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データで見る、僕らが「ウォーキング」をするべき理由

僕らが「ウォーキング」をするべき理由

歩くことは人間にとって必要不可欠。さらに、効率的にカラダを動かして歩くことで、さまざまな恩恵を受けることができる。日常生活の快適さをアップデートさせることができる歩きのメリットと、それを最大限引き出す【インターバル速歩】を解説しよう。

教えてくれた人

能勢博(のせ・ひろし)/信州大学特任教授。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室教授を経て現職。研究分野は運動生理学、環境生理学、温熱生理学。ウォーキングに関する著書多数。自身も信州の山々を精力的に歩いている。

① 下半身は衰える。だから、歩いて鍛えよう

歩いて筋肉が鍛えられる? それはちょっと無理でしょう。確かに、漫然と歩いていたら無理かもしれない。たとえ1日1万歩頑張って歩いたとしても養える筋力は微々たるもの。労多くして功少なし。

でも、ウォーキングは工夫次第。たとえば、速歩きとゆっくり歩きを交互に繰り返すインターバル速歩(本記事後半で解説)なら、えっ、こんなに?というくらい筋力が向上する。下記のグラフをご覧の通り筋力は平均17%アップ

「とくに、後ろ足で地面を蹴るときに力を入れると太腿の後ろのハムストリングスという筋肉が強化されます。お尻や太腿裏など背面の筋肉は歩くときにアクセルの働きをする重要な筋肉です」

と言うのは、インターバル速歩を考案した信州大学の能勢博特任教授。加齢によって衰えやすい下半身の筋肉は、意識して歩くことでしっかり鍛えられるという嬉しい事実だ。

ハムストリングスの筋力変化 グラフ

『ウォーキングの科学』(講談社ブルーバックス)より

中高年者を普段通りに生活をする対照群、1日1万歩歩くグループ、インターバル速歩を行ったグループに分け、5か月後にハムストリングスの筋力を測定。5か月前に比べてインターバル速歩のグループは筋力が平均17%アップした。

② 手遅れということはない。10年前の体力も取り戻せる

運動生理学的にいうと、体力とは主にふたつの身体機能の総合力。ひとつは筋力、もうひとつは持久力だ。筋力があれば颯爽と歩けるし、段差で躓いても咄嗟にリカバリーできる。持久力があれば長時間歩くことが苦にならないので、悪天候で電車が止まっても迷わず歩き出せる。

インターバル速歩を5か月続けることで筋力がアップすることは分かった。でもそれと同時に最高酸素摂取量がアップすることも分かっている。

最高酸素摂取量とは1分間に体内に取り込めるマックスの酸素量のこと。この量が多ければ多いほど大量の有酸素系エネルギーを作り出すことができる。つまり、スタミナがあるということ。

持久力は20代をピークに、30代以降1年で約1%ずつ低下していくといわれている。ところが、インターバル速歩を5か月行った後、最高酸素摂取量は平均で10%アップした。ということは5か月で10歳の若返り!とんでもなく嬉しい事実!

最大酸素摂取量の変化 グラフ

『ウォーキングの科学』(講談社ブルーバックス)より

筋力変化の被験者と同様のグループ分けをして5か月後の最高酸素摂取量を比較したデータ。普段通り過ごしたグループと1日1万歩歩いたグループは5か月前よりマイナス成長。インターバル速歩のグループは平均10%アップ。

③ 生活習慣病の予備軍? 歩き始めるチャンスだ

食後高血糖、高血圧、高コレステロール血症に高尿酸血症…今年も健康診断の結果は虫食い状のD判定で要再検査のお触れ書き。そんな悩めるお年頃のみなさんには、ぜひ歩くことをおすすめする。

というのも、例のインターバル速歩の研究ではやはり生活習慣病の改善効果が報告されているからだ。

「生活習慣病のような加齢性疾患のリスクを決めるのは体力です。実際、生活習慣病の有病率は持久性の体力に比例して少なくなっていきます。おそらく食事よりも運動による体力向上の方が影響力が大きいと私たちは考えています」

有病率の判定基準は下の4つの表に当てはまるか否かで割り出している。判定基準に当てはまれば1点とし、4点満点で2点以上は生活習慣病と判断される。


生活習慣病の判定基準
血圧

最高血圧:130mmHg以上
最低血圧:85mmHg以上

→高血圧症
空腹時血糖値 110mg/dL以上 →高血糖症
BMI 25kg/m2以上 →肥満症
中性脂肪 150mg/dL以上 →脂質異常症
HDLコレステロール 40mg/dL未満

日本内科学会など8学会による合同基準


さて、下のグラフをご覧の通り、体力レベルにかかわらずトレーニング前より5か月のトレーニング後には生活習慣病指標が軒並み低下している。

生活習慣病指標の変化(男性) グラフ

生活習慣病指標の変化(女性) グラフ

『ウォーキングの科学』(講談社ブルーバックス)より

男女ともに生活習慣病リスクが低下。生活習慣病指標がもうすぐ2に達しようかという予備軍男性は指標が1に近づいた。トレーニング前は2以上の低体力男性も5か月後には2未満に。

そしてこちらのグラフのようにいずれの体力レベルのグループも最高酸素摂取量がアップしている。体力が上がるほどに病気のリスクが下がるという、まさに逆相関の関係にあるのだ。

最高酸素摂取量の変化(男性) グラフ

最高酸素摂取量の変化(女性) グラフ

『ウォーキングの科学』(講談社ブルーバックス)より

中高年被験者を運動持久力別に3つのグループに分けた実験。5か月間のインターバル速歩トレーニングを行った結果、トレーニング前後で最高酸素摂取量がいずれもアップした。

ジムに入会?食事制限?

その前に明日から、いや今日から歩き出せば希望が見える。

④ ダイエットの相棒は歩き一択。すっきり痩せることができる

自他ともに認める肥満症の人が真剣に痩せたいと願うなら選択肢はただひとつ、歩くことだ。それも漫然と1日1万歩歩くのではなく、スピーディな歩きを取り入れたインターバル速歩のようなウォーキングを30分程度行うのが最適だ。

「理由はEPOC(運動後過剰酸素消費量)を狙えるからです。ややきつい運動を行ったときは酸欠状態になり筋肉には代謝物が溜まります。これらを回復させるためにエネルギーが消費されて、運動後も脂肪が燃えるという仕組みです」

運動強度が高いウォーキングでは運動中もそれなりに脂肪は燃えている。さらに運動後、EPOC効果で脂肪が燃え続ければ頑固な体脂肪は確実に減っていく。

「食事制限では減量効果が早く出ますが、精神的に辛いしリバウンドのリスクも高いので、効果は限定的。その点、運動と併用、あるいは運動メインで減量を行うと失敗を防ぐことができると思います」

肥満症有病率の変化 グラフ

『ウォーキングの科学』(講談社ブルーバックス)より抜粋

インターバル速歩を5か月行った実験。トレーニング後には肥満症の有病率が性別や体力にかかわらず、すべて低下した。肥満症の判定はBMI=体重(kg)÷身長(m)の2乗=25以上。身長170cmで体重75kgの人はひっかかる。

⑤ メンタルの不調も歩けば回復の兆しが見える

さて、ここまで見てきたのは歩くことがいかにカラダにいい影響を及ぼすかという研究報告。これだけでも実にありがたい。でも、驚くのはまだ早い。カラダだけでなくメンタルに対しても好影響が期待できるというエビデンスがある。

心の健康を測る尺度に「うつ自己評価尺度(CES-D)」というスクリーニングテストがある。過去1週間で感じた症状の頻度を点数に換算し、20問ある質問に答えて点数が16点以上なら「うつ傾向あり」と判定される。

5か月間のインターバル速歩を行った前後でこのテストの平均点数を比較したところ、概ね点数は低下した。

トレーニング前は約20%の人が15点以上で、なかには40点近い人もいたというが、15点以上のグループの点数が顕著に下がったという結果が出た。薬に頼らずとも、歩くことでココロの健康を取り戻せる可能性は大いにある。

うつ自己評価尺度の結果

『ウォーキングの科学』(講談社ブルーバックス)より

トレーニング前のCES-Dの点数で10点以下、11〜14点、15点以上の3グループに分け、5か月のインターバル速歩を実施。11点以上はトレーニング後に点数が下がった。10点以下のグループの若干の点数上昇は季節の影響と考えられる。

⑥ 眠れないなら歩いて少しだけ疲れよう

能勢特任教授によれば、5か月間のインターバル速歩でメンタルの変化を観察したところ、CES―Dの点数が高い人ほど不眠の訴えが多かったという。

そこで、30人の中高年に改めてインターバル速歩を行ってもらった結果、睡眠中の中途覚醒が減り、睡眠効率が上がったというデータが得られたという。

インターバル速歩を朝決まった時間に行うことで、それを基準に体内時計のリズムが整い、睡眠の質もよくなると考えられます。

私自身の経験でも、歩き始めて2週間後くらいから夜によく眠れるようになりました。明日のことは置いておいてとりあえず寝よう、明日になればなんとかなる、という気分になってきます。体力が向上することで根拠のない自信が湧いてくるんですね」

体内時計のリセット因子は朝の光。最近眠れないという人は、とりあえず朝のタイミングで歩いてみることをおすすめしたい。

⑦ 決断力に富んだ人はきっと歩いている

最後に、歩くことと脳の認知機能について触れておこう。

「理由①」で筋力が強化されることをお伝えしたが、これにはまだ続きがある。筋肉にある程度の負荷をかけて刺激すると、マイオカインという生理活性物質が分泌される。

マイオカインにはインスリンの分泌や脂肪燃焼を促したり、大腸がんのリスクを低下させるなどさまざまな働きが期待されているが、そのなかのひとつにBDNFという脳の神経を成長させる物質がある。これが脳に働きかけて認知機能を活性化させる可能性があるのだ。

「また、私たちが注目しているのは血流です。インターバル速歩の刺激によってNO(一酸化窒素)という血管を柔らかくするガスが分泌され、脳に血液が運ばれやすくなることも認知機能の向上に関係していると思います。その結果、決断が早くなる傾向があるように感じます」

頼れる上司はきっと歩いている。

メリットを得るためのキーワード【インターバル速歩】

インターバル速歩のやり方

さて、ここまでの素晴らしい健康効果はすべて「インターバル速歩」を継続した結果、得られたもの。じゃあ、そもそもインターバル速歩ってどんな歩き方なのか?

まず、自分が「ややきつい」と感じる強度の速歩きを3分行う。次に息を整えながらゆっくり歩きを3分行う。これを1セットとして5セット繰り返す、計30分のウォーキングだ。

ポイントは「ややきつい」歩きを細切れで構わないので15分確保すること。


ボルグ指数 感じ方
7-8 非常に楽である
9-10 かなり楽である
11-12 楽である
13-14 ややきつい
15-16 きつい
17-18 かなりきつい
19-20 非常にきつい

主観的運動強度(ボルグ指数):ボルグの主観的運動強度と呼ばれるスケール。インターバル速歩の速歩で目指すのは13〜14の指標。若干息は切れるが誰かと会話ができるくらいの運動強度に相当する。


「ややきつい運動を始めて2分くらいすると乳酸が出てきて、人は辛いと感じます。でもあと1分で休めると思うとモチベーションが続きます。そしてゆっくり歩きで休んでいる間に、また次の速歩に臨もうという気分になるんです」

スマホのタイマーなどをセットすれば簡単に実践できる。で、効果も確実に見込める。人の心理を応用した奥深いウォーキング、それがインターバル速歩だ。

取材・文/石飛カノ

初出『Tarzan』No.866・2023年10月5日発売

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