脳の機能を高めて痛みを抑える。「痛覚変調性腰痛」セルフケア
検査をしても異常が見つからない原因不明の腰痛。以前は心因性と思われていたが、昨今、脳の前頭前野の機能低下により、痛みを感じる閾値が低下することがわかってきた。前頭前野の機能を高め、痛みを抑えるには、心身をリラックスさせるセルフケアが有効。今回は簡単にできる4つのメソッドを紹介。
取材・文/鈴木一朗 イラストレーション/泰間敬視 編集/堀越和幸 監修/伊藤和憲(明治国際医療大学鍼灸学部学部長・教授)
初出『Tarzan』No.860・2023年7月6日発売
教えてくれた人
伊藤和憲先生(いとう・かずのり)/鍼灸博士。明治国際医療大学鍼灸学部学部長・教授、同大学院鍼灸学研究科大学院研究科長・教授、附属鍼灸施設臨床部長。著書に『はじめてのトリガーポイント鍼治療』『トリガーポイントマップ』(共に医道の日本社)など。
腰痛には原因がある。そう思うのが普通だ。なぜなら、痛みは損傷した部分を特定し、正常に戻すためのサインだから。でも、実はレントゲンやMRIで調べても異常が見つからない場合がある。そして、以前はこれらを心因性腰痛と呼び、ココロが引き起こす痛みとされてきた。
ところが昨今、このような痛みが痛覚変調性疼痛によるものということがわかってきた。痛みの原因がココロではなく、カラダの機能低下によることが明らかになってきたのだ。
そんな“痛覚変調性腰痛”へと導くのが痛みを誇張したりする否定的な考え方。破局的思考を改善し、前頭前野の機能を高めるセルフケア術4つを紹介しよう。
① 日記を書く
まず、やってもらいたいことがある。それが、日記を書くこと。自分の痛みが、どのような要因で変化するのかを知るためだ。その日の天気、痛みの強さ、イベント(行ったこと)、正の感情(良い感情)、負の感情(悪い感情)などを書く。
そして、1週間程度書いたら見返してみる。すると、どんなときに腰痛が発生しやすいかという傾向を知ることができる。
その際重要なのは、痛みが強い日よりも、楽な日に着目するということだ。痛みが楽になるときの共通点を見つけて、それを生活の中で積極的に取り入れていこう。
日記はなるべく簡素にまとめるのが大切。下に例を示したが、これぐらいでOK。日記を書くことがストレスになってしまうと、それが痛覚変調性腰痛の原因になってしまう。
日記をつけて痛みの傾向を知ろう
感じた痛みは10段階で書いてみよう。良い日、悪い日の傾向がわかってくる。そうなれば、具体的な対策も立てられるはずだ。
② マインドフルネス
呼吸法で痛みをコントロールすることも痛覚変調性腰痛には効果的だ。意識を呼吸に集中させながら5秒かけて口で吸い、7秒かけて口で吐いてみよう。これを何度か繰り返すことで自律神経の副交感神経にスイッチが入り、気持ちが穏やかになる。
呼吸法
口で5秒かけて吸い、7秒かけて吐く。他のことを忘れて、呼吸にだけ意識を集中させることが大切。マイナスの思考を一時的に消し去れる。
海外ではレーズン・テクニックという痛みを軽減する方法もある。
干しブドウをただ口に入れるのではなく、眼で見て、触って感触を確かめ、匂いを嗅いで、口の中で転がし、最後に味わう。こちらも、ひとつひとつを意識して行うのがポイントだ。
レーズン・テクニック
レーズン・テクニックは五感をフルに活用して干しブドウを味わい尽くす方法。レーズンに集中することで、脳をリセットできるのだ。
どちらも、一種のマインドフルネス的なアプローチで、痛みの原因となるマイナスの思考や雑念からいかに気を逸らすかがポイントとなる。これを繰り返せば、脳は「普通」の状態を取り戻していける。
③ 筋弛緩法
脳とカラダは密接な関係にある。例えば破局的思考では、痛みに対して否定的な考えを持ってしまう。そして、この否定的な考えは自律神経の交感神経を刺激する。すると、カラダにも反応が起こる。筋肉がこわばって緊張状態になるのだ。
だから、そうした場合は緊張を緩めることが大切。とはいえ「リラックスしてください」と言われてすぐにそうできるのなら誰も苦労はしない。
そこで行いたいのが、簡易な筋弛緩法だ。
やり方は至って簡単である。ベッドや床に仰向けで寝る。そして、全身に力を込めて10秒キープ。そのあと、ふうっと全身の力を抜くのである。緊張→弛緩という流れを作ってやることで、カラダは簡単にリラックスした状態になる。
力を抜いたらベッドや床の下へとカラダがどんどん沈んでいくイメージを持ってみよう。これによって、否定的な考えは頭の隅に追いやられることになる。寝る前に行い、そのまま眠ってしまうのもいい。ぜひ習慣にしてみよう。
筋弛緩法的なアプローチ
ベッドの上に仰向けになる。拳を握り、全身に力を入れて10秒キープ。その後、力を抜いてベッドにカラダが沈み込むようなイメージを持つ。
④ ツボ
ツボはご存じの通り、心身ともに訴えかける効果があり、監修の伊藤先生の専門でもある。人体に無数に存在するツボの中でも「手にあるツボには脳を活性化するものが多い」と伊藤先生。ここではその代表的な3つを紹介してみよう。
1つは腰腿点(ようたいてん)。こちらは脳の働きを回復させてくれるツボだ。人差し指と中指、薬指と中指の骨が交わる場所のやや上、2か所にある。
腰腿点
中指と人差し指、中指と薬指の骨が交わるやや上。腰腿点のツボは2か所ある。親指で押したら一番気持ちいい部分を探り、そこを押して刺激する。脳の働きを回復させ、腰痛を緩和することが期待できる。
合谷(ごうこく)は脳の活性化を促すツボとして知られている。親指と人差し指の骨が交わる場所の少し上だ。
合谷
親指と人差し指の骨が交わる場所、その少し上にある。簡単に場所がわかり、押しやすいツボだ。合谷は脳だけでなく、上半身の痛みを和らげる最強のツボともいわれている。押すと鈍い痛みを感じる人が多い。
そして、内関(ないかん)はストレスや緊張を緩和してくれる。手のひら側の手首のシワから指3本分下、腕の中央にある。どのツボも親指でイタ気持ちいいと感じるくらいに押してみよう。心地よい刺激で、脳がリセットされる。
内関
手のひら側の手首のシワから、指3本分下。腕の中央にある。その周囲を探ってみて、一番イタ気持ちいい場所がツボだ。自律神経を整えて、精神を安定させるといわれる。親指でポイントを探ってみよう。