私はセーフ?アウト? 誰もがなりうる「アルコール依存症」の話
お酒を嗜むこと40年近く。過去には調子に乗ってお酒で失敗したことも数知れず。50代後半になったライターAはかねてから疑問に思っていた。「私ってアルコール依存症? それともギリセーフ?」。そこで減酒外来を設けている〈さくらの木クリニック秋葉原〉の倉持穣先生の元をビビりつつ訪れた。
取材・文/大吹雪ジュン イラストレーション/森拓馬 編集/阿部優子
初出『Tarzan』No.870・2023年12月14日発売
倉持穣さん
教えてくれた人
くらもち・じょう/さくらの木クリニック秋葉原・院長。東北大学医学部卒業後、公立病院精神科などを経て、現クリニックを開院。著書に『今日から減酒!』(主婦の友社)など。
ライターA
話を聞いた人
50代後半のベテランライター。20代半ば以降はほぼ毎日飲酒を欠かさず、これまで無事に生きてきた。日本酒や焼酎が好き。
AUDIT-Cで飲酒状況を確認
ライターA:禁酒や断酒という言葉は聞いたことありますけど、「減酒」って初めて聞きました。
倉持さん:アルコール依存症の治療には教育入院やデイケアで断酒をする方法もありますが、外来で目標を作って徐々に酒量を減らす減酒治療という方法もあります。最近はこうした減酒治療が増えています。
ライターA:私も減らす必要ありますか?
倉持さん:まずAUDIT-CというWHOの飲酒状況を測るテストをやってみてください。
アルコール問題の簡易テスト
Q.1|アルコール含有飲料をどのくらいの頻度で飲みますか?
- 1か月に1度程度…1点
- 1か月に2〜4度…2点
- 1週間に2〜3度…3点
- 1週間に4度以上…4点
Q.2|飲酒するときは通常どのくらいの量を飲みますか?
約1.4ドリンク(ビール350ml/ワイングラス1杯125ml)
約2ドリンク(ビール500ml/日本酒1合180ml/ウィスキーダブル1杯60ml/7%缶チューハイ350ml)
約3.6ドリンク(25度焼酎1合180ml/9%缶チューハイ500ml)
- 1〜2ドリンク…0点
- 3〜4ドリンク…1点
- 5〜6ドリンク…2点
- 7〜9ドリンク…3点
- 10ドリンク以上…4点
Q.3|一度に6ドリンク以上飲酒することがどのくらいの頻度でありますか?
- ない…0点
- 1か月に1度未満…1点
- 1か月に1度…2点
- 1週間に1度…3点
- 毎日あるいはほとんど毎日…4点
Q1〜3の合計点は? 男性6点以上、女性4点以上は、アルコール使用障害が疑われる。
ライターA:えーと、頻度は毎日だから4点で、日本酒だったら4合くらい飲むから8ドリンクで3点、で、毎日だから4点で合計11点です!
倉持さん:嬉しそうに言わないでください。女性は4点以上でアルコール使用障害の疑いです。
ライターA:えっ!(心中やっぱり…)
倉持さん:ちなみに厚生労働省が推奨している適正アルコール量は男性で1日20g=2ドリンク。60g以上は大量飲酒です。そうした基準や自分がどれくらいの量を飲んでいるかを知らない人が多いですね。
純アルコール量の計算式
依存症はアリ地獄へと滑り落ちるように進行していく
ライターA:えーと、私の場合焼酎だったら1日400mLだから400×0.25×0.8で80gです!
倉持さん:ですから嬉しそうに言わないでください。明らかに飲み過ぎです。女性ならその半分でも大量飲酒(女性は40g以上)です。私が提唱している「アリ地獄」モデルですと、アルコール依存症一歩手前の「有害な使用」に当てはまります。
アルコール依存「アリ地獄」モデル
ライターA:アリ地獄…、その最下層の地獄ってどんな状態なんですか?
倉持さん:アルコール依存は飲酒ブレーキが壊れていく病気です。ブレーキが壊れていくからときどき暴走します。明日会議だから今日は飲むのをやめておこうと思っても飲んでしまう。ひどくなると長時間ダラダラ飲んで、お酒が切れてくるとまた飲んでという連続飲酒という状態に陥ります。
ライターA:ああ〜、お正月の三が日はそれやってるかも〜。
倉持さん:隠れ連続飲酒というケースもあります。毎晩飲んで会社に行って夕方になると離脱症状でソワソワしてまた飲む。仕事はちゃんとしているけど実は連続飲酒をしているという人は結構いるんです。
ライターA:今のところ私はまだソワソワ、はしないですね。
倉持さん:会社からの帰り、夕方5時半くらいから飲み出したら危険です。
ライターA:私は7時くらいまでは我慢できます! うっ、我慢って言っちゃった!
倉持さん:さらに進行すると夜、中途覚醒して再入眠するために夜中の2時3時、または朝から飲むようになります。
依存症は「否認の疾患」である
ライターA:それはさすがにないです。普段から連続飲酒をするよう進行していく人たちと、そこまで行かずに踏みとどまっている私みたいな人間との違いって何ですか?
倉持さん:運じゃないですかね。実際私の患者さんで70歳くらいの優秀な女性がいらっしゃいます。60歳くらいまでは単なるお酒好きだったんですが、70歳で依存症に陥って朝から飲むようになったというケースです。女性の場合、定年して仕事がなくなったり、旦那さんに先立たれたりとライフサイクルとの関わりが深いように思います。
ライターA:確かに。歳とって仕事がなくなったらヒマに任せて飲んじゃうかも。でも先生、私、実は一番酒量が多かったのは30〜40代で、きっとそのときは1日100gくらいは飲んでたと思うんです。ほぼ毎日二日酔いでしたし。でも今はそれよりお酒の量も減って、無理して飲まなくてもいいやと思うようになりました。これってアリ地獄からちょっとだけでも抜け出せてるってことじゃないんですか?
倉持さん:通常、年齢とともにお酒には弱くなるものです。歳をとってくるとカラダが追いついてこなくなるので。でも量は少なくなってもお酒の害はあるはずです。「ブラックアウト」という飲んでいるときの記憶をなくす状態があるんですが、それはどうですか?
ライターA:外で飲むと3回に1回くらい、どうやって家に帰ってきたか覚えていないことがあります。ついこの間は、茹で卵2個がなぜかバッグの中に入ってました…。
倉持さん:そのうちに記憶をなくす頻度が増えてくるかもしれません。
ライターA:いや、でも先生、一番たくさん飲んでたときはしょっちゅう転んだりしてケガをしてましたけど、ここ10年くらいはそんなこともなくなったし。実際酒量も減っているので、これって減酒なんじゃ?
倉持さん:Aさん。依存症は「否認の疾患」と呼ばれているんです。自分の都合の悪いことは見ないふりをしてなかったことにする傾向があります。自分はちゃんと仕事をしてるから大丈夫、と。Aさんも一見、正常に見えるけれど、基本的にデキる人は辻褄を合わせちゃうんです。でも失敗する時は来ます。今までは運がよかっただけです。
減酒という方法でお酒と付き合う選択もある
ライターA:うう、そうなんですかね、そのうち何か弊害が出てくるんですかね…。でも以前は周りから「少しお酒を減らした方がいいのでは」と言われることもありましたが、それもなくなったんですよ。あっ、違いますよ、これ否認してるんじゃないですよ!
倉持さん:若い頃より酒量が減った人にはそういうケースもあるでしょう。でもAさん、そんなにしょげる必要はありません。依存症から逃げ切る人もいますからね。問題を起こしてダメになる人もいれば、いいバランスで100歳くらいまでうまくお酒と付き合う人もいます。
ライターA:なるほど。逃げ切れるケースもあるんですね。
倉持さん:減酒はそもそも逃げ切る方法みたいなものですから。これまでは好きに飲んでいたとしても今後は計画的に飲まないと。
ライターA:それだったら一生お酒と付き合っていってもいいんですね?
倉持さん:禁酒とか断酒は理想ですが、それだと患者さんが嫌がるので、一生付き合うために減酒をしましょうという流れです。
ライターA:じゃあ私の場合、1日純アルコールを60gくらいに減らすくらいでもいいですか?
倉持さん:そうですね。まずは60gくらいにしましょう。
ライターA:よーし、今日から焼酎300mLをちびちび飲むぞー!