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こんなパンを待っていた! 豆でつくられたグルテンフリーの《ZENB ブレッド》
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すべての日本人に告ぐ。花粉症を自覚したら「気のせい」で済まさず、積極的に治療に取り組むべし。対症療法で症状を緩和するもよし、免疫療法で根治を目指すもよし。適切な対処で、毎年やってくる花粉の時期を、今年こそ快適に乗り越えよう。
大久保公裕さん
おおくぼ・きみひろ/日本医科大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器科学分野教授、同付属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科部長。WHOおよび日本政府の推奨治療法である舌下免疫療法の開発者にして免疫アレルギー性疾患、花粉症治療のエキスパート。
安達禎之さん
あだち・よしゆき/東京薬科大学薬学部免疫学教室教授。真菌類におけるβ-グルカンの免疫作用の研究を行う中、スギ花粉のβ-グルカンおよびその受容体を発見。東京薬科大学の菅野峻史助教らとともにスギ花粉の新たな免疫反応を解明。
第一選択肢の抗アレルギー薬
花粉症の治療法は大きく2つに分類される。ひとつは今現在の症状を軽減させる対症療法、もうひとつは根治を狙う根治療法。
医師の元を訪れてまず処方される抗アレルギー薬は対症療法の代表格。「経口薬では抗ヒスタミン、抗ロイコトリエン、点鼻薬としては鼻噴霧用ステロイド薬、あるいは血管収縮薬などが一般的です」(大久保先生)。下のリストを参考に自分の症状と効果を確認してほしい。
費用:保険適用(3割負担)で1シーズン約12,000〜17,000円
軽症の場合は医師の処方薬以外の市販薬に頼るという手もある。抗ヒスタミンなど医療用医薬品成分が配合されたスイッチOTCの市販薬も多く出ているので、賢く活用を。
鼻づまりに効果的な2大手術療法
対症療法の中で主に鼻づまりの症状が強いタイプの人に効果が期待できるのが手術療法。代表的な治療法はレーザー療法と高周波電流療法。前者はレーザーで鼻の粘膜の表面を焼く、後者は電極から弱い高周波電流を流して鼻の細胞を固めたり壊死させるという方法だ。
鼻の中の一番下にあるひだ、下鼻甲介はスギ花粉が最初にひっかかる部位。その表面をレーザーで焼き、乾燥状態にして花粉をくっつきにくくする。手術時間は30分程度。効果は個人差もあるが1年程度。
下鼻甲介の粘膜の下に電極となる針を刺し、高周波電流を流して細胞を凝固・壊死させる手術療法。凝固した組織が体内に吸収され、下鼻甲介が小さくなって鼻づまりが解消する。手術時間は15分程度。効果は数年続く。
「こうした手術は日帰りでも可能なので、花粉の季節前に1回行っておくのは有効だと思います。ただし、毎年のように行って安全性が担保できるかどうかは不明。毎年必ず同じところにレーザーなり高周波電流を流して正常粘膜が損なわれるリスクがあるかどうかは誰にも分かりません。花粉の飛散量が多い年だけ行うという選択肢もあると思います」
アレルゲンを注入して体質改善を目指す
花粉症の症状を緩和するのではなく、根本から治療する根治療法。こちらは人が本来持っている免疫力を上げることで体質改善を目指すというもの。なかでも政府が周知を進めようとしているのが、皮下免疫療法と舌下免疫療法だ。
どちらもアレルゲンとなる物質を少しずつ体内に吸収させ、アレルギー反応を弱めていくのが狙い。注射によってアレルゲンを体内に入れるのが皮下免疫療法で、舌の下に直接アレルゲンを投与するのが舌下免疫療法。
スギ花粉を含むエキスを舌の下に投与し、1分間薬を口に含んだままの状態を保って体内に吸収させる。初回の投入は医師が行い、2回目以降は自宅で行うことも可能。治療期間は最低2年で、通常は3年以上。
スギ花粉を含むエキスを注射で体内に吸収させる。濃度の薄いエキスから始めて徐々に濃度を高めて体質改善を目指す。スギ花粉症患者の約8割に効果が見られるが、舌下免疫療法に比べて強い副作用が表れる場合もある。
「舌下免疫療法はスギ花粉症とダニアレルギーが対象となります。それ以外のカビや他の花粉によるアレルギーがある場合は皮下免疫療法が選択されます。治療には約3年かかりますが、根治する人は大体5〜7割程度。残りの3割の人は元に戻りますが、前に効果が認められた人は再び始めれば効果を望めます」
重症化する前に根治を目指すという考え方もありだ。
東京薬科大学と東京慈恵会医科大学の共同研究グループが、スギ花粉症の免疫反応に関わる物質とその受容体を世界で初めて明らかにした。
「実はスギ花粉の中にあるタンパク質だけでは免疫応答を促進させることはできません。アジュバントという免疫促進物質があることで抗体が作られアレルギーに繫がります」
と、東京薬科大学の安達禎之教授。そのアジュバントがスギ花粉に含まれるβ-グルカンという物質だ。
「β-グルカンが免疫細胞のひとつ、樹状細胞にあるデクチン-1という受容体に結合するとIgE抗体産生が促進されることが分かりました。他の花粉症についても同様なのか、今研究を進めているところです」
マウスの実験ではデクチン-1が働かない状態では抗体がほとんど作られないという結果が出ている。将来的にはβ-グルカンとデクチン―1の結合をブロックする夢の薬が誕生する日が来るかもしれない。
野生型マウスとデクチン-1の働きを取り除いたマウスにスギ花粉を投与したところ、花粉のみの投与では後者はほとんどIgE抗体を作らなかった。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/白根ゆたんぽ、AZUSA 監修・取材協力/大久保公裕(医師、日本医科大学大学院医学研究科教授)、安達禎之(東京薬科大学薬学部教授)
初出『Tarzan』No.875・2024年3月7日発売