タスク化と実践。脳が喜ぶタスク設定の仕方:楽しくてやめられないクセ化への道③

タナカカツキさんと広岡ジョーキさんとともに、タスクメソッドの真髄に迫る短期連載 全4回/第3回目。引き続き、詳細な下準備と気をつけるべきポイントのお話。

取材・文/山本加奈 撮影/幸喜ひかり マンガ/タナカカツキ 編集/金井タオル

タナカカツキ マンガ家 サウナ タスクメソッド

タナカカツキさん

教えてくれた人

1966年、⼤阪府⽣まれ。1985年マンガ家デビュー。⽇本サウナ・スパ協会公認サウナ⼤使。サウナ愛好者のバイブル『サ道』の原作者。

広岡 ジョーキ タスクメソッド

広岡ジョーキさん

教えてくれた人

リトルプレスの企画編集、執筆、デザイン、翻訳、クリエイティブコーディングなど、領域を横断しながらタスクメソッドで活動中。

タスクとは「20分で出来ること」

タナカカツキさん(以下、カツキ):ここからは「タスク」スキルを使って、いよいよクセ化の実践をしていきましょう。

――そもそも、タスクって何ですか? ToDoリストみたいなものですか?

カツキ:いい質問ですね。前回の「イメージング」で描いたワクワクする未来のイメージから逆算して、それを実現するために「やること」にブレイクダウンしていくわけですが、この「やること」を「タスク」と呼んでいます。

ToDoリストとの大きな違いは、タスクとは「今日出来る、20分程度のこと」であること。20分以内で出来ることに、とことん細分化したものが「タスク」なんです。

――「毎朝ランニングをして、爽快な気分で颯爽と仕事に向かう、デキる自分」というイメージだったら「20分ゆっくりと走る」とか?

カツキ:タスクは今日できる20分間のことと言いました。だけど、いきなり「20分間、家の周りを走る」というタスクは、むちゃくちゃハードルが高いじゃないですか。これでは、脳はワクワクのかわりに義務感を感じてしまう。

――はい、イメージしただけで嫌になりました。

カツキ:ですので、心が負荷をまったく感じないレベルまで下げましょう。これからランニングを始めたいのならば、最初のタスクは「20分間、シューズのカタログを見る」です。

――ええ! そこまで、負荷を軽くするんですか。

カツキ:そこがポイントです。だって、最新のシューズをチェックしている時間は楽しいでしょう?

――「毎朝ランニングをして、爽快な気分で颯爽と仕事に向かう、デキる自分」が履いている最新のシューズを選ぶ時間には、たしかにワクワクします。

カツキ:脳は「嫌なことなんて絶対やりたくない」と考える臓器です。楽しいと思うことしかやりたがらない。自分の命にとって快適と思う方向にしか舵をきらないから、そのタスクを義務だと感じた瞬間にクセ化の道は遠のくわけです。

「タスク」って、遊びのように楽しめるものなんです。タスク化のコツも、イメージングと同様に「ワクワクする」ところまで細分化することです。

――となると、「シューズをチェック」の次にくるのは…?

カツキ:「シューズを購入」ですよね。ショッピング、楽しいですよね。買ったら、早く履いてみたいって思うでしょう。履いてみたら、ちょっとだけ走ってみようとなる。ワクワクを維持したまま、気づいたら走り始めているんじゃないでしょうか。

しかし、どんなに楽しくても20分走ったら帰る。 そして、その楽しみを明日にとっておくんです。そうすると、走り足りないから「これ、明日もやりたい!」と、脳は思うわけです。

――思った以上にハードルを下げるのが斬新ですね。

広岡ジョーキさん(以下、広岡):「タスクメソッド」は、小さく始めるのが鉄則なんですよね。

――ちなみに「20分」という枠には、何か理由があるんですか?

広岡:1タスク20分の法則は、「ポモドーロテクニック」という起業家のフランチェスコ・シリロ( Francesco Cirillo )さんが提唱した時間管理術のメソッドを参考にしています。

――時間管理術や仕事効率化のメソッドとして聞いたことがあります。スマホやPC用のタイマーも色々と出ていますよね。

カツキ:厳密に20分でなくてもいいのですが、「1タスク:20分前後」を一区切りで、5分程度の休憩をはさむルーティンを、1ユニットとするのが原則です。これなら、1時間で2〜3タスクこなせます。このユニットの繰り返しは、脳疲労が少なく、効率的かつ継続しやすいとも言われています。

――脳が疲れないから続けられる、ということですね。

カツキ:私の経験則でも、20分くらいならだいたいのことは楽しい状態を保ちながら出来るんです。脳が楽しいと思えるレベルの負荷で続けていると、いつの間にか「遥か彼方だと思っていた理想」にかなり近づいていた! という状況になっていることに驚くと思いますよ。

タスクを実際に書き出してみる

カツキ:ここでもう一つの重要なスキルをお伝えしましょう。やはり、イメージング同様に「書き出す」ことです。できるだけ細か〜く具体的に書いてください。筋トレを始めるなら、ウェアやギアにも意識を向けてみましょう。

スタートしたばかりのタスク表は、こんな風に書かれていると思います。

  • 通うジムを調べる
    • ジムまでの距離を調べる
      • ジムまでの交通手段
    • ジムの会費を調べる
      • 営業時間によって会費が変わる
      • 始業前に行くのか、就業後に行くのか
      • 始業前だとしたら、ウェアはどうする?
    • ジムの設備を調べる
      • どんなトレーニングをしたいのか
      • 設備の使い方を調べる
  • 会費を生活費から捻出するためのタスク
    • 自炊を増やすために料理系YouTuberを調べる
    • フリマアプリで売れそうな不用品をまとめる
  • ギア
    • ウェアやシューズを調べる
    • 家トレ用のギアを調べる
    • ギアがなくても出来るトレーニングメニューを調べる

――リストアップしてみれば、ほとんどが調べることですね!

カツキ:そうなんです。初期フェーズでは「調べる」というタスクが多くなっているはずです。イメージングでも出てきましたが、リサーチはタスク化でも大事な要素です。

さて、通うジムが決まり、入会手続きが済みました。そうしたら、完了した項目は消していきましょう。そして、削除したスロットに入るのが「ジムに行く」です。

――細分化するあまり、気の長い話だなって感じていたのですが、やろうと思って何か月も過ぎ去ってしまっていた過去と比較すると、気がついたらジムに通っていますね。

カツキ:楽しくタスクをこなしていたら、理想にかなり近づいていた! とは、こういうことの積み重ねなんです。

――でも、ジムに行って20分で帰るなんてコスパが悪すぎません?

カツキ: せっかくジムに行くのであれば、20分なんかで帰っていられませんよね。限られたタスクの枠で「ジム20分」と「ジム1時間」のどちらを取るか。私の場合で言うと、サウナがそれに該当します。

タナカカツキ タスクメソッド 今日はそんな日

サウナは2時間かかります。1日24時間のうち、2時間はサウナに捧げないといけない。そこは、決意をして2時間コースなんです。自分の人生において、何を優先するのか。自分で決めたのであれば、サウナ2時間コースでもいいのです。

――優先順位を付けていくわけですね。

広岡:このタスクメソッドは応用が効くので、僕の場合は仕事以外の朝食や掃除なんかもタスク化しています。細分化したさまざまなタスク・ユニットを回すことで脳がリフレッシュされ、仕事も以前より楽にこなせるようになりました。

「ついついやってしまう」という落とし穴

――20分で終えようと思っても、たのしくなってついつい1時間やってしまうこともありそうですが。

カツキ:そうなんです。僕たちは、ついついやっちゃう人生を送ってきてますから。

広岡:ドラマやゲームで夜ふかししちゃった、というのもわかりやすい例ですよね。

カツキ:なので、やり始めることが出来るようになったら、今度は止められないという矛盾にぶち当たるんです。筋トレも、ゾーンに入って「今日はノリにノッて、2時間もやったぜ。自己肯定感も達成感もマックス!」とかね。

その時は充実していても、翌日は体中が痛くてダルい。結局、ハンモックで一日揺られて習慣化終了、なんて事になりかねない。

――がんばったあげく、燃え尽き症候群みたいな状態になる。

カツキ:脳は20分以上何かをやると、過集中、もしくはゾーンに入って冷静さを欠いてしまう傾向があるようです。

私の場合、毎日マンガの作画作業がありますが、 20分以上続けると大事なコマを見落としたり、セリフを入れ忘れてしまったりする。冷静に物事をみられなくなることが、しばしば起こります。

――タスクメソッドにゾーンは必要ないどころか、ゾーンに入る前に止めるのが大事なのか!

広岡:作業の途中で終わるのって気持ち悪いですよね。むしろ「このまま続きをやりたい!」というモヤモヤを、次にタスクを始めるときのモチベーションとして利用する発想です。

必ず確保すべきは“睡眠時間”

――タスクを書き出す際に、他に気をつけることはありますか?

広岡:起こりうる最大の被害は、睡眠時間を削ってまでタスクを詰め込んでしまうことですね。

カツキ:どんなことがあっても、睡眠時間だけは死守してほしいです。睡眠は万人に共通して必要な生命活動であり、人生で最も大事なタスクといっても過言ではないでしょう。

広岡:にも関わらず、時間を作るために真っ先に削られるのが睡眠ですからね。

――睡眠を削ることで起きるマイナスの影響とは?

カツキ:憧れや夢というのは、ある程度の年数をかけないと実現しませんよね。睡眠によって十分な回復と成長を養うことなく、世界的なバレリーナにはなれないし、ボディビル大会の覇者になることは難しい。

タスクメソッドは時間を味方に付け、中長期で実行していくメソッドです。そのためには、最大のメンテナンス機能である睡眠は何があっても優先したい。

もし睡眠時間を削って働かないと収入が足りないのであれば、 睡眠を削るのではなく、生活のレベルを落とすべきなのかもしれません。

――適正な睡眠時間はありますか?

カツキ:様々な論争がありますが、現時点では7.5時間が健康維持に効果的だと言われています。7.5時間〜8時間から始めて、調整していくのがいいのではないでしょうか。

広岡:僕の場合は試行錯誤の結果、現在は6時間に落ち着いています。しかもタスクメソッドを取り入れてから、不眠症が改善したんですよ。

――思わぬ副産物までついてきた。睡眠が犠牲にならない範囲でタスクを作るように心がけたいと思います。

カツキ:そうなんです。タスクを作るとき、まずは睡眠と1日の中でやらねばならないことの時間を確保しましょう。その上で、自分が実行可能なタスクの時間を割り出していきます。

23時に就寝して、7時に起床。8時に出社して、17時に退社。帰宅後に食事、育児や親の介護があるとします。結果的に自由な時間は1時間しかない…。それなら、そこから始めればいいのです。1時間あれば、筋トレでも読書でも意外と出来るものです。

――考え方としては「ながら」や「スキマ時間」にも通じますね。

カツキ:20分は、工夫次第で意外と差し込める長さですからね。通勤時の読書なんて、最もクセ化しやすい気がします。さらに通勤ラッシュを避けて、早めに出勤すれば、始業までにオフィスで1タスクこなすことも出来そうです。そういうゲームをしていると考えると、より楽しくなりますよ。

――さっそく、毎日楽しく続けられるタスクを作って実行してみます!

広岡:次回は、いよいよ最終回。「タスクメソッド」を始めたはいいけれど、いろんな疑問やトラブル発生。よくある問題と解決法を、僕らの実体験を通じて紹介します。

(第4回:2023年11月12日公開予定 へ続く)

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