置かれた場所で咲かなくてもいい。専門医が教える、心が壊れる13の悪いクセと改善方法

カラダと心は表裏一体、ストレスはやがてカラダにも及ぶ。ここでは心の不調につながるクセに着目。一見前向きな考え方が、自分を追い込んでしまうことも。自分の行動やスタンスと照らし合わせてみよう。

取材・文/井上健二 イラストレーション/moi. 取材協力・監修/藤野智哉(精神科医)、本間龍介(スクエアクリニック副院長)

初出『Tarzan』No.881・2024年6月6日発売

ココロが壊れる 悪いクセ 改善方法
教えてくれた人

藤野智哉さん:ふじの・ともや/精神科医、公認心理師。精神神経科勤務の傍ら、医療刑務所の医師や看護学校の非常勤講師として勤務。自ら心臓に障害を抱える背景を踏まえて、精神科医としての知見を広く発信。生きづらさを抱える人たちを支えている。

本間龍介さん:ほんま・りゅうすけ/抗加齢医、医学博士。スクエアクリニック副院長。日本抗加齢医学会専門医、米国抗加齢医学会フェロー、日本医師会認定産業医。世界の最先端医療に詳しく、アンチエイジングの最新の知見に基づく診察と治療を行う。

「いい人」でいたいと思う

他者評価に惑わず、自分本位で生きよう

マナーやルールを守り、他人に優しく、尊重するという意味では、誰しも「いい人」であるべき。悪人を気取る必要はない。

ただ、生きづらさを抱える人がなりたい「いい人」とは、往々にして他人から好かれるような人間というニュアンスが強い。

「彼らの“いい人”の基準は、自己評価ではなく他人からの評価。自分が好きでもない人にまで好かれようとすると、媚を売ったり、都合のいい人間になったりして、自分らしくいられなくなります」(精神科医の藤野智哉さん)

大切なのは、自らのありのままを受け入れて愛すること。生きづらさを感じるなら、ことさら「いい人」でいることの呪縛から離れ、もっと自分本位で生きていい。

「自分を愛せる人は、他の人も深く愛せる。他者に配慮して敬える人へと成長できるのです」

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よく爪を嚙む

ストレスを言語化。ブツブツと呟く

知らないうちにやる悪癖の一つに爪嚙み(咬爪症)がある。

「原因は人それぞれで一つに絞るのは難しいのですが、一般的にバックグラウンドにはやはりストレスがあるといわれています」

咬爪症、毛髪を抜く抜毛症などは「自己刺激行動」の一種。軽い痛みなどの刺激により、ストレスやイライラする感情を発散していると解釈できる。

咬爪症や抜毛症があるなら、「自分には解消したいストレスがあるんだ」と気づいてみよう。それが出発点だ。

自己刺激行動は、「何となくむしゃくしゃする」などのように言語化が不十分だったり、うまく整理できなかったりするストレスの発散に行われるケースが多い。

「僕自身もストレスを感じることはあります。そういうときは、不平不満を一人でブツブツ呟くうちに気持ちが軽くなります」

何事も合理的に捉える

現実社会には不合理な部分もあると覚悟する

何でも合理的に捉えて、無駄を避けたくなるのは、理不尽で想定外の出来事が怖いから。

「凶悪事件が起きた際、“被害者側にも落ち度があったのでは?”という意見が出るのは、どこかにそうあってほしいという願望があるから。通り魔のような不条理な事件に出くわすと、多くの人は大きな不安を抱えてしまいます」

現実世界は白黒だけではないし、不条理なことも起こり得る。そう覚悟することも、心を穏やかに保つために欠かせないのかも。

「怒り」をムリして抑える

感情を紙に書いて吐露。破ってゴミ箱に捨てる

「怒り」に限らず、感情は自然に湧き上がってくるもの。蓋をして抑えつけるのは難しい。

かといって怒りの感情を、あたり構わず攻撃的に撒き散らしていたら、人間関係は悪くなる一方。

どう対処すべきなのか。

「僕は怒りが湧いたら、その感情を紙に書いて破り捨てて処理しています。最近、名古屋大学の川合伸幸教授らの研究で、その方法が科学的に正しいとわかりました」

実験では、小論文をわざと酷評して怒りの感情を呼び起こした被験者(大学生)に、素直な感情を紙に書いてもらい、その紙を捨てる群と保管する群に分けて調べた。

すると前者だけで怒りの感情が抑えられたという。紙に書いて捨てるだけなら簡単。怒りはこうして穏便かつ平和的に解決しよう。

怒りの度合い

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怒りの感情を書いた紙をただ保持した群と、ゴミ箱に捨てたり、シュレッダーにかけたりした群を比較。「正と負の感情表」という指標で評価した結果、後者の方が怒りの感情は抑えられた。

出典/Yuta KANAYA, Nobuyuki KAWAI: Anger is eliminated with the disposal of a paper written because of provocation; Scientific Reports 2024

「置かれたところで咲く」と考える

逃げたり、環境を変えたりしてもいい

「石の上にも3年と言いますが、それは一種の“生存者バイアス”によるもの。辛い環境に耐えて、学びを得て成功する人(生存者)もいるでしょう。

でも、ブラック企業なのに“いまの職場で咲く”と決めて耐え忍んだ挙げ句、心が壊れる人もいるという事実から目を逸らしてはいけません」

逃げたり、環境を変えたりするのは恥でも卑怯でもない。休職してもしんどいなら、もっと自分が輝ける職場、心が安らげる場所を求めて転職するのもアリ。

しんどくても飲み会に出る

SOSのサインに気づき、防衛ラインを設定

自らの心はいまどういう状況か。それを知るヒントは、何気ない普段の生活習慣にある。

掃除や片付けなど、朝飯前にできていたことが億劫になってきたら、心からのSOS。些細なことで子供を怒ったりするのも、心が疲れているサインだ。

アラームが鳴っているのに、気が乗らない飲み会に鞭打って出たり、同僚の残業に付き合ったりしないこと。

「これまでの経験に照らして、どんなサインが出たら危ないのか、自分なりの防衛ラインを引き、それ以上ムリしないでください」

粘り強く何事も諦めない

自らのキャパを知り、それ以上抱え込まない

粘り強く最後まで頑張ろうとする態度は素晴らしいが、背後に「0か100か」という認知(モノの捉え方)の歪みが隠れていることもある。

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できるか(100)・できないか(0)の二者択一で自らに妥協を許さないと、心がしんどくなりやすい。40でも60でも成功だと緩く捉えれば、ストレスを抱え込む恐れはうんと減る。

「自らのキャパを知り、自分だけでは手に負えないという線引きをする。それを超える部分は、早めに他人に助けを求めましょう」

体組成計に毎日欠かさず乗る

ルッキズムの代償に失うものを直視せよ

韓流スターやインフルエンサーの肉体美をSNSなどで見ると、羨望の眼差しを向けたくなる。

だが、ルッキズム(外見至上主義)に毒されて、「もっと筋肉ムキムキになりたい」とか「くびれを作りたい」と高い理想を追うのはNG。過激なダイエットで拒食症や過食症に陥ることも。

「同世代より多少太っているとしてもあなたはあなたのままであり、本来の価値は変わりません」

悪しきルッキズムから脱する手軽な方法は、理想の体重や体型を実現するプロセスと引き換えに、何を失うかに目を向けること。

「ストイックすぎるダイエットで大好きなスイーツを諦めたり、筋トレに時間を取られて友人関係が疎遠になったりすると、人生で大事なものを損なう。それで幸せなのかを冷静に考えてください」

SNSの「いいね」が気になる

アイデンティティは自分の物差しで作る

「自らに肯定的、受容的であることは重要ですが、そこへSNSでの“いいね”のような他者の尺度を入れてしまうのはおかしい」

他者の物差しを使わず、自らアイデンティティの輪郭を作り上げるうえで有効なのは、絶対に失いたくないものを見つける作業。

「家族や健康など、決して失いたくないものを書き出してみると、自然と優先順位が低いものが排除できるようになり、自分の本当の姿が見えてくるでしょう」

理想はできるだけ高く持つ

等身大の目標を立てて、成功体験を積み重ねる

理想や目標がある方がやる気はアップするけれど、高すぎる理想や目標は実現するのが難しいから、途中で挫折して意欲が低下するきっかけになりかねない。

「それだと自己肯定感が下がりやすい。まずは達成する確率が高く、手が届きそうな等身大の目標を立ててから、一つひとつクリアしてください。

こうして小さな成功体験をコツコツ積み重ねていると、自己肯定感が高まり、仕事や人生の満足度が上がります」

何事にも自分一人で 対処する

いざというとき頼れるサポーターと絆を作る

いざというときに頼れたり、黙って話を聞いてくれたりする人の存在は貴重。一人で抱え込まず、相談できる相手がいるとストレスはマネジメントしやすい。

自分には頼れる人はいない…などと悲観するのは早合点。

「僕の患者さんにも、“自分は一人で、頼れる人はいない”とおっしゃる方もいます。しかし、“あなたが助けてあげたいと思う人はいませんか?”と尋ねると、多くの方は“います!”と答える。

助けたいと思っている人は、あなたの窮地を救ってくれるサポーターとなる可能性があります」

大切な存在なのに疎遠になっている人がいたら、「最近どうしてる?」とメールを送ろう。そんな些細な交流が、将来の自らの窮地を救う手がかりとなるかも。

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失敗するのが怖い

失敗を想定外にせず、前提として計画する

失敗のない完璧な人生などありえない。ノーミスを追求すると、ちょっとしたミスで「こんなに頑張ってきたのに」と嘆き悲しむハメになり、心がボキッと折れてしまうのがオチ。

「失敗が最初から“想定外”だと、いざ何かミスをしたときに未知の状況に置かれてしまい、パニックになってしまう。人間は誰でも失敗して当たり前。失敗を前提に、ミスしたときにどうするかを事前にシミュレーションしておけば、失敗を過度に怖がり、不安を抱えるリスクも減らせます」

自宅と仕事場の往復で過ごす

気分がすっきり晴れるサードプレイスを設ける

忙しくて仕事場で遅くまで働き詰めだと、平日は自宅に戻ってもただ寝るだけで終わりがち。週末も疲れ切って自宅から出ないと、自宅と仕事場の往復で一週間が終わる。そういう生活を続けると、ストレスが溜まり心は蝕まれる。

「自宅と仕事場という2つの世界しかないと、仮に仕事でポカをして上司から𠮟責されたら、人生の半分がボコボコになる。ジムでも趣味の集まりでも、自宅と仕事場以外の居場所である“サードプレイス”で気分を変えましょう」

健康のために植物性食品を食べる

肉類などから脳を元気に保つアミノ酸を摂る

健康のため、野菜や大豆食品などの植物性食品ばかり食べる人もいる。長期的に続けると、メリットよりデメリットが大きいかも。肉類などの動物性食品の完全カットを長く続けると、むしろ心の健康に悪影響が及ぶこともある。抗加齢医の本間龍介先生はこう語る。

「脳内で働く神経伝達物質のセロトニンやドーパミンなどは、トリプトファンというアミノ酸から合成されます。トリプトファンは体内では合成できない、食事から摂り入れるべき必須アミノ酸。大豆食品にも含まれますが、肉類の方がより効率的に摂取できます」

セロトニンは気持ちを安定させてくれるし、ドーパミンは達成感などの幸せな気持ちを高める。健全な心身のために、植物性食品も動物性食品も偏りなく食べよう。