より「心に効かせる」ために、覚えておきたいヨガの哲学・八支則。

ヨガの起源はなんと紀元前までさかのぼり、心を整えるメソッドとして誕生した。その壮大なヨガの世界に足を踏み入れてみよう。ポーズと哲学「八支則」をクルマの両輪のごとく知ることで、あなたのヨガはレベルアップする。

編集・取材・文/山本加奈 撮影/内田絋倫 スタイリスト/荒木義樹 ヘア&メイク/潮 良子 監修・取材協力・ポーズ指導/中村尚人 ポーズ実演/Juri Ko、Yohei Yamaguchi

初出『Tarzan』No.890・2024年10月24日発売

教えてくれた人

中村尚人(なかむら・なおと)/理学療法士として12年間医療・介護の業界に携わる。ヨガとピラティスの資格を取得後、予防医学の啓蒙、実現のため八王子に〈studio TAKT EIGHT〉を立ち上げる。

「八支則」という実践法。暴走する心を飼い慣らせ!

ヨガ

ヨガは実はポーズだけでなく、生活全般の必需品のようなもの。伝統的なラージャ・ヨガでは、道徳的な教えや呼吸法、瞑想法などを含む8つの実践法「八支則」を定めている。ちなみに、ポーズはサンスクリット(古代インドの言語)で「アーサナ」と言い、瞑想を行うための姿勢法を意味する。

さっそく「八支則」をひもといてみると、初めに取り組むのは「行動のヨガ」にある、ヤマとニヤマ。日常生活における道徳的な心得のようなもので、人間関係や精神的な成熟など、人として成長するための土台作りのフェーズ。「噓をつかない」や「知足」など、誰もが取り組みやすい内容だ。

続いて「カラダのヨガ」へと進む。ここで初めてヨガのポーズ、アーサナが登場する。身体の鍛錬の後は、より繊細な内側の感覚を制御するように、実践は進む。

「アーサナはカラダから心への架け橋です。集中してポーズ(の精度)が深まると、肉体感覚の中に心の感覚がクロスしてきます」

そして最終的に取り組むのが「心のヨガ」。ここではカラダを一切動かすことなく呼吸に集中し、ダーラナー(集中)、ディヤーナ(瞑想)、そして究極の境地サマーディ(三昧)を目指すのだ。

壮大なヨガの世界観「八支則」

『ヨーガ・スートラ』に記された8つの実践方法。ポーズにあたる「アーサナ」は3つ目に登場。

 ●行動のヨガ

【ヤマ】他者やモノとの付き合い方。やってはいけない5つの心得。
【ニヤマ】自分との付き合い方。実践すべき5つの心得。

●カラダのヨガ

【アーサナ】ヨガのポーズ。瞑想のための姿勢法。
【プラーナヤーマ】呼吸法。呼吸を通じて心身を浄化しエネルギーを巡らせる。
【プラティヤハーラ】制感。感覚を制御し、周りに左右されない状態。

●心のヨガ

【ダーラナー】集中。一点に意識を向ける、瞑想の初期段階。
【ディヤーナ】瞑想状態。集中のための努力さえ雲散霧消する。
【サマーディ】三昧。至福の境地。完全に心が静まり、エゴのない状態。

時代に適合しながら進化する伝統ヨガと近代ヨガ。

ヨガ

時代が下ると、この東洋の心とカラダの修練法である「伝統ヨガ」は欧米に見出され、ビートルズなどのセレブが夢中になったことで一気に広まった。

アメリカではヨガがフィットネスと融合し、哲学や難しい理論を抜きにした、心身の調子を整えるエクササイズ「近代ヨガ」として、爆発的に広まる。現在スポーツジムで行われているヨガの多くはこのスタイルで、ビンヤサヨガやパワーヨガなどたくさんの種類がある。

どのスタイルでも「カラダへの意識を取り戻す」という大きなメリットがあると、中村さんは言う。

「現代は膨大な情報にさらされて、頭ばかりを使うライフスタイルに偏り、カラダからのサインを見逃しがちです。するとカラダと心はどんどん乖離し、悩みは深まるばかりです。日常ではあまり行わない動作を通じてカラダへの意識を取り戻していきましょう」

「行動のヨガ」ヤマとニヤマ|ポーズの前に知っておきたい、ヨガの教え。

古のヨガの教えは、不確実性に満ちた現代社会でも役に立つものばかり。ポーズの前に、日常で実践できるのが「行動のヨガ」。人生の方向性が見えてくる10の知恵を紹介。

ヤマ|人間関係における5つの心得
●サティヤ

真実を語ること。噓をつかず、誠実なコミュニケーションを心がけよう。しかし正直であると同時に真実を伝える際には、相手への配慮や優しさ(アヒンサー)が先に立つように気をつけたい。人間関係に悩む心に響く教えだ。

●アスティヤ

誰かの物理的な物だけでなく、時間や権利、エネルギーやアイデアを盗まないこと。常に誘惑が渦巻く現代の消費社会にこそ、搾取の代わりに感謝の心を育てていきたいものだ。約束に遅刻するのも、アスティヤに当てはまる。

●アヒンサー

非暴力。他者や自分、あらゆる生命を傷つけないこと。ヨガの実践者にヴィーガンが多いのもアヒンサーの考えから。ガンジーがインドの独立運動の際に基盤に据えた思想としても有名だ。言葉の暴力にも気をつけよう。

●ブラフマチャリア

禁欲。パワフルなエネルギーである性欲に溺れないようにしよう。しかし同時に家族をつくったり、適切に使うことも大事だという。度を超えた禁欲は精神の不安定につながり、予期せぬ反動に襲われる危険も。

●アパリグラハ

貪欲にならない。執着は「もっともっと」という底なしの恐ろしさがある。そして過度な所有や欲望は、やがては精神的な負担を増やしてしまう。引き算の哲学「Less Is More(余白こそが豊かさを生む)」とも通じ合う。

ニヤマ|実践すべき5つの心得
●サントーシャ

知足。すでに満たされている事を知り、「ない」ではなく「ある」という視点を育てよう。朝に太陽の光を浴びる瞬間や、家族や友人との何気ない会話など、些細な出来事に感謝してみると、心の充足感が爆上がりする。

●スヴァーディヤーヤ

学びを深めること。ヨガの古典や文献を学ぶことで、自己理解を深めることが本来の教え。現代社会の場合、自分の知識やスキルを絶えずアップデートし続ける姿勢を持ち続けること。人生100年時代の思考法としてぴったりかも。

●イーシュワラプラニダーナ

大いなる存在への信頼。宇宙や自然、人類の理解を超えた法則が確かにある。私たちにできるのは、過程に真剣に向き合い、全力を尽くすことだけ。結果はコントロールできないことを理解する。

●タパス

やるべきことを淡々と行うこと。よく「苦行」と訳されるが、ブッダが説いたように、身体的な苦行は悟りへの道ではない。大事なのは、チャレンジを楽しむ精神力と、人生の出来事に対応できる強さを心身ともに鍛えることだ。

●シャウチャ

清潔を心がける。部屋を片付けたり、カラダを清潔に保つことで、心がスッキリする感覚は誰もが経験するところ。外側を磨くことで、内側も自然に輝いてくるものだ。ネガティブな感情を手放すこともシャウチャに当てはまる。

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