自分でコントロールできないのはなぜ? 依存がエスカレートする理由
ストレス解消のつもりで始めたお酒やたばこ。気づけば、手放せない存在になってしまった。それどころか量が日々増えている…。なぜどんどんエスカレートしてしまうのか、脱する術は? 依存治療の専門医、松本俊彦先生、教えてください!
取材・文/石飛カノ イラストレーション/川崎タカオ 監修・取材協力/松本俊彦(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長)
初出『Tarzan』No.881・2024年6月6日発売
松本俊彦先生
教えてくれた人
まつもと・としひこ 精神科医。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長兼薬物依存症センター・センター長。薬物依存や自傷行為に苦しむ人を対象に診療を行う。『世界一やさしい依存症入門』(河出書房新社)など著書多数。
依存ココロさん
相談者
40代。IT企業の中間管理職。2年前から本格的に飲み始めた遅咲きの左党。最近酒量が増し記憶喪失は数知れず。専門家に相談を決意。
アルコールはダウナー系の化学物質なので、脳がノーマルな状態を保つためには飲んでいないときに脳が興奮した状態にさせておく必要があります。胸がドキドキしたり汗が噴き出したり。これがひどくなったものが不眠などの禁断症状、学術的に言うと離脱症状です。
たとえば、このまま飲み続けていたら大切な人から離別するみたいなことを言われているのに、また飲んでしまうというような。
お酒のいい部分だけ享受しながら人生を乗り切るなら休肝日を挟むなり一度の量を減らすなりしてみましょう。“依存症”ではなく“いい依存”であれば大いに結構です。大丈夫、何せ飲み始めてまだ2年なんですから。
用語解説
コントロール障害
もうやらないと自分や周囲に誓ったにもかかわらず、その物質を再び使ってしまう。TPOを考えたときにやってはいけない状況で使ってしまう。仕事中にアルコールを飲む、車で行った先でアルコールを飲むなど、そうしたコントロールが自分でできなくなること。
耐性
依存性のある薬物を繰り返し摂取することで、その薬物の効果を得るために量を増やさなければならなくなること。耐性は依存の形成の初期で起こることが多い。
離脱
離脱は耐性とともに中枢神経がその物質に対して神経順応を起こしている表裏の現象。物質の使用量を減らしたり止めたりしたときに出現する。アルコールの場合なら動悸、発汗、手の震え、不眠。なかには痙攣やてんかん発作が見られる場合もあり、もっとひどい場合には幻覚が見えるというケースも。
お酒を飲むことを人生の他の楽しみより優先
それを行うことのメリットがデメリットを上回っているのが愛好家。逆転しているのが依存症。賢明な人は逆転した時点で撤退するが、依存症が進んでいるとそれができなくなる。かつて自分の中で優先順位が高かったものが二の次、三の次になる。
依存症ではなくいい依存
人間はもともとさまざまなものに依存しないと生きていけない生き物。仕事の合間にお茶やコーヒーを飲み、仕事終わりに酒を飲み、同僚と愚痴を言い合い、明日また頑張れるのがいい依存。仕事や人生の破綻に繫がるのが依存症だ。
科学技術の進歩が依存症も進化させる!?
アルコール度数8%以上のストロング系チューハイを規制すべきでは? とSNSに投稿しバズったのが松本先生その人だ。
「僕は科学技術の進歩とともに依存症はエスカレートすると思っています。古くは醸造酒から蒸留酒、パイプから紙巻きタバコの大量生産の技術が開発されて依存症の弊害が深刻化しました。
ストロング系のお酒は本来とても辛いのですが、飲みやすい味付けにしてお酒の味が分からない若い人たちに広がったことが問題だと思います」