教えてくれた人
吉原潔さん(よしはら・きよし):医師。整形外科医で4000例を超える脊椎内視鏡スペシャリストでありながら、筋トレや体重管理に精通したNESTA認定パーソナルフィットネストレーナー、食生活アドバイザーのトリプルライセンスを有する。自らもボディコンテストに出場を重ね、受賞歴多数。医学博士。
神戸貴宏さん(かんべ・たかひろ):パーソナルトレーナー。Body Design Studio ASK代表。流行に惑わされない普遍的なダイエット指導を得意とするパーソナルトレーナー。本誌でも、多くの人気アイドルの肉体改造を、トレーニングと食事両面からの丁寧な指導で見事成功へと導いている。NSCA認定パーソナルトレーナー。
河村玲子さん(かわむら・れいこ):管理栄養士。大学卒業後、大手フィットネスクラブを経て独立。カナダで管理栄養士トレーナーとして活動後、ニューヨークでピラティスを学ぶなど、栄養にも運動にも通じている稀有な存在。40代のダイエット指導経験も豊富。NESTA認定パーソナルフィットネストレーナー。
グルメマンってこんな人
40代になると食事を変えるのが体脂肪を落とす近道だが、それが難しいのがグルメマン。「食べるのが好きだから、運動で痩せる」と公言しつつ、ジョグも筋トレも続いたためしがない。ならば食生活にメスを入れる以外、カラダを絞る手段はない。グルメマンの苦悩に寄り添いながら、ストレスなく解決する方法をじっくりと探ろう。
目次
① そもそも食事が減らせないなら…
食べることが何よりも好きなグルメマンに、頭ごなしに「食事を減らせ」と言っても難しい。なら、考え方を根本から変えよう。
「減量では“減らす”ばかり考えますが、“足す”ことから始めてみましょう」(吉原さん)
肥満の背景に栄養不足もある。カロリーは摂りすぎているのに、栄養が足りない人は案外多い。減量中に欠乏しやすいのは、筋肉を維持するタンパク質。
タンパク質を作る20種のアミノ酸のうち、9種は体内で合成できない必須アミノ酸。必須アミノ酸が1種でも足りないとタンパク質合成が滞り、筋肉が減って代謝が落ち、太りやすい。必須アミノ酸をバランスよく含む肉類、魚介類、卵、牛乳・乳製品、大豆食品をきちんと食べよう。
カロリーになる糖質、脂質、タンパク質の代謝に必須のビタミンB群も欠乏しやすい。未精製穀物や豚肉などに多いB1は糖質、レバーなどに多いB2は脂質、鶏肉やカツオなどに多いB6はタンパク質の代謝に不可欠だ。
体内のエネルギー代謝を円滑に進めるには、マグネシウムや鉄も欠かせない。マグネシウムは海藻、大豆食品、鉄はレバー、赤身肉、ヒジキなどから摂る。
食生活を組み立てる際は、欠乏しやすい栄養素を含む食品を優先して“足す”。すると“減らす”ことを意識せずとも、お腹が満たされ糖質や脂質といった過剰な栄養摂取が避けられる。
② 淡泊な水やお茶が飲めないなら…
水だって嚙んで味わうと風味がある。ことにミネラルウォーターは、産地で味わいが大きく異なる。
その違いを楽しむのも大人の嗜みだが、外食やファストフードといった濃厚なテイストに舌が慣れすぎると、ミネラルウォーターのように淡泊な飲み物では物足りなくなり、カフェラテやチャイのような濃い味のドリンクを好むようになる。
ミネラルウォーター、お茶、コーヒーはゼロカロリーだが、濃い味の飲み物は高カロリー。たとえば、某カフェチェーンのカフェラテは、Mサイズ1杯で223キロカロリー。ご飯普通盛り1杯とさほど変わらない。
あっさり味の飲み物に飽き足らないなら、ちょいひと手間。
「ガスなしのフラットウォーターよりも、ガス入りの炭酸水の方が刺激強めで、お腹にも溜まります。そこに新鮮なレモンやライムを搾ると風味がアップし、ノンカロリーでも満足感は高くなります」(河村さん)
③ 夜食についポテチを食べてしまうなら…
夕飯が遅くなってもそれだけでは太らないが、毎日のように夜食でいらないカロリーを摂っていたらなかなか体脂肪は落ちない。
夜更かしでお腹が空いても、わざわざコンビニに出かけて何か調達する気は起こらないもの。買い置きがあるから、ポテチなどのスナック菓子が食べたくなるのだ。ない袖は振れないから、ダイエット中は買い置きをしないのが、はじめの一歩。
ストックするなら、カロリーばかりで栄養に乏しいスナック菓子ではなく、不足気味の栄養素がカバーできるものに限る。
「ミネラルが補えるミックスナッツやプロテインバーがお薦め。栄養価も満足感も高く、食べすぎが抑えられます」(神戸さん)
夜食は1食200キロカロリー未満(1日の摂取カロリーの10%未満)、週1〜2回に抑えるのが基本ルール。ミックスナッツは30g、プロテインバーなら1本を上限としよう。
ミックスナッツは、栄養価が高いアーモンドとクルミが多いものを選ぶ。なかでもアーモンドは、不足しやすいカルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、ビタミンEが豊富だ。
ナッツの栄養素(30g当たり)
栄養素 | アーモンド | クルミ |
---|---|---|
カロリー(kcal) | 182.4 | 213.9 |
タンパク質(g) | 6.09 | 4.38 |
カルシウム(mg) | 78 | 25.5 |
マグネシウム(mg) | 93 | 45 |
鉄(mg) | 1.11 | 0.78 |
亜鉛(mg) | 1.11 | 0.78 |
ビタミンE(mg) | 9 | 8.37 |
④ お酒が減らせないなら…
糖質ゼロのお酒なら太らない、お酒はエンプティカロリーだから飲んでも平気…。そんな与太話を信じていてはダメ。
お酒のアルコールは1g当たり7キロカロリー。1g9キロカロリーの脂質より23%だけカロリーが低いにすぎない。ちなみにエンプティカロリーとは、カロリーがないという意味ではなく、栄養がないという意味。
とはいえ、好きなお酒を完全に断つとストレスになり、減量が続かない恐れもある。アルコールは代謝の要である肝臓にもじかにダメージを与えて、体脂肪の蓄積を進める。問題なのは何杯飲んだかではなく、純アルコールで何g飲んだかだ。
お酒の種類でアルコール度数も飲み方も異なるから、下の公式で純アルコールで何g摂取したかを正しく把握したい。
純アルコール1日20g以内に節酒できたら、健康にも減量にもセーフティ。ビールなら中瓶1本、ワインならグラス2杯弱である。
アルコール度数5%のビールを中ジョッキ1杯(500ml)飲むと、純アルコールは500×0.05×0.8=20g。0.8はアルコールの比重である。
⑤ 揚げ物が好きすぎるなら…
改めて指摘するまでもなく、揚げ物は高カロリー。グルメで太っている人の多くは揚げ物好きだが、揚げ物をセーブしない限り、いくら努力しても痩せにくい。この先死ぬまで揚げ物から手を引けとは言わないが、この機会に付き合い方を再考してみよう。
ひと口に揚げ物といっても、カロリーには違いがある。そこを頭に入れて、より低カロリーなものをチョイスするクセを。
「天ぷら>フライ>唐揚げの順に低カロリー。鶏肉なら、とり天>チキンカツ>唐揚げとなります。唐揚げでも、焼き鳥と比べると高カロリーですから、揚げ物はトータルで週2回前後に留めましょう」(河村さん)
揚げ物を自宅で作るのは面倒だから、テイクアウトすることが多い。その際はこんな工夫も。
「温め直すなら、レンジよりもトースターがお勧めです。トースターで加熱している間に余分なアブラが落ち、カロリーが抑えられます」(吉原さん)
⑥ 高カロリー食が好きすぎるなら…
カロリーの高いものが必ずしも美味しいとは限らないが、美味しいものはだいたいカロリーが高い。
グルメマンが、美食道を貫こうとすると、高カロリー食との戦いは避けられない。なかでもいちばんの強敵は、食卓の主役を張る主菜を彩る肉類や魚介類などのタンパク源だ。
再三触れるように、体脂肪を落とすためにも、タンパク質の摂取は減らしたくないが、タンパク源には脂質も含まれる。
肉類では、脂質の多い霜降り牛肉やサーロイン、豚バラ肉などは避け、脂質が少ないヒレ肉などの赤身肉を選ぶ。魚介類でも、マグロはトロより赤身、カツオは白っぽい腹身よりも赤っぽい背身を選択した方が、摂取カロリーは抑えられる。
「鶏肉の皮、生姜焼き用の豚ロース肉の脂身など、目に見えるアブラは、面倒でも食べる前に取り外しましょう。専用のマイキッチンバサミを準備しておくと重宝します」(吉原さん)
鶏もも肉は、皮を外すだけでカロリーが40%ダウン。この積み重ねが、減脂肪には相当効く。
調理法によっても、カロリーは大きく変わる。一般的に、蒸す→焼く→炒める→揚げるという順番に、カロリーは高くなっていく。
ダイエット中は揚げ物をなるべく避けて、蒸す、焼くといった調理法をセレクト。やむなく炒めるときは、フッ素樹脂加工のフライパンを使い、小さじ1杯以内の植物油で料理したい。
⑦ ご褒美メシが美味しすぎるなら…
ダイエットを続けて順調に痩せたのに、あるとき見えない壁にぶつかったように、変化が起こらなくなる。これがプラトー現象。学習などの一時的な停滞フェイズだ。ダイエットのプラトー現象の背後には、体内環境を一定に保つホメオスタシスがある。
「体重や体脂肪がある程度落ちると、それ以上減らないように代謝を下げて省エネモードに変わり、体重も体脂肪率も変わらなくなるのです」(吉原さん)
プラトー打破の武器はご褒美メシ。減量中控えていた高カロリーな好物を食べ、「摂取カロリーが増えたから代謝を戻していいぞ」というサインを送って騙し、プラトーを突破するのだ。
“騙す”という意味の英語から、その日を“チートデイ”と呼ぶ。
「毎週のようにご褒美メシを食べていたら、当然痩せにくい。ボディコンテストに備える、体脂肪率1桁台の人は3〜4日に一度行いますが、通常は2週間に一度が目安です」
⑧ 甘いものが好きすぎるなら…
三食のカロリーを控えめにすると、食間に小腹が空く。そのたびに、間食で甘いものを食べていたらプラマイゼロ。下手をすると、カロリー過多になる恐れも。
食間は上がった血糖値が落ち、体脂肪分解が進むタイミング。甘いものを食べて血糖値が上がると、体脂肪分解は即ストップ。痩せにくくなってしまう。
「小腹が空いたら、ギリシャヨーグルトや茹で卵のように、糖質は少なく、充足感が高いものを食べましょう。プロテインバーなら、より手軽にお腹も栄養も満たせます」(河村さん)
近頃は甘みが強いのに、カロリーは実質ゼロで血糖値も上げない人工甘味料を使ったスイーツや飲み物も増えてきた。アセスルファムカリウム、スクラロースなどだ。
これ以外にも、糖アルコールに分類されているエリスリトールはカロリーゼロであり、血糖値も上げない。こうした甘味料を用いた食品も、間食にうまく取り入れてみよう。
⑨ ファストフードが好きすぎるなら…
グルメな大食漢には、ハンバーガーや牛丼といったファストフードを間食代わりに食べる強者もいるとか。敵(?)ながら天晴れだが、そんな無謀なことをしていたら、体重も体脂肪率も右肩上がりを描くだけ。
「グルメマンは、好きなものを抑えるとフラストレーションが溜まって危険。ファストフード好きなら間食ではなく、昼食や夕食といった正式な食事に“昇格”させましょう」(河村さん)
昇格させるコツは、主食、主菜、副菜という一汁三菜のフォーマットに当てはめること。
ハンバーガーを格上げさせる際は、メインのバーガーで主食(バンズ)と主菜(パテ)は摂れると捉える。あと欲しいのは、副菜(サイドディッシュ)だ。
サイドで選びたいのは、定番のフライドポテトではなく、野菜サラダ。ポテトの中身は糖質と脂質であり、実態は主食(ジャガイモを主食扱いしている国や地域もある)。ポテトをサイドにすると禁断のダブル糖質になってしまう。飲み物は、無糖のコーヒーか紅茶で決まり。
牛丼を格上げするなら、主食(ご飯)と主菜(牛肉)は摂れていると考える。牛丼単品だと副菜がどうしても足りないから、サラダ、漬物、具だくさんの味噌汁などを追加オーダーしよう。
うどんやそばなどの麺類は、基本形は主食のみ。主菜と副菜をトッピングやサイドディッシュで追加オーダーして、昇格にチャレンジ(⑪参照)。
⑩ 食欲が抑えられないなら…
忙しいときほど、往々にして食欲が倍増して食べすぎるもの。忙しさによるストレスを、食べて発散しようとするのだ。そんなタイミングで焦って体脂肪を減らそうとしても、成就するわけがない。
とくにグルメマンのように、食べることが人一倍大好きなタイプが、我慢に我慢を重ねて食事をセーブすると、ストレス解消の手段を失う。そのうち溜まったストレスが暴発。危ない爆食に走らないとも限らない。
そこで参考にしたいのは、アスリートたちの「ピリオダイゼーション」というコンセプト。アスリートは、年がら年中同じスタンスで過ごしているわけではない。
ざっくり言うと、シーズン中の過ごし方と、シーズンオフの過ごし方は大きく違う(それ以外にも細かい違いはあるが、ここでは脇に置こう)。シーズン中は、ハードなトレーニングを控えてコンディション維持に努める一方、シーズンオフは厳しいトレーニングに励み、体力アップを狙っているのだ。
アスリートに倣い、ダイエットにもピリオダイゼーションを導入してみよう。
「多忙でストレスフルな時期はあえて減量しようとせず、体重が必要以上に増えないように気をつける維持期に。忙しさが落ち着いて余裕ができたら、減量期にスイッチ。ダイエットに取り組みましょう」(神戸さん)
何事もメリハリが重要なのだ。
⑪ 麺が大好きなら…
冷たい麺も温かい麺も美味しいが、総じて糖質過多。栄養が偏り、血糖値が上がり、太りやすいのが玉に瑕。糖質オンリーにならないように、麺類を食べるならトッピングは欠かせない。
うどんやそばならワカメ、野菜天、ちくわ天、ラーメンならチャーシュー、ネギ、茹で卵などをプラス。トッピングのバラエティを増やすほど、栄養バランスは整いやすい。加えて先にトッピングから食べ、麺を後で食べる「食べ順」を意識すると、血糖値の上昇が抑えられるから、太りにくくなる。
自宅で麺類を楽しみたいなら、活用したいのは代替麺。
コンビニやネットなどで、コンニャク粉などから作った糖質ゼロ麺、豆腐が原料で低糖質の豆腐干などが、気軽に手に入るようになった。これらを使ったレシピは、ネット検索でもカンタンに探せる。ぜひご参考に。
⑫ 肉が好きすぎるなら…
牛肉や豚肉などの肉類は、大事なタンパク源。低脂質な部位をきちんと選べば、ダイエット中でも減らさなくていい。
でも、豆腐や納豆のような大豆食品からでも、良質なタンパク質はちゃんと摂れる。そして大豆タンパクには、肉類にはない嬉しいダイエット効果もあるとわかっている。
鍵を握るのは、大豆タンパクに特有の大豆β-コングリシニンという物質。内臓脂肪などの体脂肪の分解を促し、合成にブレーキをかける働きがある。
「体脂肪を落とすなら、1日に5gの大豆β-コングリシニンを摂るべき。ちょうど高野豆腐1枚分です。私は、高野豆腐を乾燥したままミキサーで粉末状にしてから、プロテインのように飲み物に混ぜて、毎日のように飲んでいます」(吉原さん)
手作りの高野豆腐パウダーは、豆乳やコーヒーなどに混ぜると、美味しく飲めるとか。自分に合う大豆食品の摂り方を探ろう。