カラダのバランスはピラティス。心のバランスはヨガで整えよう。

ピラティスのルーツを辿ると、行き着くのはヨガ。その起源はなんと紀元前までさかのぼり、心を整えるメソッドとして誕生した。ピラティスでカラダを整えた後は、ヨガで調和した心身一如を目指そう。

編集・取材・文/山本加奈 撮影/内田絋倫 イラストレーション/ハニュウミキ 監修・取材協力・ポーズ指導/中村尚人

初出『Tarzan』No.890・2024年10月24日発売

教えてくれた人

中村尚人(なかむら・なおと)/理学療法士として12年間医療・介護の業界に携わる。ヨガとピラティスの資格を取得後、予防医学の啓蒙、実現のため八王子に〈studio TAKT EIGHT〉を立ち上げる。

ポーズだけじゃない!ヨガとは心を穏やかにする生き方の処方箋。

ヨガの歴史は古く、奥深い。古代インドの哲学や思想をルーツとする「ヨガ」の語源は「ユジュ」。「結ぶ・繫ぐ」を意味し、カラダと心を一つに結びつけ、精神的な悟りを追求する修行法がその出発点だ。

これらの教えを体系化したのが聖人パタンジャリ。紀元前3世紀頃に編纂されたとされる『ヨーガ・スートラ』に、その実践法が綴られている。この伝統的なヨガの流派は「ラージャ・ヨガ」と呼ばれ、すべてのヨガの源流だ。特徴的なのが、心に働きかけ、苦しみから自由になり、幸せに生きることを目指すところにある。『ヨーガ・スートラ』には「ヨガとは心の動きを止めること」とある。

「心が妄想に囚われると、苦しみが生まれます。その暴走する心を落ち着かせる実践法が、ヨガなんです」とは、理学療法士でヨガ・ピラティスインストラクターの中村尚人さん。現代ではヨガのポーズばかりが注目されがちだが、ヨガは心に効く、生き方の処方箋だったのだ。

自分のコンディションを知り、3つの質のバランスを取り戻せ。

ピラティスがカラダのバランス調整に特化する一方で、ヨガは心の調和を重視する。「心なんて思い通りにならないし?」という声が聞こえてきそうだが、ヨガには四千年の歴史で培われた知見がある! ヨガの世界では、森羅万象は「3つの質」のバランスで成り立っていると考えられている。この3つの質とは「ラジャス=激質」「タマス=鈍質」、そして「サットヴァ=純質」だ。

たとえば、ラジャスが優位な時はイライラしたり、やけにハイな気分になる。一方でタマスが強くなると、引きこもりがちになったり、ダルさを感じやすい。そして、サットヴァが優位になると、心が安定し、穏やかさが訪れるとされる。

ヨガ 3つの質 

試しに、自分の状態をチェックしてみよう。立ち上がり、両手を上げて軽く上を見ながら1分間キープ。

「これもヨガのポーズの一つなのですが、1分もやれば筋肉が疲労を感じたかもしれません。カラダに刺激を加えると、必ず反応が表れ、続いて心にも反応が起こります」

さて、あなたの心は「やり通すぞ!」と燃えるラジャス的な反応か、それとも「もうムリ」と諦めムードのタマス的な反応だっただろうか?

「大事なのは、どれが良い悪いではなく、自分の反応に気づくこと。頑張りすぎる人は少し力を抜く。すぐに諦めた人は、もう少し粘ってみる。そうすることで、3つの質のバランスが整い、心に調和が生まれます」

ヨガと相性のいいスポーツは自分と向き合うゴルフや野球。

トップアスリートともなれば、身体能力や技術の差はわずか。勝負を分けるのはメンタルの強さだ。野球でフルカウントの場面に立つピッチャーがプレッシャーに打ち勝つことができるのは、いかに平常心を保てるか。そのため、心のトレーニングに向いているヨガを取り入れる選手も多い。また、アメリカの多くのゴルフ場にはヨガスタジオが併設され、心を整えるメソッドとして普及している。

メンタルの強さをヨガ的に解釈すると、心のノイズを取り払い、心身の感覚を鋭く理解し、冷静に対応する力だと言えるだろう。

「呼吸や内臓など体内の感覚を内部感覚と言います。足の裏を踏ん張った時の圧覚、肘の曲がり具合を感知する関節感覚、口渇感や心臓がバクバクしている時の血流の感覚など。カラダには言葉を超えた多くの情報があり、ヨガはこの内部感覚への感度を高めるのにうってつけで、続けるほどにその感度は鍛えられます」

精神力が必要なのは、なにもアスリートに限った話ではない。不条理な社会を日々サバイブするビジネスパーソンこそ、ヨガで自分と向き合う力を養うことは、大きな恩恵となるはずだ。

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