3人のスペシャリストが語る、自体重トレの魅力。
体重=自分の重さ。身一つで鍛えられるトレーニングを推す理由は、いくつもある。カラダ作りを究める3人に、そのベネフィットを語り尽くしてもらった。
取材・文/井上健二 撮影/吉松伸太郎
初出『Tarzan』No.887・2024年9月12日発売
教えてくれた人
岡田 隆(おかだ・たかし)/日本体育大学体育学部体育学科教授、同大ボディビル部顧問、理学療法士、博士(体育科学)。第一線の研究者でありながら、現役ボディビルダーとして活躍。カラダ作りの重要性を広めるため骨格筋評論家「バズーカ岡田」として各種メディアで積極的な情報発信を続ける。
ハタノハタ/2022年、横山和紀と〈モンタナ〉を結成。自宅×自体重トレで鍛えた5年間の実績をもとに、吉本興業所属タレントと一緒にトレーニングできる〈クリスタルジム〉にてパーソナルトレーナーとしても活動している。今後はボディビル大会にも積極的に参加する予定だ。
岡部 友(おかべ・とも)/スパイスアップフィットネス代表。本場アメリカで運動生理学と解剖学を学び、フロリダ大学在学中にプロアスリートを指導できるNSCA-CSCSの資格を獲得。全国展開するパーソナルジムで、女性をメインターゲットとして美尻に特化したトレーニング提案を行っている。
場所を選ばないから、部屋でも公園でもどこでもできる。
岡部 友さん(以下、岡部)
ボディビルダーの岡田先生、ぶっちゃけ自体重トレをどう見ていますか?
岡田 隆さん(以下、岡田)
僕は自体重トレ肯定派ですよ。場所を選ばないから、部屋でも公園でもどこでもできる。ジムに通う時間も節約できるから効率的。ボディビルという競技特性上、僕はウェイトを使ってトレーニングしているだけ。しんどいから早くビルダーを引退したいと思っているくらいです(笑)。
岡部
いつか現役引退したら、自体重トレだけでいい?
岡田
本気でそう思います。ディーププッシュアップ、ロープを引っ張るロープトレ、階段ダッシュの3種目だけで健康な体型は保てる。これにウェイトトレを組み合わせるのが最強です。今はボディビルのウェイトトレがキツすぎてその反動でコメントしている気がします(笑)。
岡部
私も運動をライフスタイルに取り入れる入り口としては、自体重トレが手軽で理想的だと思う。
自宅での腕立て伏せだけでこの大胸筋を作った。
岡田
ビルダー並みのカラダ作りは自体重では無理だろうと考えていたんですが、その確信が揺らぐ衝撃的な人との出会いがありました。それがこの人、クリスタルジムの芸人トレーナー・ハタノハタさん!
ハタノハタさん(以下、ハタノ)
よ、呼んでいただいて恐縮です!
岡田
まず論より証拠。Tシャツ、脱いでもらっていいですか?
ハタノ
は、はい!
岡部
大胸筋、エグいですね!
岡田
ヤバすぎるでしょ。ハタノさんは自宅での腕立て伏せだけでこの胸を作った。トップビルダーでもこんな大胸筋の持ち主は珍しい。
岡部
腕立ては何回くらい?
ハタノ
この5年間、2日おきに1日1000回やっています。
岡部
スゴすぎる。なぜそんなに腕立てをやろうと思ったんですか?
ハタノ
学生時代はずっとスポーツをやっていて、芸人になって運動をサボったらカラダが緩んで。そこで学生時代、雨天時の自主トレで取り組んでいた腕立て、フッキン、背筋を自宅でやり始めたら、腕立てだけが妙に効いている感じがありました。
岡田
大胸筋の反応がとくに良かったからそこに集中したと。
岡部
1000回も続けられるトレーニングだと筋肥大にはつながりにくいというのが常識ですよね。
Hatano’s BEST《デクラインプッシュアップ》
爪先を台に乗せ、両手をバー(か台)に乗せてプッシュアップ。「初めに300回やり、5分ずつ休んで400回を2セット行います」。
岡田
運動生理学的にはそうなんですが、1000回というのはある種限界を超えている。限界を超えたトレーニングには、理論を超えた力が宿るのかも。それにハタノさんの腕立てはストレッチをかけています。
岡部
あ、自宅でプッシュアップバーを使っているんですね。
ハタノ
バーを握り、足を台に上げてデクラインでやります。
岡田
バーを用いると稼働域が広くなり、ジムでのベンチプレスより大胸筋がストレッチされます。体験的にストレッチ刺激を加えてやると、ハタノさんの大胸筋のような丸くてバランスの良い筋肉が養われる。
岡部
大会、出ないんですか?
ハタノ
23年、『ジュラシックカップ』のノービスクラス(コンテスト初出場者が対象)に出場しましたが、43人中10位でした。
岡田
大胸筋が突出している分、他の筋肉が見劣りするから、全体的な評価は下がっちゃうんだろうなぁ。
ハタノ
下半身が貧弱と指摘されました。とくにお尻。岡部さんにはぜひお尻の作り方を伺いたいです。
岡部
スクワットは下半身全域に効くので、お尻だけを強化したいなら、ヒップスラストと片脚のブルガリアンスクワットで股関節を伸展させる感覚を摑んだ方がいい。ヒップスラストの1RM(一度にできる最大の重さ)を上げると、スクワットの1RMも上がることがわかっています。この2つをマスターしたら、片脚のルーマニアンデッドリフトをプラスしましょう。
Okabe’s BEST《シングルレッグ・グルートブリッジ》
仰向けで両膝を立て、片膝を引き寄せながらお尻を上げる。「軸脚の膝を少し外側に出すと稼働域が広がり、お尻によく効きます」。
ウェイトを担ぐ前に、自体重で徹底的にやるべき。
ハタノ
お尻とかの下半身は、やはりジムで重たいウェイトを持った方がいいのでしょうか。
岡田
下半身の筋肉は大きい分、ウェイトで高重量をかけないとビルダー並みの筋量は確保できない。
岡部
かといって重たいウェイトに飛びつくと、重りを上げることに意識が向きすぎてフォームが狂う。
岡田
そこがムズいんですよ。
岡部
筋肉と関節が正しく動いた結果、ウェイトが上がるということをカラダで覚えてほしい。ブルガリアンでも、お尻にもっとも効く足の位置はピンポイントで1か所しかない。そこから5㎜前でも後ろでもダメ。そうした繊細なフォームを身につけるには、ウェイトを担ぐ前に自体重で徹底的にやるべき。そこを丁寧に行うクライアントさんほど早く重たいウェイトが持てます。
ハタノ
勉強になります!
Okada’s BEST《デクラインプッシュアップ》
爪先を台に乗せ、両手をバー(か台)に乗せてプッシュアップ。「初めに300回やり、5分ずつ休んで400回を2セット行います」。
岡田
でも、腕立てと同じように1000回やったら、自体重のブルガリアンでもコンテストレベルの大臀筋に仕上がるかもしれない。
岡部
両手に15㎏持ってブルガリアンができるクライアントさんも、自体重だと40〜50回が限界。その20倍超えなら、可能性ありそう。
岡田
自体重トレで作った筋肉でどこまでコンテストレベルのボディに肉薄できるのか。ビルダーとしても研究者としても興味がある。今後も自体重トレを追求してください!
ハタノ
ありがとうございます!