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左利きには天才が多い?脳内科医に聞く、利き腕と脳の関係

左利きには天才が多い?脳内科医に聞く、利き腕と脳の関係

左利きは天才が多いと言われるが本当なのか。左右の使い方の違いで脳の機能に違いが出るのか。気になる利き手と脳の関係に関する疑問を自身も左利きである脳外科医、加藤俊徳さんに教えてもらった。

利き腕と脳の関係を深く掘ってみよう

教えてくれるのは脳内科医・加藤俊徳先生

教えてくれた人

加藤俊徳(かとう・としのり)/脳内科医、医学博士。〈加藤プラチナクリニック〉院長、〈脳の学校〉代表。近著『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)は15万部を超えるベストセラーを記録している。

『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)

『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)

古代ギリシャのアリストテレス、ルネサンスで活躍したレオナルド・ダ・ヴィンチ、大作曲家ベートーヴェン、フランス皇帝ナポレオン、絵画の革命家ピカソ、進化論を唱えたダーウィン、発明王エジソン…。彼らは全員、左利き

現代でも、放射線を発見したキュリー夫人、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ。元アメリカ大統領バラク・オバマも、左利きである。

このラインナップを眺めると、左利きには偉人・天才・鬼才が多いという通説を信じたくなる。仮に、左利きが才能に溢れているとしたら、なぜか。その理由を、加藤先生は、左利きの方が、右脳も左脳も偏りなく使えるからだと考える。

左利きは、右脳も左脳も偏りなく使える

脳と腕をつなぐ神経回路はクロスしているため、右利きでは左脳左利きでは右脳をよく使う。

「これまで1万人以上のMRI脳画像診断をしてきました。右利きは圧倒的に左脳が発達していますが、左利きは右脳ばかりではなく左脳も発達しています。なかには、左脳の方が成長している左利きもいるほど。

聞かなくても、画像を見れば利き腕は当てられますが、左利きだとたまに見間違います。いずれにしても、右利きよりも、左利きの方が、右脳と左脳の偏りが少なく、脳全体をきちんと使える環境が整っていると言えるでしょう」

左利きがユニークなのは、社会が右利き仕様だから

左利きが右脳も左脳もバランスよく整うのは、逆説的だが、それは左利きが全人口の10分の1のマイノリティだからにほかならない。

右利きが圧倒的なマジョリティだから、社会全体は右利き仕様に作られている。

ハサミや調理器具などは、右手で使うのがデフォルト。レストランのテーブルセッティングでも、右手でナイフ、左手でフォークを使うのが大前提となっている。この他、ドアノブや蛇口も、右手で取り扱うことを想定して作られている。

だから、左利きは、好むと好まざるとにかかわらず、右手も日常的に使うことを強いられる。右手を用いると左脳も刺激されるし、不便を解消しようとイチイチ考える習慣がつくようになり、結果的に左右の脳を無駄なく使いやすいのだ。

また右利きより、左利きで強化されている右脳は、直感にも深く関わる。一方、右利きで発達しやすい左脳は、論理的思考に関わる。

右利き優勢の左脳社会では、何事も論理的に片づけようとしがち。でも、左利きは論理的思考に加えて、直感力に優れているため、大半の右利きからは「すごいアイデアを思いつくね。天才じゃね?」と発想の独創性を高く評価されることも少なくないだろう。

右利き仕様の社会にマッチするよう、左利きの子供の右利きへの矯正を企てる親は少なくない。でも、その親心が逆効果になることも考えられる。

「ヒトの脳は、特定の機能を早く獲得した方が成長しやすい。利き腕が早めに決まった方が有利なので、左利きを無理に矯正しようとして、子供が混乱するのはマイナスです」

右利きは、左側をよく見ていない恐れも

右利きが、「天才でなくて結構。右利きのままで生きていくからノープロブレム」と開き直るのはやめた方がいいかも。なぜなら、驚くことに、右利きは知らない間に左側の空間を十分に見ていない可能性があるからだ。

言語については左脳が優位だが、空間の把握については右脳が優位

左脳は、反対の右側の空間にしか注意を向けることができないのに対し、右脳は反対の左側の空間にも、同側の右側の空間にも、くまなく注意を払うことができるという特性がある。

通常は、右脳と左脳を同時に使っているから顕在化しないが、脳卒中などで片側の半球にダメージを受けると、片側の空間を認識できなくなる「半側空間無視」という症状が起こる。

「半側空間無視の大半は、右脳へのダメージで生じます。左側の空間を無視するようになり、たとえば、ご飯をお膳の左側に置くと、ご飯にまったく手をつけなくなります。左脳は右側にしか注意が向かないため、左にも右にも注意を向けている右脳が障害されると、左側の半側空間無視が起こると考えられているのです」

脳全体が使える左利きは、右脳+左脳で左右の空間に注意が払える。でも、右利きは左脳優位なので、右脳のサポートが弱いと、脳卒中のようなダメージがなくても、右ばかり見て左側への集中力が疎かになる恐れもあるのだ。

ピアノ演奏のように両手を使う習慣で脳が活性化する

右利きが、左利きと同じように左右の脳をバランスよく用いながら、右サイドも左サイドにも集中できるようになるには、まずは左手を意識的に使ってみるべき

「脳にアプローチするには、カラダの使い方を変えるのが近道。利き腕を右から左へ変えることはできなくても、左手を積極的に用いると、満足に使えていなかった右脳が活性化されます。ピアノのように左右の手をバラバラに動かす楽器を習ってみたり、両手をフルに使う農作業をやってみたりすると、右利きも脳全体が強化できます」

右利きが、あえて左手を使うようにすると、社会がいかに右手優位に作られているかを再認識する。

多様性(ダイバーシティ)が重視される昨今。左利きにも右利きにも優しい社会を考えることは、社会をより豊かにする第一歩であり、右利きの脳を活性化する鍵にもなりそうだ。

コラム:命の源・アミノ酸はみんな“左利き”?

左利きに憧れる右利きでも、中身は左利きかも。体内のアミノ酸は全部、左利きだからだ。

私たちのカラダは、水分を除くとほとんどタンパク質からなる。そのタンパク質を作るのが20種類のアミノ酸。遺伝子とは、どのアミノ酸をどう並べてタンパク質を作るかのレシピを記したものにほかならない。

このアミノ酸の構造には、“右利き”と“左利き”がある(グリシンを除く)。左右対称で、右手と左手の関係のように、鏡に映すとピッタリ一致する「鏡像異性体」からそう呼ばれる。

鏡像異性体のうち、右利きをD体、左利きをL体、両者を等量含む混合物はDL体、またはラセミ体と呼ばれている。

通常の化学反応では、D体とL体は同じだけできるが、不思議なことに、カラダを作るタンパク質のアミノ酸はもちろん、地球の生き物が利用するアミノ酸はすべてL体。つまりカラダの大元はみな左利きなのである。

取材・文/井上健二 取材協力/加藤俊徳(加藤プラチナクリニック院長、〈脳の学校〉代表)

初出『Tarzan』No.850・2023年2月9日発売

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