現代人の健康維持にサプリメントは必要なのか?
誤解を恐れずに言えば人は平等にみな“動物”。年齢を経れば生物としての力が弱ってくるのは当然。でも人間にはそれに対抗する術がある。それがサプリメントじゃん?というお話。自分には必要ないと思っていても、現代人が身に着けるべき栄養作法としてサプリメントが必要な理由とは?
取材・文/石飛カノ 撮影/幸喜ひかり スタイリスト/ヤマウチショウゴ ヘア&メイク/天野誠吾 取材協力/田村忠司(ヘルシーパス)
初出『Tarzan』No.877・2024年4月2日発売
目次
どうしてサプリメントは必要なの?
糖質はパンで、脂質とタンパク質は目玉焼きで、ビタミン類はスムージーで。ほら、朝から必要な栄養チャージはバッチリできてる。なので、わざわざお金を払ってサプリメントを飲む必要性を全然感じないんですけど、何か?
その考え方は基本的に正しい。でも朝は栄養補給を意識した食事をできたとしても、昼に牛丼やコンビニ食、夜はスーパーの惣菜で晩酌、てなことが日常化すると栄養素をカバーするのは到底無理。
「必要な栄養素は食事で摂って、なおかつ足りないものをサプリメントで補充するというのが基本の考え方です」 と言うのは、“日本一サプリメントを真面目に考える男”の異名を持つ、医療機関専用サプリメントメーカー代表、田村忠司さん。
「ただ食材から栄養を補給しましょうといっても、忙しい毎日では加工食品や外食に頼らざるを得ません。そうなると調理の過程で栄養が削られてしまうことが多いんです。外食に行くならシェフが食材を吟味して仕入れているようなお店に行く、中食ではなくできるだけ自炊をするのが理想です」
それでもなお、カバーできない栄養素を自分で洗い出してサプリメントを活用する。これが現代人が身につけるべき栄養作法なのだ。
糖尿病や認知症など遺伝的病気のリスクをサプリで回避する
サプリメントを活用する意義は主に3つある。ひとつには病気に対する「予防」。処方薬は病気にならないと出してもらえないが、サプリは病気になる前に自衛策として取り入れられる。
「たとえば家族の中に糖尿病患者がいたら、糖質の代謝エネルギーをサポートしてくれるビタミンB群やクロムなどをサプリで摂取するというのが予防策になります。疫学調査では栄養のバランスがいいと、さまざまな生活習慣病になりにくいということが分かっています。肉親にそうした病気の人がいたら栄養状態に気をつけた方がいいというフラグが立っていると考えてください」
遺伝的体質を補完する主な栄養素
上に示した栄養素はあくまで一例。すでに医師の治療を受けている場合は、サプリ導入前に医師に相談を。
血縁関係に特定の病気の人が多い場合、その病気の遺伝的なリスクを抱えている可能性はゼロではない。ならばサプリで先手を打つことで病気を回避できる確率は高まる。備えあれば憂いなしだ。
日頃の体調不良をウォッチして足りない栄養を補給
ふたつ目のサプリ活用の意義はいわゆる「不定愁訴」。寝起きが悪い、疲れが取れた気がしない、とにかくだるい、肌がボロボロ、髪がパサパサ、最近めっきり性欲が低下した等々。
「寝起きの悪さや疲れはビタミンB群が足りないことで表れる不定愁訴ですし、肌や髪の調子が悪ければビタミンCを気にしたほうがいいし、生殖機能の話になってくると亜鉛不足が疑われます」
ちなみに、いつもだるくて気合が入らないという場合は、ビタミンB群だけでなく、ストレスに対応する副腎が大量に消費するビタミンCの補給も有効なのだとか。
「それから今、不足が心配されるのがビタミンDです。日に当たらないとビタミンDが不足して風邪をひきやすくなったり口内炎ができやすくなります。カラダの不調が出た時はネットなどで情報を得て、不足が疑われる栄養を摂ることをおすすめします」
まずは旬の食材をいただき、それでも補えない栄養を補強
3つ目の意義は不定愁訴の根本にある「栄養不足」の解決。 といっても、だるくて肌や髪の調子がよくないとき、いきなりサプリで大量のビタミンCを摂るのはあまりおすすめできない。
「市販のサプリがいいものだけとは限らないからです。まずは不足している栄養素が含まれた食材を意識して多く摂りましょう」
基本は旬の食材を狙うこと。ビタミンCならばホウレンソウ、β-カロテンならばブロッコリー。前者の旬は冬、後者の旬は春、この時季に意識してたくさん食べることがポイント。旬の食材を季節ごとに回して自炊していればまず間違いない。
ホウレンソウ ビタミンC(100g当たり)
ブロッコリー カロテン(100g当たり)
「ただこれは理想論。人それぞれ遺伝的な体質が違うので、ビタミンやミネラルがたくさん必要な人もいます。きちんと食事をしてもなお不調があるときは、サプリに頼るのが正解だと思います」
老化で低下する抗酸化力をサプリで補い、健康を維持する
ブドウ糖、プロテイン、フィッシュオイル、各種ビタミン、ミネラル。サプリで補給できるのは5大栄養素だけではない。カラダの酸化を防ぐさまざまな栄養素を効率的に補給することもできる。
カラダの酸化とは体内に取り入れた酸素の一部が活性酸素に変換され、カラダの細胞を傷つけること。酸化が進むことで老化やさまざまな病気が引き起こされる。 ビタミンの中にもビタミンAの前駆体であるβ-カロテン、ビタミンC、ビタミンEは抗酸化作用があるが、これらは外から取り入れて酸化の害を防ぐサポート役。
一方でヒトは本来、抗酸化作用のある酵素を自前で作れる。 ところが年齢を経るに従って抗酸化酵素は無惨に減っていく。個人差はあるが分水嶺は40歳で、これ以降は酸化の害は進むばかりに。
年齢と抗酸化パワーの関係
そこで抗酸化ビタミンだけでなく自前で作れる抗酸化物質、CoQ10やαリポ酸をサプリで補い、健康維持に役立てる方法もひとつの手。人みな等しく老いる。だが、その条件下で願いを叶えるのがサプリなのだ。
加齢である種の代謝物が増減する? サプリの未来予想図は?
学問の垣根を越えたさまざまな分野で、今最大トピックのひとつとなっている老化研究。寿命を制御している条件とは一体何か? 歳をとっても元気で過ごせる健康寿命はどうやって延ばせるのか? 世界中の研究者がこの難問に取り組んでいる。
そんななか、2016年に沖縄科学技術大学院大学(OIST)と京都大学との共同研究で、加齢に関わる代謝物が特定された。血液中に含まれる健康状態を反映する代謝物のうち、大部分は若者と高齢者であまり変わりは見られなかったが、14個の代謝物に関しては高齢者の体内で減ったり逆に増えていたことが分かったという。 その14種類の代謝物は下のリストの通り。
加齢に関係する代謝物
耳慣れない専門用語がほとんどだが、高齢者の血液中で減っている物質は主に抗酸化と筋肉に関わるもの。逆に増えている物質は腎臓や肝臓の機能低下に関わるものという結果に。 加齢で増減する栄養素と健康の関わりのさらなる研究が進めば、サプリが人生100年をサポートする日が来るかもしれない。
入り口はマルチビタミネ。 実感が得られなければ、一度やめてみる
旬の野菜をもりもり食べて肉や魚や乳製品をバランスよく摂取して、それでもなおかつ不調があれば不足している栄養素をサプリで補う。これができたら、かなりのサプリ優等生。
その一方、サプリを導入したいけど何を飲んでいいか分からないという人の方がおそらく多数派。その場合は入り口としてマルチビタミンミネラルを選ぶことがおすすめ、と田村さん。
「理想の話としては食生活ですべて補うのが正解ですが、結局みなさん忙しいのでタイパやコスパを考えて加工品や外食に頼りがち。今日だけのつもりが毎日になっている人はたくさんいます。そうなると必要なビタミンやミネラルが一通り足りなくなるのでそれをマルチビタミネで補充する。自衛策としては悪くないと思います」
最初に取り入れてみて、メリットを感じられなかったら一度やめてみる。それで体調やパフォーマンスが変わらなかったら飲み続けなくてもよし。サプリは願いを叶えるためのもの。そのための別の栄養素を洗い出し、新たに補給を。