえ適量の糖質でも口にしてはならない。武蔵野赤十字病院統括管理監・名誉院長の泉並木さんは次のように述べる。
「寝ているときは筋肉が動かないので糖質を消費できません。摂った糖質はすべて肝臓に運ばれて脂肪として蓄えられてしまいます」(泉さん)
糖質食品はもちろん、お酒も就寝2時間前からは厳禁。
間食をできるだけ控える。食べるなら煎餅よりシュークリーム。
脂肪肝の予防の基本のキは1日3食の食事をバランスよく摂ること。加えて間食しないこと、と泉さん。
「食事をすると血糖値が上がってインスリンが分泌されます。その後大体1〜2時間後に血糖値が下がり、インスリンも下がります。ところが間食をしてしまうとせっかく下がりだしたインスリンが上昇してしまいます」(泉さん)
インスリンの過剰分泌は脂肪肝の原因。間食代わりに1杯のお茶を。
1日3回の食事をした場合、インスリンが下がる肝臓のブレイクタイムがあるが、間食を2回するとインスリン上昇が止まらない。
糖尿病ネットワークHPより
たまのご褒美の間食。さてシュークリームと煎餅、どちらを選ぶ?
「ケーキやアイスなど油脂が入っている食品の方が糖質が少ないんです。しかも脂質が加わることで吸収が遅くなります。そういう意味では煎餅やまんじゅうは糖質が多く含まれていて吸収も早い。肝臓にとっては最悪の間食です」(栗原さん)
煎餅は1枚約20kcalなのに対してシュークリームは約200kcal。でも油脂のおかげで吸収が遅いので肝臓のためには後者を選択するのが正解。
黒酢を賢く活用する。
酢に含まれる酢酸は食物の消化吸収のスピードを遅らせる。これによって食後血糖値の上昇が防げるといういくつかの論文が報告されている。この酢酸の力を利用しない手はない。
「血糖値が急上昇した後、急降下する血糖値スパイクをブロックすることも分かっています」(栗原さん)
オススメ黒酢レシピ | 主食はちょっと贅沢に黒酢仕立て。
果糖の誘惑に勝ちなさい。
繰り返すが過剰な糖質摂取は脂肪肝の原因。その糖質の中で最も取り扱い注意なのが果糖だ。果糖は果物に豊富に含まれる糖類でブドウ糖と同じ単糖類。分解の必要がないため吸収スピードが速い。
また、ブドウ糖が筋肉や他の臓器でも代謝されるのに対して果糖は小腸から吸収された後は肝臓のみで代謝され、過剰分は直ちに中性脂肪に合成される。つまり、摂れば摂るほど脂肪肝まっしぐら。ごはんやパンなど以上に摂り方を工夫したいところ。
人工的な果糖ぶどう糖液糖に比べると天然の果物の罪は断然軽い。食物繊維が含まれている分、吸収スピードが遅くなり、最終的には腸内細菌のエサにもなってくれる。また豊富なビタミンが代謝を助けてくれるし、抗酸化作用が期待できる機能性成分も一緒に摂れる。さまざまな利点はあるが、果糖の補給源には違いない。
「食べるならゲンコツひとつ分。リンゴなら1個、小さいミカンなら2個までが適量です」(栗原さん)
いや、果物はほとんど食べないので果糖の過剰摂取なんてありえませんというあなた。実は加工食品や清涼飲料水に果糖ぶどう糖液糖という人工甘味料がどっさり入っていることをご存じだろうか。この甘味料は50%以上が果糖なので知らないうちに過剰摂取に陥る可能性も。食品ラベルは必ずチェックすべし。
飲料ラベルの一例
品名 | 炭酸飲料 |
原材料名 | 果糖ブドウ糖(国内製造)、ローヤルゼリー… |
炭酸飲料のラベルを見ると果糖ぶどう糖液糖が筆頭に。食品ラベルの表記は含有量の多い順。人工の果糖どっさり。
果糖は体内への吸収が速いが、天然の糖類であるイソマルツロースは吸収が穏やか。久留米大学教授の川口巧さんによれば「砂糖の吸収速度を100とすると、ハチミツに含まれるイソマルツロースという糖質の吸収速度は20です」とのこと。よって脂肪も合成されにくいのだ。
ハチミツに少量含まれるイソマルツロースは砂糖に比べて血糖値の上昇が小さく、しかも上昇カーブも穏やか。
Kawaguchi T, et al. Med Rep. 2018; 18: 2033-2042
高濃度カカオチョコとコーヒーが神。ポリフェノールを味方に。
ポリフェノールとは植物に含まれる苦みや渋み、色素などの成分の総称。自ら移動できない植物は紫外線などによる酸化の害から身を守るため、強力な抗酸化作用のあるポリフェノールを獲得した。その植物を食べてポリフェノールの恩恵に与ってきたのが我々動物。
活性酸素の害を無効化し、動脈硬化などの生活習慣病の予防にも役立つポリフェノールは、実は脂肪肝の予防にもひと役買うという話。ならば、ありがたくいただこうではないか。
カカオ含有量が70%以上の高カカオチョコの摂取を10年前から患者にすすめ自らも実践している栗原先生。
「カカオポリフェノールの抗酸化作用で脂肪肝の酸化を防げること、糖質が少ないこと、また高カカオチョコに含まれる食物繊維による血糖値上昇抑制効果などが期待できます」(栗原さん)
肝臓の血液検査が回復した実例も。
肝硬変へと進行しうる重症脂肪肝のリスクは高血圧や肥満、糖尿病など基礎疾患があることでグンと跳ね上がる。
「1日2〜3杯のコーヒーを摂取すると重症脂肪肝のリスクが大幅に低下することが分かっています。インスタントでもOKです」(川口さん)
今、実際に肥満気味という人はダイエットと同時にコーヒー摂取を。
コーヒーを1日2〜3杯飲む人は脂肪肝のリスクが少なく、重症度も低いことが報告されている。
Catalano D et al. Dig Dis Sci. 2010; 55: 3200-6.
簡単缶詰レシピで魚を食べよ。
科学的根拠が世界で最も認められている伝統食、地中海料理。オリーブオイルを使用し、主食は全粒粉パスタやパン、肉の摂取は少なめで魚と豆とナッツ類を主に食べ、旬の野菜や果物を毎食いただく。こうした食生活を続けることが生活習慣病予防に繫がるという論文が数多く発表されている。
主菜が肉ではなく主に魚という点では伝統的な和食に極めて近いイメージ。脂肪肝の改善にも実は肉より魚をチョイスする方が正解らしい。
「地中海食では体重は減らないのですが、脂肪肝の改善には効果的です。日本人を対象にした食事と肝がんの関連調査では1日70gの魚を摂取することでがんのリスクを低下させることが分かっています」(川口さん)
70gといえば鮭の切り身(小)1枚分。朝食のおかずの定番に。
9万人以上の日本人を対象にした調査。サケ、マス、タイ、マグロ、イワシ、サバ、ウナギなど魚を常食する人ほど肝がんリスクが低い。
Sawada N et al. Gastroenterology. 2012; 142: 1468-75
そこで、魚の缶詰を使用したレシピをご紹介。
「肝臓は常時大量の血液が出入りしている臓器。血液の流れをスムーズにして動脈硬化を予防する作用が期待できる魚のEPAという脂肪酸は、結局肝臓にもいい働きをすると考えられます」(栗原さん)
今夜は魚の缶詰レシピをどうぞ。
いい酒を正しく。お酒は一合までと心得よ。
非アルコール性脂肪肝が近年めきめき増えてきて注目されているのは事実。でももちろん、アルコール性脂肪肝を放置していいというわけではない。やがて肝炎や肝硬変、肝がんへと進行するリスクは非アルコール性脂肪肝と同様。
ちなみに、1日のアルコール摂取が60g以上の大量飲酒者で常習的にお酒を飲んでいる人が脂肪肝になった場合はアルコール性脂肪肝と診断される。この先も長くお酒を楽しみたいなら、肝臓に優しい飲み方を身につけるしかない。
お酒に含まれる純アルコールの計算式は以下の通り。
飲んだお酒の量(mL)×アルコール度数(%)×アルコールの比重の0.8。
ビールロング缶1缶なら、500×0.05×0.8=20gとなる。
厚生労働省によれば純アルコール1日20g程度の摂取が「適度な飲酒」。男性ならば40g以上の飲酒が「生活習慣病のリスクを高める飲酒」とされる。
「私が自宅で晩酌をするときの飲酒量は日本酒1合程度です。男性なら純アルコールで30g程度までが適量とされています。私は1日1合、純アルコールで約20gと決め、それを超えないように心がけています」(川口さん)
純アルコール20g(1合)とは?
アルコール | 度数 | 量 |
日本酒 | 15% | 180mL |
ビール | 5% | 500mL |
焼酎 | 25% | 約110mL |
ワイン | 14% | 約180mL |
ウィスキー | 43% | 60mL |
缶チューハイ | 5% | 約500mL |
7% | 約350mL |
お酒各種の純アルコール量20g分の量。ビールなら中瓶1本、ワインならグラス1.5杯でストップ。缶チューハイのロング缶を飲みたい人は5%で。
「飲み放題の居酒屋では人工甘味料などの添加物が配合されているサワーや原材料が不明なお酒を提供しているケースがあります。肝臓はアルコール分解に忙しいので、添加物や不純物の解毒というさらなる負荷をかけてしまうことになります」(栗原さん)
よってこの手の店ではビールはジョッキより栓のついた瓶でオーダー。
酒の飲み方も工夫しよう。栗原さんお墨付きのハイボールで満腹感を得る方法。グラスに氷を多めに入れて1、2杯目はウィスキー1に対して炭酸4の割合で混ぜて飲む。3杯目はウィスキー1:炭酸5の割合で飲み、〆の2杯は炭酸水のみでフィニッシュ。1杯180mLとして純アルコール量にすると30g未満。しかも炭酸でお腹いっぱい。
この先も長く飲みたいなら休肝日は最低週2回はとってほしいもの。
「お酒を飲むということは肝臓を働かせるということ。ヒトでの研究が難しいので科学的根拠はありませんが、意識的に週2回休肝日をとれるような人はアルコール依存にも脂肪肝にもなりにくいと考えられます。週末まとめてというより日をバラしてこまめに肝臓を休めましょう」(泉さん)
休肝日にはノンアルタイプのお酒を利用する手もありだ。
おつまみは「お酢まみ」に。締めは味噌汁で。
「つまみで要注意なのはポテト系。芋類のでんぷんは糖質の塊なので脂肪肝のリスクが高まります」(栗原さん)
一方、酢に含まれる酢酸が肝臓への中性脂肪の蓄積を防いでくれる。そこでおすすめなのが酢を利用したおつまみならぬ「お酢まみ」。自宅飲みの際はぜひ活用を。
なるべく避けたい「おつまみ」
ポテトサラダにフライドポテトに肉じゃが。居酒屋の定番メニューだが、主役のジャガイモは高糖質食品。お酒とのダブルパンチ。
おすすめの「お酢まみ」
そして、〆にラーメンが食べたいときは今飲んでいる店で味噌汁を1杯注文。ラーメンが食べたくなるのは糖質代謝が後回しになって低血糖状態になるから。そこに糖質たっぷりのラーメンを食べれば当然脂肪肝に。
「アミノ酸やビタミンが豊富な味噌汁なら栄養と水分が補給できて太る心配もありません」(栗原さん)
二日酔い防止または改善策として信奉されているウコンやシジミ。でもこれらの過剰摂取は逆効果。
「ウコンやシジミのサプリメントに含まれる鉄を過剰摂取すると、肝臓に鉄が蓄積されて活性酸素を生成し、肝細胞を攻撃すると考えられています」(栗原さん)
とくに軽度のウイルス性慢性肝炎を患っている人、肝臓に関する血液検査が芳しくない人は要注意。肝硬変に進行してしまうリスクもある。
運動不足は大敵なのだ。
糖質食品や果糖、アルコールといった食習慣を片方の車輪とすると、もう片方の車輪は運動。ダイエットと同様に肝臓の養生も食事と運動の両輪がなければ進まない。
運動が必要な理由は筋肉が糖質をエネルギーとして消費してくれるから。極端に言えば、多少糖質を摂り過ぎたとしても運動でその分消費してしまえば肝臓に脂肪は溜まらない。とはいえ、言うは易し行うは難し。どう運動すれば脂肪肝を改善・予防できるのか?名医たちに伝授してもらおう。
有酸素運動と筋トレ、どちらにも脂肪肝を改善する効果があるとされている。ならば、ライフスタイルに合わせて両方取り入れることができれば理想的だ。
「有酸素運動は1日最低15分、できれば30分行うことをおすすめしています。私自身は平日の朝、ちょっと汗をかくくらいの速足で15分歩いています。さらに、朝と夜にはスクワットを20回ずつ行っています。それに加えて週末はゴルフに行くことが多く、ほとんどカートに乗らずに7㎞程度歩いています」(泉さん)
平日は有酸素運動と筋トレ、週末はスポーツで大きな筋肉を使う運動を。
71歳の脂肪肝患者のデータ。肝炎体操を始めてから60週間の肝機能数値の変化を見ると、肝臓の線維化を示すFIB-4インデックスが60週間後、正常値まで低下した。
Hashida R, Nakano D, Matsuse H et al. JGH Open. 2023 Feb 20;7(3):231-234.
今さらだが、脂肪肝を治す薬は今のところ存在しない。だから食事と運動で自助努力をする必要がある。とくに最近では減量なしで運動だけでも確実に脂肪肝が改善することが分かってきた。
これまでに有効性が認められてきた運動を厳選して作られた「肝炎体操」。(関連記事:名医が教える、肝炎に効く体操。)久留米大学医学部の消化器内科、整形外科やリハビリテーション部が共同で開発したプログラムだ。
「肝炎体操を行うことで筋肉から分泌されるマイオカインの一種であるフラクタルカインが増加し、肝がん細胞の増殖を抑制する効果が期待できると考えられています」(川口さん)
運動は跳んだり走ったりするだけでなく、日常生活活動も大事なピース。ところが会社で役職が上がっていくほど座っている時間が長くなり日常生活活動が減っていく。
「会議が多くてずっと座っている。これがいけないんです。頻繁に立ったり座ったり、会議はリモートではなく相手のところに出かけていって対面で行う習慣を」(泉さん)