入浴・嗅覚・聴覚。身近にできる入眠の工夫:睡眠の科学3 入眠アイデア
取材・文/オカモトノブコ 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.866・2023年10月5日発売
身近にできる入眠の工夫で心身を深いリラックスに導く
心身のリカバリーに必要不可欠な「睡眠」がテーマの3回目。最後は科学的に実証された身近な工夫でスムーズな眠りにつき、その質を高めるアイデアの数々を紹介しよう。
キーワードは、とにもかくにも「リラックス」。
脳が興奮し、心身が緊張して交感神経が活発に働いている状態ではスムーズな入眠が難しいためだ。厚生労働省は「健康づくりのための睡眠指針2014」において“リラックスすると思考や不安感情などが生じにくい現象を利用”し、“就寝状況で身体的なリラックスを得ることで(中略)入眠の改善などをもたらす”と指摘している。
以下、具体的な方法を解説していこう。
眠りを深める入浴法
前述の「睡眠指針」でも、入眠時のリラックス法として特に推奨されるのが入浴。なかでも意識したいのが「湯温」と「タイミング」だ。
38~39度程度のぬるめのお湯では副交感神経が優位に働き、心身の緊張がやわらいでリラックス効果が高まる。末梢血管の拡張、血流の改善などにより、筋肉疲労のリカバリーに役立つ点も見逃せないポイントだ。
さらに注目は“深部体温が下がると眠くなる”という人体の仕組み。
就寝前の入浴と体温変化
40度/15分間の入浴をした場合との比較。ヒトは脳などの深部体温が下がると眠くなるが、「上がった分だけ下がろうとする」というこの性質を利用することで寝つきを改善することができるのだ。
末梢血管の拡張後に放熱が活発になると脈拍や呼吸がスローダウンし、良質な眠りにはマストな入眠直後の深い睡眠が増加するのだ。ただし寝る直前の高温浴(42度以上)では体温が上がりすぎ、交感神経も優位になって逆に入眠を妨げる。時間帯は眠る90分前まで、と心得ておこう。
ちなみに“睡眠ホルモン”のメラトニンは気分を安定させる神経伝達物質・セロトニンから脳内で合成されるが、この反応には日頃から多くの人に不足しがちなミネラルのマグネシウムが不可欠。
これを経皮吸収できる「エプソムソルト(硫酸マグネシウム)」を海水と同程度の0.1~0.2%濃度で湯船に加えると、温熱・発汗作用とともに寝つきがグンと高まる。
アロマによる嗅覚刺激
ヒトの五感で唯一、本能や感情をつかさどる脳の大脳辺縁系へダイレクトに、0.2秒と素早く伝わるのが嗅覚。その情報は自律神経系をつかさどる視床下部にも伝わり、体温や睡眠、ホルモン、免疫などのバランスを整える働きも分かっている。
リラックス効果のある香りは、ラベンダーやカモミールなど。また、うつの改善効果があるオレンジ・スイートやベルガモットなどの柑橘系、心を落ち着かせるウッディ(樹木)系の香りもおすすめだ。
寝る前のリラックス法
アロマオイルは専用のポットやディフューザーのほか、エプソムソルトに混ぜるなどで浴槽に加えたり、スプレーで枕元に吹きかけたりしても。睡眠やリラックス効果の高いアプリも活用しよう。
聴覚のリラックス効果
心身がリラックスすると、脳にα波が出現する。前項の「嗅覚」に加え、このα波を出す有効な手段となるのが「聴覚」だ。
特に効果的なのは、海や川の音、鳥や虫の鳴き声といった自然音。これらには「1/fゆらぎ」という周波数の一種が含まれ、α波を導く働きがあるとされる。
α波を出すには瞑想もいいが、ハードルがやや高めなのが難点。最近では睡眠や瞑想、マインドフルネスに特化したアプリも多数登場しているので、これらを利用しない手はない。
眠る直前にできる限りα波を出して、心地よい眠りに導かれよう。
復習クイズ
答え:寝る90分前