内藤裕二先生
京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学教授。腸内微生物叢研究の第一人者で、“ガットフレイル”の名付け親としてメディアを含め広く活躍。腸内微生物叢に加え、抗加齢医学、消化器病学に詳しい。〈日本ガットフレイル会議〉理事長。
ガットフレイルとは
“ガットフレイル”という聞き慣れない言葉が、腸内環境やアンチエイジングの研究者の間で話題になっている。2023年には、学会である〈日本ガットフレイル会議〉も発足したという。
「ガットフレイルは文字通り、ガット(胃腸)のフレイル(病気ではないが虚弱な状態)です。便秘や下痢などの”便通異常”は、まさにガットフレイルなので、年齢や性別を問いません。しかも若いうちの腸内環境のケアが、その後の人生に大きな影響を与えることが分かってきました」 と語るのは、日本における腸内細菌研究の第一人者で、日本ガットフレイル会議の理事長でもある内藤裕二先生。
「成人のアレルギー疾患は、小さい頃のアレルギー疾患とリンクしているといわれています」 内藤先生によると、小さい頃から世代ごとに表れたアレルギーが、連鎖のように大人のアレルギー疾患に繫がっているという。 「これを私たちは〝アレルギーマーチ〟と呼んでいます」
近年、アレルギーマーチも含めた免疫の研究が進んできたことで、従来の〝アレルギーの原因物質を遠ざける〟考え方から、予防や治療方法も含めて大きく変化してきたのだとか。 「食物アレルギーに関しては、ごくごくわずかな量の原因物質にさらされることで、免疫システムが過剰に反応したと考えられています。
さらに免疫システムは、腸管の細胞や腸内細菌の代謝物が大きく関係しています」 内藤先生ら日本ガットフレイル会議が進めている腸内環境の研究は、アレルギーだけでなく、労働生産性の向上から、子どもの成長や教育、さらには健康長寿を含めた広大な領域に及ぶ。
また、内藤先生による、京都・京丹後エリアの人々の長年に及ぶ腸内環境の調査でも、食物繊維をたくさん摂っている高齢者は身体のフレイルになりにくい傾向があるという(下図参照。なんと上位4種が酪酸産生菌なのだ!)
京丹後市 vs 京都市:腸内フローラ比較
話題の短鎖脂肪酸。 注目すべきは酪酸菌だ!
「そのカギのひとつが、腸内の酪酸菌が産生する酪酸です。酪酸は、最近は皆さんもよくご存じの短鎖脂肪酸のひとつです。酪酸菌を直接摂ることも〝ひとつの手〟。
酪酸菌を摂るとともに、日常的にゴボウやダイコンなど根菜類などから腸内細菌のエサとなる食物繊維を摂ることで、さまざまな腸内細菌を共生させることができます」 短鎖脂肪酸の酪酸は、腸管のエネルギー源にもなり、腸管のバリア機能を高める。また抗炎症としても働き、さらには神経や脳も活性化する。ひいてはガットフレイルを予防、アレルギーを減らす可能性まで高まるのだという。
「酪酸菌が産生する酪酸は、大腸の上皮細胞のエネルギー源となるだけでなく、さまざまな働きをします。そのひとつが、アレルギー反応を抑える制御性T細胞の活性化です。酪酸はさまざまな働きをするので、研究が進めば進むほど複雑化している領域でもあります(笑)。
ひとつ言えるのは、多様な腸内細菌叢が存在することで、カラダの何かが弱い時でも、アクセルもブレーキも踏めるようにしておく必要がある点です」 問題なのは、そもそも”日本人の食物繊維の摂取量が不足している”という深刻な事実である。
「WHO(世界保健機関)は、2023年に炭水化物や食物繊維の摂取のガイドラインを発表しています。1日25g以上、しかも天然由来が目標です。しかし日本人は、20gにも達していません」
現実問題として食物繊維の摂取ができていないのであれば、酪酸菌入りの整腸剤やサプリメントの活用も選択肢となる。 日頃からきちんと酪酸菌の摂取を意識することで、腸管のバリア機能を維持する。さまざまなカラダのトラブルに対処可能な〝ガットフレイルにならないカラダ〟に整えておくことが必要なのだ。
酪酸菌をはじめとする腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸が、乳酸菌やビフィズス菌なども含めた1000種類以上100兆個ともいわれる腸内細菌を健やかに育んでいる。提供/東亜薬品工業株式会社