中高年を中心に増加中。視界が歪む「加齢黄斑変性」とは?
目を支える毛細血管に問題を生じて血流が悪化すると、物の見え方が急激に変化したり、視力低下が止まらなくなって、最悪の場合失明に至る加齢黄斑変性は、急ぎ眼科専門医に相談を。
取材・文/廣松正浩 イラストレーション/横田ユキオ 取材協力・監修/平松類(二本松眼科病院副院長、医学博士、眼科専門医) ※より詳しい情報は、YouTubeチャンネル『<a href="https://www.youtube.com/@hiramatsurui" target="_blank" rel="noopener">眼科医平松類</a>』で確認を!
初出『Tarzan』No.866・2023年10月5日発売
視界が歪んで見える「加齢黄斑変性」
何の気なしに片目で見たらビルが曲がって立っている。表計算ソフトの罫線が均等ではなく、歪んで見えた。正面の人の顔が見えにくくなった。そんな衝撃的な体験をした人は、加齢黄斑変性を発症している可能性がある。
普段あまり耳にしない病名だが、欧米では成人が視力を失う原疾患の第1位。日本では比較的少なかったが、近年急増し続けている厚生労働省の指定難病だ。
片方の目でこう見えたら即座に受診を
物を見る能力の中核を担う黄斑に異常が起きると、対象が歪んで見えたり(左)、視野の中心が暗くなる(右)ことがある。だが、視線を少しずらすと意外と見えることもあって、受診の遅れる人がいる。
約10年間でこんなにも急増した!
福岡県久山町の住民を対象に1998年に実施した調査では50歳以上の住民の0.87%に加齢黄斑変性が認められた。これを日本の人口に換算すると約37万人だったが、2007年には1.3%に増加。これを日本の人口に換算すると約69万人とほぼ倍増していた。病名の通り、高齢になるほど多く発病し、女性に比べ男性には約3倍多く見られる。
加齢黄斑変性はなぜ起こる?
さて、黄斑は網膜の中心、直径1.5~2mmほどで、網膜の他の部分に比べ格段に優れた視機能(視力や視野)を誇る部位。見る対象が少しでも黄斑からそれると対象はぼやけ、見にくくなる。
加齢黄斑変性はここに変性が起き、視野の中心部から見えにくくなっていく眼疾患。ということは、一番見たいところに限って見えなくなるということだ!
加齢黄斑変性は日本人に多い滲出型と欧米人に多い萎縮型がある。網膜直下の網膜色素上皮は、網膜が生み出す老廃物を処理するが、滲出型では老化などで機能が低下すると老廃物が沈着し始める。
沈着物は脈絡膜から網膜への酸素と栄養の供給を妨げるため、これを解消しようと網膜色素上皮は血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を作り始める。これに刺激され脈絡膜は新生血管を延ばし、老廃物を吸収しようとする。
日本人に非常に多い滲出型
網膜色素上皮と脈絡膜の間にはブルッフ膜という膜(細胞外組織)がある。老化に伴い、ここに沈着物が蓄積すると、脈絡膜からの栄養や酸素を網膜に届けにくくなる。
すると酸欠がシグナルとなって網膜色素上皮から血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の産生・分泌が促される。新生血管を成長させて栄養や酸素をより多く供給し、網膜を回復させようとする生体反応だ。
だが、困ったことにこの急ごしらえの血管は非常にもろく、網膜直下で血液の成分を漏らしたり出血を起こす。このため黄斑部がむくんだり、ダメージを受けて視力が急激に低下することもある。
一方、萎縮型では新生血管を伴わないので、滲出や出血はなく、網膜色素上皮や網膜の視細胞が徐々に萎縮していく。
外来では視力、眼圧の検査をはじめ、通常の眼底検査だけでなく、カラー眼底写真撮影や光干渉断層計(OCT)検査などが行われる。光干渉断層計で検査すると、黄斑の拡大断面図を見られるので、病状の程度がはっきりわかる。
変性を起こしているのが片方だけなら、見えない部分を見える目からの映像で脳が補うため発見が遅れ、初診時には既に症状が進行していることも多い。
早期発見、早期治療開始には、日常生活の中でのセルフチェックの習慣化も必須だ。下のチャートを活用してほしい。
目のために自宅でのセルフチェックを習慣に
適当な大きさにコピーし、壁に貼るなどして目の前30cmほどの位置に固定したら、片目ずつ格子の中央の点を見る。線が歪んで見えたり、中心や周囲の一部が欠けて見えたりしたら受診のタイミングだ!
第一選択の治療法は「抗VEGF療法」
新生血管がまだ中心窩(黄斑の中で最高の視力を持つ箇所)にまで進んでいない患者の治療では、新生血管をレーザーで焼く光凝固術が広く採用されている。焼きつぶした新生血管は成長が止まり、病状は進行しなくなり、なかには血液や滲出物が吸収されて、視力が改善する人も現れる。
新生血管が中心窩に及ぶと、レーザーで焼けなくなる。そこを焼くと視力が大幅に低下しかねないからだ。点滴をしつつレーザーを当てるという特殊な方法もあるが、入院も必要で大変な治療だ。
そこで、2000年代に入ると硝子体に注射をする抗VEGF治療が始まったが、1回の注射で効果が続くのは3か月程度にとどまり、必要に応じて複数回の追加注射が勧められる。
だが、眼球への注射に抵抗を感じる人は多いし、薬剤費が高価であることも患者にとっては悩ましい。とはいえ、滲出型加齢黄斑変性の新生血管に対し、抗VEGF療法は第一選択の治療法となっている。
滲出型には抗VEGF療法で対処
最初の3か月は毎月1回注射し、その後は病状次第で追加が決まる。病状の進行を抑えるだけでなく、患者によってはある程度の回復も見込める。
予防のためにできることは?
予防、あるいは治療効果の向上のため、我々にできることも少しずつわかってきた。2006年にアメリカで始まった大規模前向き研究、AREDS2ではルテインとゼアキサンチンに病状の進行抑制効果が認められた。
ゼアキサンチンはルテインと同じく、緑黄色野菜に豊富なカロテノイドの一つ。どちらも強い抗酸化力を持ち、有害可視光線のブルーライトを吸収する働きを持つ。まずは食事で緑黄色野菜を積極的に摂るべきなのは当然だが、サプリメントでの補充もお勧めだ。
また、肥満させたマウスでは脂肪組織のマクロファージが炎症促進性に傾き、その後肥満を解消してもこの傾向は持続したという。そして、このマクロファージは脂肪組織からさまよい出て、目に辿り着くと加齢黄斑変性をもたらすことがあるという研究が最近発表された。
これがヒトにもあてはまるなら、加齢黄斑変性を生活習慣病として捉えることができ、メタボ対策が有効である可能性が出てくる。
出発点は脂質過多の欧米型食生活か?
その延長線上に見えてくるのが、先進国に多いω―6系不飽和脂肪酸の過剰摂取。代表的なω―6系不飽和脂肪酸であるリノール酸をマウスの食事に高濃度で加えたところ、血中、眼球組織中にリノール酸の代謝産物が蓄積し、病状を悪化させる可能性があるという報告があった。
これもヒトにあてはまるならEPA、DHAなどω-3系の不飽和脂肪酸の補充が改善策の候補になるだろう。
リノール酸の過剰摂取がよくない?
マウスの食事にリノール酸を高濃度(15%)で加えて3か月間飼育。左:高リノール酸群は網膜色素上皮と脈絡膜で血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の濃度が有意に上昇。右:脈絡膜新生血管の体積も通常食群より有意に大きくなった。
小さい部位ながら大きな働きを担う網膜は、酸素や栄養の要求量が多い。日々それを届ける毛細血管は狭い眼窩内に密集する。
生活習慣病の多くは、脳や腎臓など毛細血管の密集部位から始まることが多い。毛細血管の隅々まで血流が滞ることのないよう心がけ、目から生活習慣病を遠ざけよう。
目のために摂るべきものと避けるべきもの
目のために摂るべきもの:ルテイン、ω-3系不飽和脂肪酸、アントシアニンなど、緑黄色野菜(ビタミンC)、ビタミンE、ビタミンA、亜鉛、複合サプリメント
目のために避けるべきもの:タバコ、ファストフード、高カロリー、高塩分、高脂肪分