寿命に影響大!? 知らないとヤバい腎臓のトリセツ

地味ながら黙々と働き続ける腎臓。これが働かなくなったら命に関わる重要な存在だ。ところが近年、若くしてこの腎臓のケアを怠って衰えさせるケースが増加中、黄色信号が点滅している。人生100年時代、大切な腎臓をいつまでも長持ちさせるには? その方法を探った。

取材・文/石飛カノ イラストレーション/世戸ヒロアキ 取材協力/高取優二(埼友草加病院外来医長、日本腎臓学会専門医・指導医)

初出『Tarzan』No.880・2024年5月23日発売

慢性腎臓病

老化のカギを握るのは腎臓?

肋骨の後ろ側にある空豆状の1対の臓器、握り拳よりちょっと大きいサイズの腎臓は、心臓や消化器と違って普段ほとんど意識することがない。

肝臓に負けないぐらいの我慢強さを備えているので、多少不具合があっても黙って働き続けるからだ。ところが、実はこの臓器が老化のカギを握っているという。

「とくに、食生活が乱れがちな40代以降の男性は慢性腎臓病のリスクが高く、老化を早める可能性もあります」

と言うのは、腎臓専門医の高取優二先生。細胞や遺伝子レベルではなく、臓器が老化を招くとは一体? 40代以上の男性は、とくにご清聴あれ。

“排毒”の臓器、腎臓は40代以降どんどん縮んでいく

腎臓は全身の細胞から血液によって送られてくる老廃物をふるいにかけ、不要なものを尿として排泄する役割を果たしている。ふるいをかけるフィルターに当たるのは糸球体という組織。糸球体で濾過されたのが原尿で、原尿が尿細管で99%再吸収された残りが尿。この糸球体と尿細管のユニットをネフロンと呼ぶ。

慢性腎臓病

腎臓の内部には血液を濾過する糸球体と尿を運ぶ尿細管からなるネフロンがある。1つの腎臓には約100万個のネフロンが存在する。

腎臓は肋骨下部の背中側にある臓器。サイズは握り拳よりやや大きめで1つにつき約150g。ここに1分間に約1Lの血液が流れ込む。

資料提供/高取優二

便は2〜3日、なんなら1週間程度排出されなくても命には関わらない。でも尿はたった1日排出されないだけでも尿毒症を引き起こし、命の危険に晒される。ところが、この大事な“排毒”の臓器は加齢に伴って縮んでいく。

糸球体は毛細血管の固まりなので動脈硬化などの影響でネフロンが機能しなくなり、脱落していくのだ。40代ですでに腎臓の縮小は始まっている。

慢性腎臓病

40代以降はネフロンの数が減っていき、腎臓の容積自体も小さくなっていく。60代以降は1年で16㎤ずつ容積が減るといわれている。

資料提供/高取優二

8人に1人が慢性腎臓病。人工透析開始年齢も早まる一方?

その昔はむくみや息苦しさなどの症状が出たら尿毒症で、すでに腎不全の状態。見つかったときは手遅れ。でも約20年前に登場したのが慢性腎臓病(CKD)という概念。より早い段階で腎臓機能の低下を判断できるようになった。

「今は8人に1人がCKDといわれています。加齢による腎臓の変化に加えて糖尿病や肥満、腎臓特有の疾患が重なるとCKDのステージが進行し、人工透析に陥る方向に急激に傾いていきます」

生活習慣病の因子を避けることがCKD予防のひとつ。でも、それだけではない。

「食生活を中心としたライフスタイルが大きな問題。老化の要因は遺伝が2〜3割、環境が7〜8割というように、腎臓の老化も食生活が大きな比率を占めています」

腎臓の老化と慢性腎臓病

慢性腎臓病

「腎代替療法」は人工透析のこと。CKDのステージが進んでいくと、ステージ5で透析に至る。糖尿病や高血圧、肥満、またライフスタイルによって透析に傾く角度が急激になる。

資料提供/高取優二

余分なリンとカルシウムがカラダの炎症と老化を招く

では食生活の何が問題かというと、加工食品に多く含まれるリンの過剰摂取だ。

「動物実験では血液中のリンが上昇するとマウスが早く老いることが分かっています。メカニズムとしては、体内で余分なリンとカルシウムが結合してリン酸カルシウムができます。これがCPPという結晶状の物質を作り出し、血管や尿細管を傷つけて体内で慢性炎症を起こすのです」

慢性炎症が老化の原因になることは、すでに述べた通り。CPPによる炎症もまた同じ。

「それだけでなく、加齢でネフロンの数が減ってくるとネフロン1つ当たりのリン負荷が上がります。するとさらに尿細管が痛めつけられるという悪循環に陥るのです。

加工食品を常食している40代男性、他人事ではない。

早期発見のカギとなるのは血液と尿の検査

下はCKDの重症度分類。ネフロンの数が減って、腎臓の濾過機能が衰えても、CKDの初期ではほとんど自覚症状はない。知らないうちに腎臓の機能がどんどん低下し、それに比例して老化も進む。

「ステージ2〜3の段階でリンを排出する働きが高まって原尿中にCPPの量が増えてきます。さらにステージ4〜5の段階では血液中のCPPが増えて炎症が広がります」

ならば早期発見が腎臓とカラダの老化を防ぐ唯一の道。CKDリスクの基本指標は血液検査。クレアチニンという筋肉由来の老廃物がどれだけ血液に含まれているかが腎臓の濾過機能を反映する。またGFRというクレアチニン、年齢、性別から割り出される腎臓の濾過機能を示す指標も。下の計算サイトを参考に。

慢性腎臓病の重症度分類
慢性腎臓病

KDIGO CKD ガイドライン2012を日本人用に改変したもの。

重症度は糖尿病などの病気、尿アルブミンや尿蛋白の数値、GFRの数値を合わせて評価。緑→黄→オレンジ→赤の順に重症度が増す。

日本腎臓学会 腎機能測定ツールサイト