睡眠も筋トレの一環と心得ている
ワークアウトはジムで鍛えるだけでは終わらない。
「ノンレム睡眠の中でも最も深い状態であるN3の間に成長ホルモンが分泌されます。それによって筋線維が太くなり、傷ついた筋肉組織が修復されます。さらには骨も強くしてくれます」(柳沢正史さん)
しっかり眠ることが逞しい筋肉を育む。そういえば大谷翔平選手もたっぷりと寝ていると公言しているが、カラダづくりの一環でもあるのかも。となると、理想の睡眠時間が知りたくなってきた。
「一般的には6〜8時間になります。“寝足りない”と感じたら、まずはいつもより30分早く寝てみましょう。翌日、気持ちよくカラダを動かせたら、さらに30分前倒しをしてみる。時間がかかりますが、1週間ごとに30分ずつ増やしていくと、1か月後までには自分の理想の睡眠時間が摑めます」
運動と睡眠のいいバランスを知っている
忙しい合間を縫ってカラダづくりに励むがゆえに、1分でも長く時間を割きたい気持ちはビギナーにはよくあること。ただし、寝る間も惜しんで頑張るのはちょっと見直そう。
「眠らないのは本末転倒です。夜更かしをする分だけ摂取カロリーも増えるので、体脂肪もアップします。これではカラダを絞る意味がない。さらに、睡眠不足は脳のパフォーマンス低下も招き、集中力が散漫になる。ケガのリスクも上がります」
短時間集中で運動に取り組み、早く眠る方が効率的なのは理解できた。では、運動後は寝床へ直行すべき?
「カラダを動かした後は脳が覚醒をするので、ほとんどの場合で寝つきが悪くなります。できれば就寝の2時間前には切り上げましょう」
寝る前の過ごし方にもひと工夫する
トレーニングでかいた汗を洗い流したら、湯船に浸かって今日の疲れを癒やす。これもリカバリーの一つ。
「40度程度の湯に汗ばむまで入ることで、深部体温が上がります」
そこから深部体温が下がる際にリラックスモードに切り替わり、眠りの森への扉が開く。安眠への突破口としておなじみのサウナもあり?
「もちろん。すでに十分な汗をかいているので、脱水症状を防ぐためにも水分補給を忘れずに。いずれも就寝の1時間前には出ましょう」
骨の髄までほぐされて帰宅。眠りに就くまでのくつろぎタイムでは、部屋の照明にも気を配ろう。
「明るい光を浴びると、目が冴えてしまいます。休息モードをキープするために、家全体の照明の照度を下げましょう」
当然スマホはNG?
「ブルーライトについては部屋の照明のほうが有害です。自身にとって、眠りを誘うコンテンツならば、我慢せずともよいと思いますよ」
ノンレム睡眠とレム睡眠、両方を大切にする
私たちは睡眠中に2つのサイクルを繰り返している。入眠後すぐに訪れるノンレム睡眠と、明け方に増えるレム睡眠だ。質のいい筋肉を育むには、前者を十分に確保すればひとまずOKなのだろうか。
「そうとも言い切れません。もちろんノンレム睡眠はリカバリーに重要ですが、運動のパフォーマンスを上げるうえではレム睡眠も大事な役割があります。レム睡眠の間にも脳内の記憶が整理され、また運動する時に必要な技能を覚えさせています」
取り組んだメニューをいつしか覚えているのは、レム睡眠の賜物だ。
「ただしサイクルはコントロールできません。両方を重視するためにできることは時間の確保に尽きます」
快眠のために睡眠を“見える化”する
S’UIMIN
眠っている時の脳波を専用デバイスで在宅で計測し、AIで解析。その結果を医師が5段階で評価し、よく眠るための改善策も教えてくれる。2〜5晩の計測で解析が可能。費用は施設に応じて異なる。実施医院は公式サイトで確認を。WEBサイト
Pokémon Sleep
枕元にスマホを置いて、寝返りやいびきを振動や音で記録。計測結果と近い睡眠パターンを持つポケモンの寝顔を集めるゲーム。睡眠スコアを上げてカビゴンを育てよう。柳沢正史先生が監修。WEBサイト
Q ワークアウト後に昼寝をしてもいいですか?
「20分以内であればいいです。ノンレム睡眠のN2に達するのがこの時間となるので、ここまではパッと起きられる。N3まで進むと目覚めてもしばらくボーッとするので逆効果。直前にコーヒーを飲むとカフェインが吸収される時間帯と重なり、起きやすくなるかもしれません。そもそも昼間に眠いのは睡眠不足の証拠です」
Q トレーニングをした日によく眠れるのはなぜ?
「疲れているからです。カラダを動かした分だけ睡眠欲求は高くなります。寝室の環境や体調などトレーニングをしていない日と同じ条件での眠りを比べると、その差は歴然です。ただ、具体的なメカニズムは解明されておらず、研究中です。筋トレは不眠の解消にもつながり、良い睡眠に近づく第一歩とも言えるでしょう」