知りたい、私の腸タイプ。腸内細菌検査でわかる食事改善プラン
腸活の一環として、健康意識の高い人たちの間では既に定着し始めている腸内細菌検査。方法も進化していて、より簡便に自分の腸内環境がわかるようになっている。実際の検査結果を参考に、腸との向き合い方を学ぼう。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/タイマタカシ 取材協力/国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
初出『Tarzan』No.864・2023年9月7日発売
目次
腸内細菌検査はコンビニエンスな時代へ
日本人の腸内細菌叢は世界でも類を見ない特殊性があるらしい。その特性を生かしてどんどんポストバイオティクス(詳しくはこちらの記事:腸内環境研究の最前線。注目のポストバイオティクスって?)を作り出せば、日々の健康を支えてくれるだろう。でも、目には見えない細菌たち。毎日の排便がスムーズなら腸内環境は一応良好らしいが、それ以外に腸内細菌叢の状態を手軽に知る術はないものか?
今のところ行われている腸内細菌検査は、検体の糞便から腸内細菌の遺伝子を解析する方法。厳密なゲノム解析だから時間にして1か月以上、お金にして数万円とそれなりにかかる。ところが、将来的にはその日のうちに、ひょっとするとワンコイン価格で腸内細菌検査が可能になる日が来るかもしれないという話。
まさに今その基盤を作ろうとしているのが医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)。ヘルス・メディカル微生物研究センターのセンター長、國澤純さん曰く、
「今、我々が開発しようとしているのはビフィズス菌ならビフィズス菌の抗体を作って、抗体にくっついたビフィズス菌を測定する手法。便の上澄みに色づけした抗体をくっつけることで、その菌がどのくらいの割合で存在しているのかが短時間で分かります」
検体の糞便から腸内細菌が含まれる上澄みを抽出。抗体を付着させた菌がどのくらいの割合で存在するかを専用の機器にかけて分析する。
従来のゲノム解析では1000種類程度の腸内細菌の存在が判別できるが、一般人には詳細すぎる。それなら自分が気になる腸内細菌をピンポイントで検査してみてはどうだろう? そんな発想から生まれたのが抗体を利用した腸内細菌検査だ。
「これから抗体のラインナップを増やしていって、それを診断システムを作る会社に提供して活用してもらう形になります。試作品は早ければ今年中には完成する予定。近い将来、ショッピングセンターに買い物に行くついでに手軽に腸内細菌検査ができる日が来ると思います」
私は今日ブラウティア菌を調べるから、お父さんは善玉菌3種類を調べてもらいましょうよ。お買い物の後に結果を聞くのが楽しみねオホホ。なんていう夫婦の日常会話が成立するかもしれないわけだ。
ならば、一足先に噂の腸内細菌検査を試してみよう。被験者は6人、検査菌は下記5種類。食習慣や年齢と照合してご覧あれ。あなたに似た腸内細菌叢が見つかるかもしれない。今の状態が悪くても、頑張れば数週間で改善は可能。検査結果を参考に自分の腸に今必要な食事改善プランを立てよう。
菌の種類
穀物や食物繊維を多く食べている人の腸内に多く存在する。食物繊維を分解する能力が高く、食後の血糖値上昇抑制効果に関わっていると考えられている。
短鎖脂肪酸(主に酪酸)を産生し、抗アレルギー、抗炎症にも働くという報告もなされている。この腸内細菌を多く持っている日本人はルミノコッカス型に分類される。
タンパク質や動物性脂肪が多い肉食中心の食生活の人の腸で優勢な細菌。アメリカ人や中国人に多く、免疫の暴走を抑え、炎症抑制に働く可能性が知られている。
いわゆるビフィズス菌。日本人の腸内には平均として10〜15%存在するといわれている。短鎖脂肪酸のひとつ、酢酸を産生する菌で腸内環境を整える役割を果たす。
日本人特有の菌の一つ。NIBIOHNの最近の研究から、ある程度の量が腸内に存在すると体重増加や糖尿病の抑制が期待できる可能性が示されている。
日本人のエンテロタイプ
バクテロイデス型…タンパク質や脂質(肉食系)…50%
ルミノコッカス型…中間(雑食系)… 40%
プレボテラ型…食物繊維や糖質(穀物・草食系)…10%
日本人の平均的な腸内細菌タイプはバクテロイデス型、ルミノコッカス型(日本人はフィーカリバクテリウム)、プレボテラ型の3タイプで、その比率は上の通り。
外食と中食まかせの20代独身男性
学生時代はサッカーに明け暮れていた20代独身男性。現在は一人暮らしで、食生活はコンビニとハンバーガーショップ、ウーバーイーツに頼り切り。鍋釜食器類、箸一膳さえ自宅に置いていない。
多様性が低い肉食タイプ。食物繊維不足の傾向あり
タンパク質や脂質を口にすることが多い、現代人によく見られるバクテロイデス型。バクテロイデスだけで全体の40%以上。グレーのゾーンは今回調べた5種類の菌以外の菌が占める率だが、これが20%強で多様性がかなり低い。発酵食品を積極的に摂取し、腸内細菌の多様性アップを目指そう。
旅先で食生活が乱れ腸内細菌に異変
元・高校球児の30代1児の父。趣味は懸垂とウェイトトレ。普段は朝食にチキン&卵のサンドイッチ、昼食に海鮮丼、夕食に野菜と肉のおかずをパンとともにいただく健康優良男。検査前に台湾旅行へ。
肉を断ったせい? 典型的な草食タイプに
普段は1日3食、タンパク質をきちんと食べているが、台湾では八角嫌いが祟って肉をほとんど口にできず、サラダと糖質で過ごしたとか。そのせいか穀物を口にする人に多いプレボテラ菌が優勢。腸内細菌叢リセットを機に肉以外のタンパク源で、有用な腸内細菌増加を目指してみては。
糖質を極端に控えた食生活がデフォルト
朝はヨーグルト、昼は会社の社食で定食、夜は晩酌しつつ野菜とタンパク質のおかず。太ることを極端に恐れ、主食はランチでしか口にしない50代糖質制限信者。腹が割れているのが密かな自慢。
プレボテラ菌が少ないため結果的に肉食タイプに
バクテロイデスが全体の約3割なので、ひとまずバクテロイデス型。また、プレボテラが4.5%と少なめなのは、長年の糖質制限食の影響かも。食物繊維を確保するためにも食繊維豊富な主食を積極的に取り入れたい。太らないから心配ご無用。
コロナ禍をきっかけに自炊中心の食生活に
三度のメシよりお酒が好き♡という50代事務員。とはいえ、コロナ禍を機に外食から一気に自炊派に転身。そして肉よりも魚、揚げ物よりも煮物と歳を経るごとにあっさり味嗜好に。
バランスのいい雑食型。新たな菌の確保を
5種の菌の中ではバクテロイデスが最も多いが、もしかするとフィーカリバクテリウム(雑食型のルミノコッカス型)でもおかしくないというタイプ。プレボテラ菌もそこそこの割合で、穀物もよく食べている。発酵食品の摂取で新たな菌を確保し、もうひと押しといきたいところ。
お肉に目がない豪快なビッグママ
主食より魚、魚より肉を愛する自他ともに認める肉食系40代1児の母。月に数回、思い出したように野菜を爆食するというムラのある食生活。ちなみにお酒にはめっぽう強く、二日酔い経験ゼロの人生。
典型的な肉食型だが菌の多様性が期待できる
肉食を自負するだけに5種類の菌のうちバクテロイデスが圧倒的に大きな割合を占める。5種類の菌のトータルの比率は47.3%、それ以外の菌が占める割合が過半数。腸内細菌の高い多様性が期待される。あとは野菜やきのこを積極的に摂取し、こまめな食物繊維補給を。
果たして母子の腸内細菌叢は似るのか?
検体⑤の母親に似ず、肉をあまり好まない10歳男子。代わりに魚、卵、牛乳、チーズでタンパク質を補っている。とくに卵は1日3個とヘビ並みの摂取量。野菜はトマトと玉ネギ以外はちと苦手。
偏食タイプ検体①の相似形。食生活は血よりも濃かった
この腸内細菌叢のパターンはどこかで見たような…と思ったら、検体①の男性にそっくり。原因はやはり偏食と考えられる。卵3個でバクテロイデスが優位になり、野菜嫌いで腸内細菌の多様性がぐぐっと低下。魚や豆類など、卵以外のタンパク質を摂取し、バランスのいい食べ方をマスターしよう。