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近年増加中。結核の患者数を超えた呼吸器感染症「肺MAC症」とは?

肺MAC症

近年増加し続け、推定患者数数十万人、年間約2000人が命を落とす隠然たる国民病・肺MAC症だ。進行はゆっくりながら、重症化すると手術や酸素療法(酸素吸入)が必要になる人も現れる。

近年増加している肺MAC症

長らく日本人の宿敵だった結核が、第二次大戦後じりじりと減っていった一方、急増している呼吸器感染症がある。肺非結核性抗酸菌(NTM)症だ。近年、この病気は日本だけではなく、アメリカ、アジアでも増加の報告が相次いでいる。

原因菌・NTMは結核菌(群)とらい菌を除く抗酸菌の総称。なかでも日本では性質の似た2つの菌、マイコバクテリウム・アビウムとマイコバクテリウム・イントラセルラーが症例の約8~9割を占めることから、頭文字をとって肺MAC症と呼ぶことが多い。

結核死亡率の推移
肺MAC症

出典/「日本の結核流行と対策の100年」(森 亨/日本内科学会雑誌第91巻第1号・平成14年1月10日)

結核の本格的な流行は都市化の進んだ江戸後期~明治以降とされる。1935年から終戦までは亡国病として死亡順位の1位に君臨を続けた。戦後は順調に減少していったが、1997年から再び増加が起こり、99年に結核緊急事態宣言が出された。その後、2000年には前年度を下回り、沈静化に向かった。とはいえ、高齢者を中心にいまなお毎年1万人以上の患者が発生し、約2000人が亡くなる日本の主要な感染症だ。

原因菌は主に2種類

肺MAC症

Mycobacterium aviumMycobacterium intracellulareで症例の約8~9割を占める。2種類の複合体ということからMycobacterium avium complexとひとまとめに表記するが、頭文字をとって通常、MAC菌と呼ぶ。

とうとう結核よりも多くなった。肺非結核性抗酸菌症罹患率推移(1971‐2014)
肺MAC症 肺非結核性抗酸菌症罹患率推移

出典/Epidemiology of pulmonary nontuberculous mycobacterial disease, Japan(Namkoong H, et al./Emerg Infect Dis. 2016)

肺非結核性抗酸菌症全体では1970年代には人口10万人対1前後だった罹患率が上昇を続け、2014年には10万人対14.7にまで膨れ上がり、遂に菌陽性肺結核症罹患率を上回った。なお、レセプト(診療報酬明細書)の吟味から2013年時点で罹患率は24.4、有病率は116.3(ともに10万人対)という報告もある。

男女とも加齢に伴い患者数が増えていく

肺MAC菌は水まわりや土壌、家畜など動物の体内やハウスダストにすら存在する、ありふれた弱毒菌だ。だが、感染すると一部の人は痰・血痰、空咳、喀血、体重減少、微熱、食欲低下、息切れなどに悩まされることになる。

無症状の人も約30%いると考えられているが、重症化すると呼吸不全に陥ったり、罹患率も既に結核を上回っている。ちなみに、ヒトからヒトには感染しないと考えられている

かつては慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎などを持つ人に多く見られたが、近年では呼吸器に基礎疾患を持たない人にも増えている。

とりわけ中高年の痩せ型の女性に顕著に多いことから、女性ホルモンとの関係を疑う声は以前から強かったが、詳しいことはまだわかっていない。また、男女とも加齢に伴い患者は確実に増えていく。

加齢が感染に拍車をかけるのか!? 年齢/男女別の肺非結核性抗酸菌症罹患率(2011年)
肺MAC症 年齢/男女別の肺非結核性抗酸菌症罹患率

出典/Epidemiology of Adults and Children Treated for Nontuberculous Mycobacterial Pulmonary Disease in Japan(Izumi K, Morimoto K, HasegawaN, et al./Ann Am Thorac Soc.16(3):341-347)

2009~14年の全国のレセプト、約37万人分を集計した結果、患者は男性より女性に多く、男女とも40代以降に急増することがわかる。男性は高齢層に顕著に多い。

進行は遅いものの、早期受診を心がけよう

感染力はさほど強くないので、繰り返し菌と接触しないと感染しにくいが、同じ程度に接触しても感染する人と、しない人がいたり、家族集積性があることから遺伝的な素因の存在することがかねてより予想されていた

近年その遺伝子の一つが発見されたが、たった1か所の遺伝子の変異だけで特定の病気になるかならないかを決定するほどの影響力は疑わしい。恐らくは未発見の多数の遺伝子が関与するのだろう。同様の発見は今後も続くと目される。

自覚症状があったり、健診で指摘があったら早期に呼吸器科を受診しよう。病状の進行は一般的に非常に遅いものの、感染すると血痰をはじめ不快な症状は早期から出やすい。

X線やCTなどの画像検査を受け、結核や喘息などでないことを確定(除外診断)し、2回以上の痰の検査、または気管支鏡(肺カメラ)検査で陽性判定を受けると、肺MAC症と診断が下る。

痰の検査が2回なのは、菌が環境中のどこにでもいるため、混入ではなく間違いなく患者の痰に由来することを確認する必要があるからだ。

治療は多剤併用療法で菌が体内から消えるまで

進行が遅いため、診断がついても即座に治療が始まるとは限らない。治療が始まると、多くの場合、長期にわたる。症状がほとんどなかったり、高齢者だと経過観察にとどめるケースもある。

これは通院・治療による負担、生活の質の低下なども考慮し、医師との相談によって決めることになる。ただし、きちんと治療と向き合う方が、予後は間違いなくいい。それは治療を受けた患者と、受けなかった患者の比較調査からいえる。

治療を受けるべき根拠はこれ
肺MAC症

出典/Clinical course and risk factors of mortality in Mycobacterium avium complex lung disease without initial treatment(P. H. Wang, S. W. Pan, C. C. Shu, et al./Respiratory Medicine 171(2020)106070)

根治が困難でも適切な治療を受けるべきなのは、診断後の経過を見る限り明らかだ。

治療そのものは複数の抗生剤による薬物治療(多剤併用療法)となる。

よく使用されるものではクラリスロマイシン、エタンブトール、リファンピシンが有名。1種類ではなく、3種類も使用する理由は、MAC菌には往々にして薬剤耐性があるからだ。

なお、治療が始まっても、薬を飲み忘れたり中断があると菌が耐性化して、治療が困難になる危険性がある。治療が始まったら、医師の許可が出るまでしっかり飲み切ることが必須となる。

なお、通常は症状が治まり、検査の結果、痰に菌の排出がなくなって12か月経過後、薬物治療は終了となる。菌の排出がなくなるのにどれだけの期間を要するかは個人差が大きく、年単位の期間を要することがある。なかにはほとんど薬が効かず、追加で抗生剤の注射を補う必要の生じる人もいる。

患部の形状や広がり方などから手術が選択肢になることもあるが、患者の年齢、体力や基礎疾患の有無、肺の状態や患者の希望などを確認のうえ検討される。

回復後に再び症状の表れる人も少なくない

治療期間を通じ食事制限は特になく、体重の減少を招かないようしっかり食べることがしばしば推奨される。痩せている人ほど病状が進行しやすく、重症化のリスクも高いからだ。

近年、点滴に使われてきた治療薬(アミカシン)が、自宅で使える吸入薬として認可されたので、副作用の心配は少なく、局所に効かせることができるようになったことは患者にとって朗報だろう。

多くの場合、長期にわたる治療となるが、残念ながら回復後に再び症状の表れる人も少なくない。これは潜伏していた菌が再燃したためではなく、生活環境の中に潜んでいる菌に再感染したためであるケースが多いという。

肺MAC症との闘いには患者自身の心身だけでなく、住環境、労働環境の整備も必要なのだ。

取材・文/廣松正浩 イラストレーション/横田ユキオ 取材協力・監修/南宮湖(慶應義塾大学医学部感染症学専任講師・慶應義塾大学病院感染制御部、医学博士・公衆衛生学修士)

初出『Tarzan』No.858・2023年6月8日発売

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