患者の肉体的負担を軽減。新しい「腸内フローラ移植(便移植)」とは?

健康な人の便の細菌を病気の人の腸の中に入れて腸内細菌のバランスを変え、難病を治療に導く腸内フローラ移植=便移植。内視鏡を使った従来の負担が大きい方法とは異なる、より負担の少ない便移植が「注腸方式」。そんな“辛くない”便移植の仕組みや効果について教えてもらった。

取材・文/黒田創 イラストレーション/石山好宏(記事中)、AdobeStock(TOP画像) 編集/阿部優子

初出『Tarzan』No.864・2023年9月7日発売

新しい「腸内フローラ移植(便移植)」とは?

辛くない腸内フローラ移植って?

健康な人の便の細菌を病気の人の腸の中に入れて腸内細菌のバランスを変え、難病を治療に導く腸内フローラ移植(便移植)をご存じだろうか。

海外では約20年前から、日本でも近年臨床実験が行われているが、その最前線に立つのが〈ルークス芦屋クリニック〉の城谷昌彦院長だ。

「従来の便移植療法は乱れた状態の腸内細菌を抗菌薬で死滅させ、健康な人の腸内細菌を移植するやり方ですが、内視鏡を使用するため患者さんの肉体的負担が大きかったり、治療に時間がかかるといったデメリットがある。

また抗菌薬の投与で腸内細菌の多様性が失われるリスクも考えられます。私どもが所属する〈腸内フローラ移植臨床研究会〉が採用する便移植療法は、腸内の有機的な汚れを剝がす水素ナノバブル水と移植用の腸内細菌溶液を混ぜて注腸します」

従来の便移植と新規の便移植

新しい便移植では肉体的負担の少ない注腸方式を採用。移植菌液を内粘液層まで届かせることで健康な菌を確実に移動、生着させる。移植回数は通常3~6回。自費治療で総額200万円程度かかるが大きな効果が期待できる。

「抗菌薬は使いませんし、1回の移植時間は5~10分程度。事前の処置も入院の必要もありません」

もちろん、移植する腸内細菌のドナーの健康管理や便の検査など品質管理は徹底したうえで、同研究会全体で過去に約700件の移植治療を行い、慎重に経過を観察している。

水素ナノバブル水で希釈、調整された実際の移植菌液

水素ナノバブル水で希釈、調整された実際の移植菌液。患者の腸内環境に応じて異なる濃度の菌液が注入される。

生理食塩水と水素ナノバブル水を用いた便移植(マウス)
生理食塩水と水素ナノバブル水を用いた便移植(マウス) グラフ

出典/Bioactive Compounds in Health and Disease 2020; 3(8): 141-153 論文内のデータを抽出してグラフ化

マウスによる便移植実験結果。水素ナノバブル水を使った新しい便移植の場合、生理食塩水を使った従来の方法に比べて腸内フローラのバランスがより大きく変化し、健康な腸になっていることがよくわかる。

「疾患別では過敏性腸症候群やアトピー、現在臨床研究を始めている自閉スペクトラム症などに改善が見られました。今後も臨床試験を通じて、便移植の可能性を探る所存です」