水以外で飲んでもいい? Q&Aで学ぶ「正しい鎮痛剤の使い方」
市販薬と言えども、使い方を間違えれば思わぬトラブルが起こり得るのが医薬品。服用時の飲料や食べ物との組み合わせ、薬どうしの飲み合わせなど、知っておきたい鎮痛剤の選び方、使い方を解説する。
取材・文/廣松正浩 イラストレーション/サイトウユウスケ
初出『Tarzan』No.860・2023年7月6日発売
教えてくれた人:児島悠史さん
こじま・ゆうし/薬剤師、薬学修士。京都薬科大学大学院修了。著書に『薬局ですぐに役立つ薬の比較と使い分け100』『OTC医薬品の比較と使い分け』(共に羊土社)。ブログはこちら
この記事を読む前に
「痛み」には自分でケアできる程度のものもあれば、病院で診てもらう必要のあるものも。単なる「痛み」として軽く捉えると、大事を招きかねないケースは少なくない。薬剤師の児島悠史さんにポイントを聞いた。
「腰痛を例として言えば、おとなしく横になっても痛みが引かなかったり、時間の経過とともに悪化していく人には、内臓疾患が疑われます」
痛む箇所を特定できず、強く押しても痛みの強さに変化がなかったり、尿が出にくくなった、血尿が出たなどというのも内臓疾患が疑われる。
「ピリピリと電気が走るように感じたら、神経障害性疼痛かもしれません。市販薬任せにせず、機会を見つけて受診するのがお勧めです」
目次
① 薬は水以外で飲んでもOK?
市販薬(OTC医薬品)として販売されている痛み止めなら、ジュースやお茶で飲んでも大きな影響はない。ただ例外も多くある。
血栓の予防に使われる「ワーファリン」を青汁で飲むと、効果が弱まり血栓ができやすくなるし、高血圧治療薬「ニソルジピン」をグレープフルーツジュースで飲むと、薬の代謝・分解が邪魔され、血中薬物濃度が4倍に上がって血圧が下がり過ぎることに。
カフェインを含む市販薬は500種以上あるが、コーヒーを一緒に飲むと摂取過多になって、急性中毒を起こすことも。2013年以降、若者の間でカフェインの急性中毒が急増し、心停止や死亡例も発生した。
禁忌のある薬を処方するときは、医師は必ず説明するし、添付文書にも書いてあるはずだ。
気をつけたい飲み物
コーヒー:コーヒー1杯に含まれるカフェインは60~90mg。日本に摂取制限はないが、125~400mgを摂取上限にしている国は多い。
グリーンジュース:「ワーファリン」に影響するビタミンKは、青汁以外に納豆やクロレラにも豊富に含まれる。要注意だ。
フルーツ:グレープフルーツで問題になる成分、「フラノクマリン」はブンタン、ハッサク、金柑などにも含まれる。
② 鎮痛剤は使いすぎると効果が薄れる?
「アセトアミノフェン」や「イブプロフェン」「ロキソプロフェン」といった市販薬に多く使われる成分には、習慣性や依存性はなく、カラダが慣れて効果が減弱することはない。
「ただし、使いすぎると薬物乱用頭痛を起こす可能性がある」と児島さん。用法・用量を守るとともに、あまりに頭痛が頻発する場合には、一度病院で診察してもらおう。
③ 鎮痛剤と食べ物の組み合わせにNGはある?
医療用医薬品(処方薬)にはさまざまな禁忌の組み合わせがあり、処方されるときには必ず指導があるし、添付文書に記載がある。一方、市販薬には、特定の飲料や食品と“禁忌”となるようなリスクのあるものは基本的にない。
特に、痛み止めの飲み薬は空腹時に飲むと胃を荒らしやすいので、むしろ何かを食べてから飲んだ方がいいだろう。使い方を間違えると、思わぬトラブルも起こりえるのが医薬品だ。正しく使おう。
④ 鎮痛剤と一緒に飲んではいけない薬は?
基本的に市販薬の鎮痛解熱剤と、一緒に飲むことを絶対に避けなければならない薬はほとんどない。
ただし、医師、薬剤師から見て、よほどのことがなければ一緒に使わない薬、できれば避けたい組み合わせはある。それは患者の年齢、病状や持病があって普段服用している薬があれば、その情報も加味して総合的に判断されるべきものだ。
また、その組み合わせで使用してメリットがデメリットを上回るかどうかも判断の基準となる。患者の情報をよく知っている担当医、薬剤師とよく相談することで、よくない組み合わせは回避できるだろう。
⑤ 妊娠中でも安心して使える薬は?
貼り薬や塗り薬なら胎児への影響が少ないかといったら、さにあらず。
妊娠後期(28週以降)に使用したテープ剤で、胎児の動脈に異常をもたらした事例が存在する。「内服薬ならアセトアミノフェン、貼り薬や塗り薬ならサリチル酸メチルかサリチル酸グリコールがお勧めです」(児島さん)
有効成分をしっかり見極めよう。
⑥ 薬を飲むタイミングは効き目に影響する?
薬の中には食事や水分補給、睡眠などのタイミングによって有効性・安全性が大きく影響を受けるものがある。薬によって事情が異なるので、市販薬、処方薬を問わず、医師や薬剤師などの話をしっかり聞こう。
基本的に痛み止めであれば、胃を守るために「空腹時」を避けるのが基本になるが、痛みを感じたときに頓服薬として使っても問題はない。
しかし、薬の中には「食後」や「食前」といった用法を守らなければ有効性・安全性に支障を来すものもあるため、注意が必要だ。処方時の説明や、注意書きはしっかりと見ておこう。
⑦ 薬を個人輸入するのはあり?なし?
正規のルートで流通、販売された市販薬で副作用などの問題が起こった場合、製薬会社から見舞金をはじめ、きちんと補償されるのが通例。だが、個人輸入は一切が自己責任になるので、何の補償も受けられない。
また、国産の市販薬には審査を受け、認可された添加物しか使われていないが、海外のサプリメントからはステロイドが検出されて騒動になったことも。一つ一つの錠剤に成分表示通りの量だけ成分が含まれていない可能性も考えられるし、スポーツにおける禁止薬物の混入もありえる。
⑧ 鎮痛剤にメンタル系の薬が処方されるケースも?
市販薬の鎮痛剤で、坐骨神経痛や帯状疱疹後神経痛など神経のトラブルで感じる痛みには対応不可。この場合、医師はメンタル系の薬を処方することがある。
「デュロキセチン」は帯状疱疹後神経痛に用いられることのある医療用医薬品だが、もともと抗うつ薬として使われてきた薬だ。
⑨ 鎮痛剤の使い分けはどうすればいい?
日本人が頼るのはまずロキソプロフェンだろう。痛いときにすぐ効いてほしいなら納得の選択肢だが、用量・用法は守りたい。
「ただし、鎮痛効果を長続きさせたいときに医師はセレコキシブという医療用医薬品を処方することがあります」(児島さん)
また、小児、妊婦、高齢者、アスピリン喘息などのアレルギーがある人は「アセトアミノフェン」に限る。
⑩ 気づいた時には手遅れ、光線過敏症って?
痛み止めの貼り薬や塗り薬を使った部位を日光(紫外線)にさらすと、発疹や紅斑、かゆみなどが皮膚に表れる人がいる。
これは薬の成分が化学変化したことで生じるトラブル、「光線過敏症」。これを知っているのは日本人の15%足らずだとか。
原因になりうる成分としては「ケトプロフェン」「ジクロフェナク」「インドメタシン」「フェルビナク」などに報告があるが、どんな鎮痛剤を選んでも、念のため使用した部位は最低4週間、直射日光に当てないよう注意するべし。それが難しければ、光線過敏症のリスクがないサリチル酸系の薬を選ぶとよい。
⑪ テープ剤とパップ剤、どう使い分ける?
プラスチックフィルムに柔らかいジェルを貼り合わせた湿布がパップ剤。ジェルが成分だけでなく水分も含み、患部を実際に冷やすので、打撲などの急性期の痛みに心地よい。ただし、剝がれやすいので、脛などの動きの少ない部位に好適。
薄く粘着力に優れたテープ剤は膝、肘、肩など関節部に貼っても剝がれにくい。慢性的な痛みに適している。
基本的にどちらもその効果に差はない。テープ剤・パップ剤それぞれの特徴を踏まえながら、使用する部位によって使い分けよう。
⑫ 湿布の枚数制限は?
市販の湿布の中には枚数の制限が記載されていないものも多いが、医療用医薬品の「ロコアテープ」などは皮膚からの吸収効率が良いため、1日2枚までと決まっている。
「成分が強い分、経皮吸収されて腎臓にダメージを与えてしまいかねない原因となります」(児島さん)
もちろん、医師が許可した場合以外、内服薬との併用は禁忌!
かかりつけ薬局、薬剤師のススメ
複数の持病を持ち、あちこちの医療機関を受診する高齢者は多い。当然、あちこちの調剤薬局で処方薬を受け取る。このときにお薬手帳を提示し、服薬履歴を薬剤師に伝えないと、薬同士がケンカすることがある。
これは市販薬を使う際にも起こりうるトラブル。ドラッグストアなどで買う際も相談した方が賢明だ。
お薬手帳には、処方された薬以外にも、いま飲んでいる市販薬の成分が分かるよう、パッケージの一部を貼っておいて相談の際に提示するのはよい工夫。あなたのことを知っている、かかりつけ薬局・薬剤師を持とう。