食と栄養(短期的戦略)リカバリー食
連載「コンディショニングのひみつ」。長期的なコンディショニング戦略に不可欠な「食と栄養」を、その基礎知識とともに複数回にわたって解説していく。今回は「リカバリー食」について。
取材・文/オカモトノブコ 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.872・2024年1月25日発売

運動後の素早い栄養補給がリカバリー効果を高める
運動後のリカバリーが大切なのは、素早い疲労回復が今後のコンディションやパフォーマンス向上に直結するため。なかでもカラダに大きな刺激が加わる運動直後は、その手段としてすみやかな栄養補給が重要となる。今回はそんな“リカバリー食”について、特に意識して摂取すべき栄養素を中心に解説していこう。
糖質(炭水化物)
筋肉の基本的なエネルギーとなるのが糖質だ。さらに普段の食事で余った糖質から変換され、筋肉に蓄えられるのが「グリコーゲン」。これが長時間の運動で減少すると、カラダはエネルギー源として筋肉自体を分解してしまう。すると疲労が抜けにくく、また回復を遅らせる原因にもなるため、運動後は30分以内に糖質を摂取してグリコーゲンを補充し、筋肉の分解を抑えることが重要だ。糖質はご飯やパンなどの主成分だが、果物に多い「果糖」は吸収率が高く分解されやすいので特におすすめ。
クエン酸
糖質やタンパク質、脂質などの栄養素の一部は体内でクエン酸に変換され、分解を繰り返し(このプロセスを「クエン酸サイクル」と呼ぶ)、細胞のエネルギー源「ATP(アデノシン3リン酸)」を生み出す。
クエン酸はレモンやオレンジなどの柑橘類、酢、梅干しなどに含まれる酸味成分でもあり、運動後に摂取することでエネルギー産生の効率を高め、疲労回復を促進。またクエン酸サイクルのスムーズな働きは、体内でマグネシウムや鉄、カルシウムといったミネラルの吸収もサポートしてくれる。さらに短期的なグリコーゲン補充戦略においては、クエン酸の同時摂取で糖質の分解を促す酵素の働きを抑制し、体内に貯蔵されなくなるのを防ぐというメリットも。
タンパク質
運動後は使った筋肉のタンパク質が分解され、細胞が破損された状態。そこで十分なタンパク質の補給が必要とされるが、その際のポイントが“糖質と合わせて摂取する”こと。血糖を下げるホルモン・インスリンが同時に分泌されるとタンパク質が筋肉へとスムーズに吸収され、筋肉の合成を促すことができるのだ。
抗酸化ビタミン
運動量が増えてカラダに負担がかかると、酸素が燃えるときに生じる「活性酸素」が過剰に発生。すると細胞をサビつかせて老化が進行するだけでなく、細胞内のエネルギー産生が低下して疲労の原因になる。
そこで積極的に摂取したいのが、活性酸素を還元して無毒化するビタミンC。脂溶性のビタミンEは細胞膜の酸化を防ぐが、ビタミンCは酸化したEを還元し、再び抗酸化機能を回復させることができる。同じく抗酸化作用を持つビタミンA(実際には前駆体のβカロテン)とともに、ビタミンエース(A・C・E)とも呼ばれる組み合わせだ。
ここまでで分かるように、複数の栄養素を合わせた相乗効果によってリカバリー効果はさらにアップする。運動後すぐに食事をするのが難しい場合は補食も上手に取り入れながら、戦略的な栄養補給を心がけていこう。
運動後はすみやかに栄養の補給を
糖質+クエン酸、さらにビタミン類も同時に摂取できる柑橘類やオレンジジュースはリカバリー食のファーストチョイスに。すぐに食事を摂ることが難しい場合、タンパク質が高配合された手軽なプロテインバーなども上手に活用したい。
復習クイズ
答え:糖質