競歩という種目を通して動作の解像度が高くなりました
走って近づいてくる人がいる、と思ったら日本競歩界のエース、山西利和さんその人だった。なにせ競歩のスピードはキロ4分弱、マラソンのサブスリーランナーのスピードと同等。超速いウォークなのだ。
「競歩に出合ったのは高校生のとき。中距離競技をやってたんですが、カラダの使い方を一から考えたことがなかったんです。
ところが競歩には徒歩と違う動きとスピード感、しかもルールまである。新しい動作を獲得していく作業に興味を覚えました」
ルール1は両足が同時に地面から離れてはいけない。ルール2は接地の瞬間から脚が地面と垂直になるまで前脚の膝を曲げてはいけない。これを厳守しながらより速く歩くためには、複雑な動作が必要。
「着地時に爪先を起こすときには脛の前の前脛骨筋、膝関節を伸ばす大腿四頭筋が働きます。これらはブレーキの動きです。その直後に大臀筋やハムストリングスといったアクセル役の筋肉を働かせる。
止めると進むを一緒にやっているような競技なので、その2つがケンカしないよう両立させなければいけない。ひとつひとつの動きを分解して、反復練習をして試行錯誤しながら組み合わせていくんです」
思った以上に競歩の世界は奥が深い。
ランのように地面反力を利用せず自力でガシガシ進んでいく選手もいれば、地面反力と自力の調和に磨きをかける山西さんのような選手もいる。試行錯誤の中でそうした動きをアップデートさせていく。
「競歩を通してカラダの動きの解像度が高くなったなと思います。AとBしかなかったところにCという選択肢が増えて動きの精度がさらに上がる。
今はそれに加え、パリ・オリンピックに向けて他の競技者より頭ひとつ上に行く努力をしています」
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