日本人が失明する原因第1位「緑内障」。早期発見のためにできること

よく見えない箇所が出現し、以前より視野も狭くなってきたら病気の始まっている可能性がある。日常生活に不便がなくても、一刻も早く眼科専門医に診てもらい、症状の進行を最低限に押さえ込もう。

取材・文/廣松正浩 イラストレーション/横田ユキオ 取材協力・監修/平松類(二本松眼科病院副院長、医学博士、眼科専門医)

初出『Tarzan』No.864・2023年9月7日発売

緑内障

近年、緑内障は増え続けている

両目で見れば問題ないのだが、片目をつぶると視野の中に見えにくい場所がある。目が疲れてくると、電球など光を発するものの周りに虹のような光の輪が見える。こんな症状が表れるようになった人には、緑内障が始まっている可能性がある。

名前の似た目の病気に白内障があるが、二つはまったく違った病気だ。白内障はカメラでいえばレンズにあたる水晶体が濁って見えにくくなる病気で、程度の差こそあれ年をとれば全員がなる。

一方、緑内障は網膜に映った像を視細胞が電気信号に変換し、その信号を脳に伝達する視神経が少しずつだめになることによって見えない、見えにくい場所が現れる(視野欠損)病気。

誰もがなるとは限らない。だが、近年緑内障は増え続けている。

これでもほんの氷山の一角
緑内障 これでもほんの氷山の一角

出典/ 令和2年患者調査 傷病分類編(傷病別年次推移表)厚生労働省政策統括官を改変

単純比較できる期間だけでも、医療機関で確認できた患者数は爆発的に増え続けた。

冒頭に両目で見れば問題ないと書いたが、片方の目に見えない、見えにくい場所が現れても、もう一方の目に問題がなければ、脳は見える目からの情報と合成して認識するため、何となく見える。おかげでこの病気は見逃されやすい。

緑内障は左右の目に同時に発生、進行するとは限らないのだ。特に初期には自覚症状が乏しいため気づかず、医療機関を受診していない患者が膨大な人数存在しているのは間違いない。

患者数の増加に高齢化が影響しているのは間違いないだろう。緑内障疫学調査(多治見研究)によると40代、50代の有病率は比較的低いものの、60代から急増し始める。80歳以上になると男性は女性の2倍近くとなる。

緑内障の年代別有病率
緑内障の年代別有病率

出典/ 多治見疫学調査報告書, 2012 (日本緑内障学会)

実施期間:2000年9月~2001年10月。対象者:岐阜県多治見市に在住する40歳以上の住民から4000人を抽出。調査の結果、70歳以上の10人に1人は罹患していた。

高い眼圧を放置すると視野欠損が進行

では、なぜ視神経がだめになるのか?

これについては諸説あり、主なものにはまず何らかの原因で視神経の血流が低下することによるとするもの。高齢者に多いことから、単に加齢によるとするもの。

あるいは、そもそも視神経が弱いからだとするもの。そして、眼内を巡る房水の産生と排出のバランスが崩れ、眼内の圧力(眼圧)が上がることによって、視神経を圧迫するからとするものなどがある。

眼内の房水の流れの低下も一因か

緑内障 眼内の房水の流れの低下も一因か

何らかの原因で隅角に閉塞が起きたり、線維柱帯に目詰まりが生じると房水の排出が滞り、行き場を失った房水は眼内に淀み、眼内の圧力(眼圧)を高め、視神経に障害をもたらすと考えられている。

房水の滞留は眼内全体に影響する

緑内障 房水の滞留は眼内全体に影響する

角膜、水晶体、硝子体には光を通す必要から血管がない。これらの部位は毛様体が産生する透明な房水から酸素と栄養を受け取っている。房水が滞留すると眼内の全体の圧力が高まり、視神経を圧迫する。

房水の排出が滞りがちな場合は、手術で排出路を設けることもあるが、投薬などで眼圧を治療のターゲットにすることは多い。正常とされる眼圧は10~20mmHgだが、この“正常”とはあくまで平均値程度の意味。これより高い眼圧でもまったく問題ない人がいれば、ずっと低いうちから問題を生じる人もいる。

10~20mmHgが正常ならば、日本人の緑内障患者の7割は実は正常眼圧だ。それでも眼圧を3割下げると、視野欠損の進行を抑えられる可能性が高いため、医師の多くは眼圧の低下をよしとする。

それは眼圧をそのまま放置すると視野欠損が進行し、最悪の場合失明の可能性があるからだ。

日本人の目の天敵が緑内障だ
緑内障

出典/中高年失明原因疾患(2017年度研究報告書/厚生労働省)

これほど猛威を振るっていながら、病変に気づいていない患者が多く、治療を受けているのは全患者のせいぜい1割だとする報告もある。

定期検診があれば怠けずに受けよう

確かに現在、緑内障は日本人が失明する原因の第1位。

そう聞くと恐怖にとりつかれる人も多いだろうが、緑内障の治療は日進月歩で、期待の新薬も少なからず登場している。専門医による適切な治療を受ければ、発病から20年間で両目を失明する人はわずか1.4%にとどまるとする研究論文もある。

ただ、残念ながら現在の医療では緑内障の進行を最低限にとどめることはできても、失った視野を取り戻すことはできない。だからこそ、早期発見と早期治療開始が喫緊の課題となる。職場に定期検診があれば怠けずに受けよう。特に40歳以上は年に一度は受診すべし。

定期検診の他にも週に一度はセルフチェックを
緑内障

原図出典/『自分でできる!人生が変わる 緑内障の新常識』(平松 類著/ライフサイエンス出版)

検診の結果に異常はなくても、早期発見に努めるには片目をつぶり、30cmほど離れた位置からカレンダーの中央を見て、見えにくい箇所があるか、ないか、そんな箇所が以前より増えていないかの確認を習慣化しよう。変化があれば即座に受診だ!

ルテインは試してみる価値のあるサプリかも?

罹患のリスクを少しでも下げるには、日々の生活の中での自助努力も意味がある。たとえば、血糖値の高い人は眼圧が高くなることがわかっている。また、5分間で1Lの水を一気に飲んでも眼圧は6~7mmHg上昇するし、スマホを30分ほど見ても平均0.6mmHg高くなるという報告がある。

意外なところでは、管楽器を強く吹いても、あるいはスキューバダイビング時にゴーグルで目の周囲を圧迫しても眼圧は上がってしまう。それどころか強度の高い筋トレでも一時的ではあるが眼圧は上がりやすいという。カラダにとって負担の重い行為、生活習慣は目を追い詰める可能性がある。

一方、目の劣化を少しでも遅らせたければ、紫外線のもたらす酸化を抑える食事戦略も心がけよう。目の黄斑部に多く含まれる抗酸化物質・ルテインは40歳ごろから減ってくる。ルテインの豊富なホウレンソウを定期的に食べるのはよいことだが、尿路に結石のできやすい人はサプリメントで1日10mgを補うのがお勧めだ。

正しい目薬の差し方も覚えておこう

緑内障は慢性疾患なので、診断が下れば通院、治療が一生続くことになるが、症状が安定していれば通院は1~3か月に1回が一般的だ。多くの場合、最初の選択肢としては内服薬や目薬が処方される。

ここで最後に要注意なのは目薬で、実は正しく差せていない人が圧倒的に多い! 上手な差し方と間違いを図示しておくので、覚えておくといいだろう。

賢い、正しい目薬の差し方

緑内障 賢い、正しい目薬の差し方

利き腕ではない方の手をげんこつに握って頰に置いたら、目薬を持つ手をその上に乗せると安定して差しやすい。

緑内障 賢い、正しい目薬の差し方

差した直後にパチパチと瞬きをすると涙の分泌増を招き、有効成分が薄まることも。差したら目を閉じ、1分程度目頭をそっと押さえるのがいい。

統計だけを見れば、いずれ失明する重大疾患にも見えるが、専門医の治療をきちんと受け続ければ、ほとんどの場合天寿を全うする日まで、物を見る力は保ち続けられる。また、近い将来、抜本的治療法も必ず出現するだろう。悲観するのはまだ早い!

INFORMATION:より詳しい情報は、YouTubeチャンネル『眼科医平松類』で確認を!