手を当てるだけで癒し効果? 知っていると得するマッサージの雑学
心身の癒しを求めてヒトはマッサージをする。当然そのアプローチは多様で、自分に合う方法を探すのも楽しい。そこで、今回はちょっとマニアックなメソッドや、マッサージの質を高めるアイテムや、気になるちょっとした疑問など、マッサージの雑学をご紹介。
取材・文/中野慧、宮田恵一郎 編集・取材・文/門上奈央 撮影/北尾渉 イラストレーション/森優
初出『Tarzan』No.867・2023年10月19日発売
目次
① 手を当てるだけでも癒やしに。人の手の効用とは?
誰かにマッサージしてもらうと安らぎを感じるのはなぜだろう。身体心理学を専門とする桜美林大学の山口創先生は語る。
「信頼関係がある“安全な人”の手で触れられると存在が認められているという心理に。また、触れる人と触れられる人、両方のオキシトシンの分泌量を調べると、触れる人の方が分泌量が多かった。
皮膚感覚によるリラックス作用は双方にありますが、触れる人は相手を想う気持ちが相まってより多く分泌されたと考えています。
皮膚感覚は脳に直結していて、柔らかく温かいものが触れると副交感神経が優位に。大事なのは優しく触れることで、手を当てるだけでもリラックス効果が得られます。
皮膚には心地よさを感じる神経があり、顔や前腕、背中に多く分布します。ちなみに手を動かす場合は1秒間に5〜10cm程度の速度で、400〜500gほどの圧をかけるのが最適というデータもあります」
② 米粒ツボ療法が不調にキク理由
不調を感じる部位に米粒を貼って揉むという斬新な民間療法がある。その名も米粒ツボ療法。
「ツボを刺激すると脳内モルヒネ様物質が分泌されて痛みが緩和されます。また米粒のような突起物をツボに貼り微小な炎症を引き起こすと、それを修復するために血流が促進されるという仕組みです」(全日本鍼灸マッサージ師会の仲嶋隆史さん)
やり方は、凝りや痛みの箇所やツボに米粒を乗せ、親指で上から軽く揉むだけ。米粒は絆創膏などで固定してもいいが、長時間貼り続けると炎症が悪化しかねないので2日程度を上限にしよう。ちなみに米はゴマでも代用可。先人の知恵はスゴい!
合谷(ごうこく)
人差し指と親指の骨の交差する場所の人差し指側にあるツボ。肩や歯の痛みに効く。
曲池(きょくち)
肘のしわの端にあるツボ。肩こりの解消のほか、便秘や下痢などの消化器系にも効く。
③ フィンランド生まれのマッサージストーン
フィンランド伝統の天然石「カレリアンソープストーン」をご存じだろうか。高密度かつ保温保冷に適した性質で、元来暖炉に使用されてきた。
「石を温めてリンパを流したり、冷やしてむくみケアにも。匂いや液体が染み込みにくく、洗うだけで繰り返し使い続けられます」(HUKKA DESIGNの大川久美子さん)
石の角で滞りが気になるところを刺激して巡りを整えよう。
HUKKA《ポイントマッサージ ソープストーン》
各3,278円。WEBサイト
石を温める際はお湯に10〜20秒ほど浸し、冷やす際は冷蔵庫に入れておくだけでOK。石といっても表面が滑らかなので全身に使用できる。重量約0.2kg。
④ 整骨院・接骨院の施術師の資格とは?
街で見かける整骨院、接骨院は国家資格「柔道整復師」保持者による施術所。
昔の武士は剣術・柔術等の「殺法」とともに応急処置・蘇生術「活法」を身につけていた。外科手術のように切開せず投薬も行わず、手技で自然治癒を促すのが特徴。これが大正以降に西洋医学と合流して「柔道整復術」となり、骨折や脱臼、捻挫の治療に生かされている。
肩こりや腰痛などのマッサージ治療は、同じく伝統療法由来の国家資格「あん摩マッサージ指圧師」が必要となる。
⑤ マッサージオイルの活用は次なる一手?
マッサージのオイルと聞くと、セクシャルなイメージを抱いてしまう男性読者もいるかもしれない。それは大きな誤解だ。
「オイルによるケアは海外のトレーナーの間では非常にメジャーで、スポーツマッサージといえばオイルというイメージが普及しています。オイルを使う方が揉み返しが少なく安全にアプローチでき、凝りや痛みのある箇所をほぐすのに有効です」(中野ジェームズ修一さん)
だが日本ではオイルに対する固定観念もあり、あん摩マッサージ指圧師の資格がなければマッサージを実施できないなど、普及のハードルが高いという。
「ただしオイルの効用を思えば、日本のマッサージ制度の再考が今こそ重要かもしれません」
オイル・オブ・エミュー
Sサイズ(20mL)1,980円〜 WEBサイト
セルフマッサージに使えるオーストラリア産のオイル。天然由来成分100%で、浸透性・潤滑性に優れる。ボディケアはもちろん、スキンケアにも使用可能。
⑥ ソコ、くすぐったい!!という皮膚感覚の正体
誰かにマッサージされるとくすぐったい、なんて人も一定数いるのでは。そもそもくすぐったいという感覚って一体何?
「くすぐったさには主に2種類あり、それぞれ異なる刺激から生じます。一つは軽い刺激から生まれるもので、虫が皮膚を這うような動く刺激により生じる痒みに似た感覚。
もう一つは脇など特定の部位に圧がかかって生じる痛みに近い感覚です。中世には死に至るまでくすぐったり足裏をヤギに延々と舐めさせるという拷問もあったそうです」(桜美林大学の山口創先生)
くすぐったい時、身をよじったりしてその刺激から逃れようとする。これは不快を回避する防衛反応の一種ともいえよう。それでいて笑いが伴う理由は?
「幼少期に経験したくすぐり遊びとしての喜び(快)が入り混じるのが一因と考えられます」
⑦ マッサージの祖? 東西の伝説的医師
ヒポクラテス
紀元前460年頃生まれ。「西洋医学の父」と呼ばれる古代ギリシアの医師。「医師は医学理論だけでなくマッサージも習得しなければならない」と説いたとされる。
驚くべきは、治療に東洋医学的な鍼灸も用いていたこと。
ヒポクラテスは「カラダのどの部位が病んでいるか」よりも全身のバランス回復を治療の目的として重視し、医師の仕事は「患者の自然治癒をサポートすること」だと考えていた。
黄帝(こうてい) 
生没年不明。古代中国の伝説上の君主。人々に農作物や薬草に関する知識を教えた炎帝(神農とも呼ばれる)の事業を引き継ぎ、その知識を体系化したとされる。
現存する中国最古の医学書『黄帝内経』では、黄帝と家臣たちとの対話形式で健康と医学が論じられている。按摩(≒マッサージ)や鍼灸の方法論もあり、その目的は「全身のバランスを回復させること」と位置づけられている。