- 鍛える
こんなパンを待っていた! 豆でつくられたグルテンフリーの《ZENB ブレッド》
PR
画像診断では特に異常なし。これまでココロの問題として扱われてきた原因不明の腰痛。しかし、それが起きるメカニズムや、対処法が次第に明らかになってきた。どうやら、その原因はストレスなどによる脳の機能低下にあった!?
伊藤和憲先生(いとう・かずのり)/鍼灸博士。明治国際医療大学鍼灸学部学部長・教授、同大学院鍼灸学研究科大学院研究科長・教授、附属鍼灸施設臨床部長。著書に『はじめてのトリガーポイント鍼治療』『トリガーポイントマップ』(共に医道の日本社)など。
腰痛には原因がある。そう思うのが普通だ。なぜなら、痛みは損傷した部分を特定し、正常に戻すためのサインだから。でも、実はレントゲンやMRIで調べても異常が見つからない場合がある。そして、以前はこれらを心因性腰痛と呼び、ココロが引き起こす痛みとされてきた。
ところが昨今、このような痛みが痛覚変調性疼痛によるものということがわかってきた。痛みの原因がココロではなく、カラダの機能低下によることが明らかになってきたのだ。
ここではそんな腰痛を“痛覚変調性腰痛”と呼ぶことにする。この腰痛がどうして起こり、どのような症状になるのか。その痛みを軽減したり、解消する方法はないのかを、さっそく探っていこう。
痛覚変調性疼痛は、読んで字のごとく、痛覚に変調を来したために感じる痛みが変わるということ。
具体的には、脳の前頭前野という部分が働きにくくなることで起きてしまう。人間には痛みを制御する、自己鎮痛という能力が備わっている。どこかに足をぶつけても、痛みはすぐに引いていく。それは前頭前野が痛みをコントロールしているおかげなのだ。
この前頭前野は、痛みに対して閾値を持っている。単純に数値化すると、受けたダメージが10の場合は“痛い”と感じるが、8や9ではほとんど感じない。
受けた痛みの強さで感じるか否かが決まるのだ。痛覚変調性による腰痛は、この前頭前野の機能が低下することで起きる。10までは痛くなかったものが、例えば5でも痛く感じるようになってしまう。いつもなら何てことない刺激が、はっきり痛みとして表れる。
前頭前野の痛みに対する閾値が下がる。つまり痛覚が変調を来すと、通常ではまったく感じなかった痛みを、感じるようになってしまう。
機能低下の理由は多々ある。例えば人間関係などで日常的にストレスに晒されたり、ネガティブな思考ばかりが先行するようになってしまったり。こういう状態に陥ると、前頭前野の働きは低下して、腰痛が慢性的にずっと続くことにもなる。
では、痛覚変調性疼痛はなぜ腰に痛みが出るのか? 実際には肩関節や肘関節などでは、痛覚変調性疼痛は起こりづらいともいわれている。
それは人間が四足歩行から二足歩行になり、腰が激務に晒されることになったから。人間は何をするにも、上半身や頭の重量を支えなくてはならない。そのために腰は長時間にわたって大きな負担を担い続けている。だから、前頭前野の機能が低下したときに、痛みが表れやすいのである。
痛覚変調性腰痛は、気温や気圧の変化などでも痛みが出やすいのが一つの特徴だが、外的要因によってさまざまなストレスがかかるとカラダは萎縮する。本能的に自らを守ろうとするためだ。すると、カラダの中心部、つまり体幹部に力が入る。それが、腰の痛みへと繫がってしまう。
痛覚変調性の腰痛は痛み方が不明瞭であるのも特徴だ。場所が特定しにくく、腰全体が痛む場合もある。さらには特定の動きに伴う痛みでもない。
例えば前屈すると痛いというのではなく、朝起きたらなぜか痛むのが昼には軽くなった、などの変動がある。心当たりはないだろうか?
今回、取材をお願いした伊藤和憲先生は「いくつかの問診をすれば痛覚変調性による腰痛かがほぼわかる」と言う。どんな人がなりやすいのか。
キーワードは破局的思考。これは「自分はもう治らない」という、痛みを誇張したりする否定的な考えを示す。この思考をするタイプには3つの特徴がある。
まずは反芻。痛みについて繰り返し考えることで、いつまでも不調を引きずってしまう。次が拡大視。腰がこんなに悪いんだからカラダの他の部分もきっと悪いのではないかという考え方。そうして痛みに屈してしまう無力感。これにより自律神経は乱れ、前頭前野は慢性的な機能低下に陥る。
腰痛がある人は、下のチェックリストを行ってみよう。当てはまる項目が2~3個以上ある場合は、痛覚変調性腰痛の可能性がある。
項目は全部で8つ。当てはまるものをチェック。2~3個以上なら痛覚変調性腰痛の可能性も。
取材・文/鈴木一朗 イラストレーション/泰間敬視 編集/堀越和幸 監修/伊藤和憲(明治国際医療大学鍼灸学部学部長・教授)
初出『Tarzan』No.860・2023年7月6日発売