お金をかけるほどいい? どのくらいの頻度で受ける? 人間ドックの最適解

時間的にも金銭的にも負担がかかる人間ドック。40過ぎたしと、なんとなく受けるのは実にもったいない。適正な受け方を知り、さらにピンポイントで気になることを検査して、自分のカラダと正直に向き合おう。

取材・文/石飛カノ 写真/shutterstock

初出『Tarzan』No.869・2023年11月22日発売

人間ドック
教えてくれた人:森勇磨さん

もり・ゆうま/医師、ウチカラクリニック代表。大学病院の救急総合内科を経て独立、オンライン診療クリニック「ウチカラクリニック」を展開し、予防医学の普及に努める。著書に『人間ドックの作法』(中央公論新社)、『認知症は予防が9割』(マガジンハウス)などがある。

Q. 必要最低限、受けた方がいい検査は?

A. 一般的な健康診断+がん検査

人間ドックとは会社や自治体で行われている保険の利く健康診断とは異なり、自分の意思で受診を選択する自由診療。幅広い検査項目を自らチョイスできるので、将来の病気を予防するための強力な武器となる。

「とはいえ、人間ドックの検査項目は玉石混淆」と言うのは、予防医学の専門家、森勇磨さん。

「過剰な検査が行われ、余分な費用負担が生じる人間ドックがあることも事実です。必要最低限の人間ドックの検査項目は、血液検査、レントゲン検査、尿検査といった一般的な健康診断にがん検診をプラスしたものと考えてください」

下のリストでいうと、胃カメラ、腹部エコー、便潜血検査ががん検診。ビギナーはまずここから。

  • 血圧測定
  • 身長・体重測定
  • 採血検査
  • 聴力検査
  • 視力検査
  • 眼圧・眼底検査
  • 心電図検査
  • 肺機能検査
  • 胃カメラ検査
  • 腹部エコー検査
  • 便潜血検査

Q. かかる費用は高いほどいい?

A. 3〜5万円で十分

人間ドックは自由診療だけに費用もピンキリ。人間ドックと高級ホテルの宿泊がセットになったウン十万円するプランも決して珍しくない。

「経済的に余裕がある人が年齢を重ねていくと、健康の優先順位が上がっていくのでそこに投資をしたくなる。その気持ちは分かりますし、高級感のある施設での“体験”という価値はあると思います。ただ、お金を出せば医学的によりよい結果が期待できるかというと話は別です」

高額な人間ドックほど病気が見つかりやすいというわけではない。スタンダードな検査は同じ。高額費用はラグジュアリー体験の対価なのだ。

「一般的な人間ドックなら3〜5万円。会社の健康診断と自治体の検診を組み合わせれば、もっと費用は抑えられます」

Q. 何歳から受けるのがおすすめ?

A. 30代後半〜40代から

20代から張り切って人間ドックを受ける必要があるかというと、否。というのは、概ねカラダに異常が見られないから。

「経年劣化で血管が傷んだり、生活習慣病やがんなどいろいろな病気のリスクが上がっていくのは30代後半から40代。人間ドックを受け始めるのもこのあたりの年代が妥当です」

厚生労働省の市町村のがん検診の指針では、肺がん、乳がん、大腸がん検診の対象年齢は40歳以上。やはりこの頃がデビューの時期。では、何歳まで人間ドックを受けるべき?

「個人の価値観にもよりますが、アメリカの予防医学の基準では75歳くらいが推奨年齢の終了時期。病気が見つかっても高齢で手術ができないというのが主な理由です」

将来の参考まで。

Q. どのぐらいの頻度で受けるべき?

A. 年1回ぐらい

検査項目は多ければ多いほどいい。そして検査の頻度も多ければ多いほどいい。この考え方はまったくもってナンセンス。

自分に必要のない検査の結果次第では不要な治療を受けることになる過剰医療のリスクもある。そして3か月に1回、人間ドックを受けたとしても新たな病気を発見する可能性は低い。

「よほどの生活習慣の変化がない限り、異常のない人が短期間で病気に陥る可能性は低いと思います。妥当性から言っても費用負担の面でも、人間ドックを受診する頻度は1年に1回で十分だと思います」

血液検査を頻繁に行うことで安心してしまい、肝心の生活態度は自堕落なまま。それより、年1回の検査の結果を受け止め、生活習慣を改める方がよほど有効だ。

Q. レントゲンとCT、精度が高いのは?

A. 肺がん検診はCT

日本人の死亡原因で最も多いのはがん。さらにがんの中でも死亡率トップは男女ともに肺がん。ならば早期発見に努める必要大ありだ。ところが、肺がん検診で今でも行われているのはレントゲンと痰の検査。

「レントゲン検査は昔の結核予防検査の名残で、肺がんの早期発見に繫がるというエビデンスはありません。痰の検査も同様です。あまり意味がないので将来的に省こうという議論もあります」

肺がん検査に関して言うと、残念ながら日本の予防医学は遅れているというのが現状。

「55歳以上のヘビースモーカーに低線量CT検査をしたところ、レントゲン検査に比べて死亡率が約20%低下したというデータもあるので、愛煙家にはこちらがおすすめです」

Q. がん検診の選び方のコツは?

A. 血縁者のがん傾向を見る

肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮がんという5大がん検診のほか、一部の人間ドックではさまざまながん検診が用意されている。といって、これらすべてをやみくもに受診する必要はもちろんない。

「たとえば飲酒量が多いと食道がんのリスクが増え、魚卵など塩辛いものを好む人は胃がん、喫煙者では肺がんや膀胱がんのリスクが増えます。こうした知識と自分のライフスタイルを踏まえて、がん検診を選択しましょう」

また、早期発見と死亡率低下のエビデンスがなくても、近親者にがん患者がいる場合、そのがん検診を受けてみるのも無駄ではない。遺伝というより、食生活などの環境要因が似ていることで、がんのリスクが増す可能性があるからだ。

Q. バリウムと胃カメラどっちがいい?

A. どちらかといえば胃カメラ

バリウムを飲んでの胃レントゲン検査と、胃カメラ。どちらも胃がんの死亡率低下に繫がるという報告がある。でも双方それなりにシンドい検査。どちらか一方で済ませたい。

「強いて選ぶとすれば胃カメラです。理由は胃の中の隆起などを直接目で見て確認できるからです。カメラが必ず通過する咽頭や食道の異常も発見することができます。ただ、胃全体に染み込むようにして進行するスキルス胃がんはバリウム検査で発見されやすいといわれています」

胃カメラは2〜3年に一度、バリウムは1〜3年に一度が推奨頻度。毎年テレコで受診する手もありだ。

ちなみに胃カメラで「オエッ」となるのが嫌な人は鼻から胃カメラを入れる経鼻検査という選択肢もある。

コラム:人間ドックは日本で生まれた文化だった

ある程度の年齢になると、当たり前のように受診している人間ドック。実はこれ、日本独自の医療文化。

最初の人間ドックは1954年、国立東京第一病院(現・国立国際医療研究センター)で行われ、その後、全国の病院に広がったという。背景にあったのは、日本人の死亡原因が結核などの感染症から生活習慣病に取って代わり、早期発見・早期治療が重要視されるようになったこと。

ちなみにアメリカでは患者に医療検査の選択権はなく、家庭医と呼ばれるドクターが指定する検査しか受けられない。ニッポン人はこの恵まれた環境をぜひ生かしたい。