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食中毒でも侮れない。知っておきたい「加齢による免疫低下」

食中毒 加齢のトリセツ

何度となく繰り返された集団食中毒への反省から、衛生への意識が高まった結果、事故は減りつつある。とはいうものの、原因として新顔の出現もあり、免疫力の低下する世代には相変わらず深刻な問題だ。

一度中ると、中りやすくなるは間違い

食後数時間、あるいは翌日以降に激烈な症状が消化器に発生し、冷や汗を流しながらトイレに駆け込んだ。などという経験を誰でも一度や二度はしているだろう。

食中毒という言葉は毒がカラダに害をなすことを“中る(あたる)”と呼ぶことに由来する。しばしば“一度カキに中ると二度と食べられなくなる”とか、“一度中ると、中りやすくなる”などと真顔で語る人がいるが、これは間違い

中ったとしたら、その多くはノロウイルス腸炎ビブリオによる。しっかり洗浄、加熱処理したカキなら、以後も食べてまったく問題ない。繰り返し体調を崩す人は食中毒ではなくアレルギーの可能性がある。内科を受診して検査を受ければ原因は判明する。

細菌・ウイルス性食中毒の原因物質別発生件数
食中毒 加齢のトリセツ グラフ 細菌・ウイルス性食中毒の原因物質別発生件数

腸炎ビブリオは海水中に棲息する細菌。魚介の生食を介して感染する。かつては広く見られたが、食品の衛生管理が徹底し、2001年以降は大きく減少した。出典/「食中毒の発生状況(国内)」(農林水産省)を一部改変

患者数ならノロウイルスが圧倒的に多い
食中毒 加齢のトリセツ 患者数ならノロウイルスが圧倒的に多い

耳慣れないクドアはヒラメに寄生する粘液胞子虫。アニサキスほど劇症ではないが、下痢、嘔吐は必至。魚介の生食にはリスクがたっぷり!出典/「食中毒統計資料」(厚生労働省)

家庭でちゃんと実践したい「食中毒予防の3原則」

近年報道の多いアニサキス症は、厳密にはマラリアなどと同じ寄生虫症だが、2012年の食品衛生法の改正で食中毒の原因として扱われるようになった。

食中毒 加齢のトリセツ いま日本人を取り巻く食中毒

いま日本人を取り巻く食中毒/食中毒の2大巨頭はウイルスと細菌。貝毒とは有害物質を持つプランクトンなどを貝が食べ、その物質が貝の体内に凝縮されることによって生じる。かつて(1942~1950年)100人以上に上るアサリによる死亡事故も起きている。出典/「食中毒の現状について」(厚生労働省) 

リモート勤務が影響してか、2021年厚労省が「食中毒発生状況」で報じた事件総数717のうち、原因施設が判明している516では、家庭も106と侮れない件数だ。

家庭での食事では食材を選ぶ目が問われるのはもちろん、保存・調理にも油断は禁物。有名な食中毒予防の3原則は、食品に原因菌(細菌の場合)を「つけない」。菌はマイナス15度以下では増えないから、食品の保存は低温にして菌を「増やさない」。そして、料理の際は魚介・肉類ならしっかり加熱して菌を「やっつける」。

さて、食中毒がどの年代に多発しているか統計を調べてみると、20代が最多で、その後は年齢とともに減っていくのがわかる。

年齢階層別食中毒患者数(2018~2020年)
食中毒 加齢のトリセツ 年齢階層別食中毒患者数(2018~2020年) グラフ

2020年に若年層で増加が見られたが、他はどの世代も年々減少傾向にある。20代が感染のピークに見えるが、受診せず、在宅で安静に過ごして回復した人はデータに表れていない。中高年は感染しにくいなどと油断しないように!出典/「令和2年食中毒発生状況」(厚生労働省)

ただし、これは医療機関を受診した患者を数えただけのもの。

年の功で食中毒の経験も豊富な年長者は対処法を知っていて、受診せずに済ます人もいるかもしれない。よくある食中毒の場合、薬で下痢や嘔吐を無理に止めるのではなく、毒素の排出を優先する。脱水に注意して安静に過ごせば、いずれ嵐が去ることを多くの年長者は知っているものだ。

一方、若年層は外食をはじめ社会活動に積極的で、その分ハイリスクである可能性が高い。そして、中った場合の経験値は年長者より低いから、あわてて医療機関に駆け込む人もいるかもしれない。

なお、CDC(米国疾病予防管理センター)は食中毒になる可能性が高いのは①5歳未満の子供②65歳以上の成人③がん、HIV/エイズや糖尿病の患者④妊婦だと公表している。

先の統計に表れないからといって、中高年が食中毒を心配しなくていい、ということにはならない。確かに若年層より社会活動が穏やかなら、中る確率は低いかもしれないが、中った場合、重症化の可能性は少なくない。そこには免疫の加齢変化が影を落とす。

不可避な、加齢によるリンパ球の減少

免疫機能は20代から早くも低下し始め、40代ではピークの約50%に、70代では10%前後にまで低下するという報告がある。

免疫を支えるリンパ球の主要な構成要素はT細胞B細胞だ。B細胞の増殖能力は加齢に伴い1~2割程度しか低下しないといわれている。これに対し、ウイルスなどに感染した細胞を効率よく除去してくれるT細胞の増殖能力は、残念ながら人によっては1割程度にまで落ち込むという。

食中毒 加齢のトリセツ グラフ

50代からT細胞は減少する/胸腺の機能低下に遅れて、20歳過ぎにT細胞数は減少した後、しばらく変化が乏しくなるが、50代に入ると下り坂を転げ落ちるように急減を始める。出典/「老化と免疫」(廣川勝昱/日老医誌 2003;40:543-552)を改変

その一因はT細胞の教育器官である胸腺の萎縮だ。一般的にヒトの臓器は加齢に伴い萎縮する。この傾向は免疫に関わる臓器にもあてはまり、胸腺も脾臓も萎縮するが、とりわけ胸腺は思春期を過ぎれば萎縮が始まり、急速に機能は低下していく。

その結果、T細胞の機能が低下したり、数が減ってしまうこともわかってきた。

免疫に関わる全身の臓器

食中毒 加齢のトリセツ

胸腺:骨髄で作られた幹細胞を“教育”し、合格した少数だけをT細胞として全身に送り出す。

リンパ節:全身を巡るリンパ管が集まっている特に太い部分。T細胞やB細胞が集まり、体内に侵入した異物を処理している。

脾臓:免疫細胞が多数常駐し、異物として認識されたものはここで処理される。赤血球を貯蔵するほか、古くなった赤血球を破壊もする。

腸管リンパ節:腸管には特有のリンパ節、パイエル板が備わり、食事とともに消化器に侵入してきた細菌、ウイルスなどの異物を処理する。

骨髄:リンパ球や赤血球の生産工場。ここで作られた細胞の一部が胸腺に向かう。

加齢に伴い免疫器官さえ萎縮する
食中毒 加齢のトリセツ グラフ

胸腺は10代半ばで最大になった後、急速に委縮しながら脂肪組織化していき、70歳ごろまでに委縮は完了する。出典/『老化と生活習慣』(香川靖雄/岩波書店)

免疫を支えるのはT細胞だけではないが、非常に重要なプレーヤーであることは間違いない。

年を重ねたからといって、食中毒になりやすくなるとは限らないが、T細胞が減るのだから、中ってしまうと条件は非常に不利だ。そもそも中高年に限らず、変なものには中らないに限るだろう。予防の3原則は全世代共通だ。

取材・文/廣松正浩 イラストレーション/横田ユキオ 取材協力・監修/吉良文孝(東長崎駅前内科クリニック院長、サイキンソーCMEO、日本消化器学会専門医)

初出『Tarzan』No.841・2022年9月8日発売

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