腸活がもたらす健康効果とは?:コンディショニングのための「食と栄養」基礎知識
連載「コンディショニングのひみつ」。長期的なコンディショニング戦略に不可欠な「食と栄養」を、その基礎知識とともに複数回にわたって解説していく。今回は「腸活のすすめ」について。
取材・文/オカモトノブコ 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.870・2023年12月14日発売
腸活がもたらす健康効果が近年の研究で次々と明らかに
本連載ではここまで3回にわたってカラダに必要な栄養素について解説してきたが、中・長期的なコンディショニング戦略でもうひとつ、見逃せないのが「腸活」による効果だ。
特に最近、腸内環境の改善で心身のコンディションが整う科学的なメカニズムが次々と判明。その驚くべき作用とともに、身近に実践できる腸活の基礎知識を解説していこう。
カラダとココロの回復に効く
腸と脳は離れた臓器でありながら、互いに情報を伝達して影響を及ぼし合う関係にある。これを象徴するのが、セロトニンやドーパミンなどの神経伝達ホルモン。
特に“幸せホルモン”とも呼ばれるセロトニンは90%以上が腸で生成され、腸の運動を促すほか、精神を安定させる・意欲や気力を高めるなどの働きを担う。
さらにセロトニンは、夜に分泌されて睡眠の質を高めるホルモン・メラトニンの材料にもなるもの。
そもそも我々ヒトの心身は、眠っている間にしか回復できない。早期のリカバリーという観点からも、脳と深く関わる腸の健康がカギとなるのだ。
幸せホルモンは腸で作られる
離れた臓器である腸と脳が情報を伝達し、互いに影響を与え合う関係にあることを「脳腸相関」と呼ぶ。うつや自閉症などメンタル不調のほか、近年では腸内環境と認知症リスクの関連も明らかに。
腸=ヒト最大の免疫器官
また近年の研究で、腸がヒトの免疫システムにおいても中心的な役割を担うことが明らかに。
全身の免疫細胞のうち60~70%は腸に存在し、なかでも多くを占めるのが小腸。腸壁や粘膜の下に“パイエル板”という器官があり、ここにさまざまな免疫細胞が集まってウイルスや病原体などの有害物質を撃退している。
さらに大腸では、腸内細菌がバランスよく働くことで免疫細胞が活性化。免疫力が高まることで、カゼをひきにくくなる、疲れにくく、高いパフォーマンスが発揮できるといった効果も大いに期待できるのだ。
善玉菌×水溶性食物繊維が重要
腸活を簡単に言えば“いいウンチを作って出す”ということ。そして実に、便の約半分は腸内細菌で構成されている。
重要なのが、ビフィズス菌などの善玉菌を含む発酵食品「プロバイオティクス」と、菌のエサとなる食物繊維「プレバイオティクス」を同時に摂取する、「シンバイオティクス」を意識した食生活だ。
そもそも食物繊維には2種類あり、水分を吸って便のカサを増し、腸の不要物を絡め取るのが「不溶性食物繊維」。一方、水に溶けるとネバネバし、余分な糖質や脂質を包んで排出するのが「水溶性食物繊維」だ。
このうち善玉菌のエサになるのは後者の水溶性食物繊維。さらに近年、これらが発酵する過程で生み出される“短鎖脂肪酸”が代謝や免疫、体脂肪の減少など、さまざまな健康効果をもたらすと注目を集めている。
水溶性食物繊維が腸活に効く
水溶性食物繊維は、海藻のヌメヌメ成分「アルギン酸」や「フコイダン」、果物に多く含まれる「ペクチン」、ゴボウやキクイモなどに多い「イヌリン」、こんにゃくの「グルコマンナン」などが該当。不溶性・水溶性の両方を含む食材も多い。
十分な水分摂取も忘れずに
いいウンチを育てて腸管から送り出すには、便に十分な水分を与えることも大切。食事も含めて、1日2Lが摂取の目安になる。
その意味では、また前回で解説した栄養バランスの見地からも、できればパン食より汁物とご飯がセットになった和食がベストといえるだろう。
まずは難しく考えすぎず、これらを一日の中でトータルに取り入れながら腸内環境を整えていこう。
復習クイズ
答え:シンバイオティクス