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メカニズムから学ぶ「疲れにくい立ち方」と立つメリット

メカニズムから学ぶ「疲れにくい立ち方」

立っていると疲れてしまうという人、多いのでは? 本来立つ行為は動物にとって生きていくために不可欠で、正しく立てば疲れにくい。そこで今回は正しい立ち方と、立つことのメリットを紹介。

動物の基点となるのは立つという姿勢

立っているという状態は、動物が移動したり何かの行動を起こすための基点となる姿勢

当たり前だが、植物は生まれてから死ぬまで同じ場所に存在している生命体。光合成によって自らエネルギーを作り出し、種子や胞子を飛ばして子孫を繁栄させる。

これに対して動物はお腹が空いたら食物を探しに行かなきゃならないし、寒さ暑さから逃れる巣を確保しないと死んでしまう。つまり、常に動き回っていないと子孫は残せないというわけだ。

食物の確保や巣づくりのため移動するにあたっては、まず立ち上がらないことには始まらない。立って一歩を踏み出すことが生命活動の基点。立つのがだるいと言ってる時点で動物としての存在理由を放棄しているようなもの。座りすぎの民は、まず「立つ」ことの意味を考えてみよう。

直立二足で立つことは実は難しい

足の外周を囲んだ面を支持基底面という。これは体重を支えるために必要な面積のこと。

カラダの重心支持基底面内にあることで立つことができるのです」と言うのは関西医科大学リハビリテーション科の長谷公隆先生

ヒトの重心の在り処は、いわゆる“ヘソ下三寸”に位置する丹田。ここから床に対してまっすぐ線を引くと、確かに支持基底面の中に収まる。

「重心からの垂線、重心線を支持基底面で管理する必要があります。マネキンでは重心の圧を支えるポイントは動きませんが、ヒトの場合は筋肉を使って重心線をずらしながら効率的な立位を制御しています」

なるほど。しかも支持基底面は広ければ広いほど物体は安定して倒れにくい。ヒトは二足で立っているので四足動物よりも支持基底面はかなり狭い。つまり立ち姿勢がより不安定になる。二足で立つのはなかなかに難しい技術というわけだ。

ヒトと犬の支持基底面の違い

二足のヒトに比べて四足の犬の方が支持基底面が圧倒的に広い。それだけ安定性が高いので生まれてすぐに四足動物は立てるのだ。一方、ヒトはハイハイを経るなど立つための訓練が必須。

これが立つときの正しい重心のライン

ヒトが無理なく、しかも見た目にも整った立ち方をするとき、頭から地面までを通る重心線はあるべき軌跡を辿る

立っている時の重心線

まず後ろから見たときの重心線は後頭部から背骨を下降し、お尻の中央を通って膝、くるぶしの中心へと至る。まさに美しい左右対称のライン。

「これに対して重心のラインをから見ると耳、肩峰(肩の最も張り出した部分)、大転子(太腿の付け根の突起)、膝のお皿の裏側を通って、足関節の5~6cm前に落ちています

圧のポイントが前に来ることで前に倒れやすくなりますが爪先があるので耐えられます。一方、後ろ側に重心の圧のポイントが来てしまうと踵しかないので倒れてしまうのです」

人体を縦割りと横割りで見ると、重心線は微妙に異なるという話。

じっと立つときに使われる筋肉は最小限

さて、横から見たとき重心線は足関節のやや前に存在することは分かった。でも前に倒れないよういつも爪先で踏ん張るのは効率的ではない。

「そこで、後ろ側にある筋肉に立ち姿勢を管理する役割を集中させることで、私たちは自動的に立てるようになりました。使っている筋肉は横から見たときは脊柱起立筋下腿三頭筋、とくに深層のヒラメ筋です。これを足関節制御と言います。

ちなみに、後ろから見たときの立ち姿勢のバランスを管理しているのは中臀筋で、こちらは股関節制御です」

下腿三頭筋は腓腹筋とヒラメ筋というふくらはぎの筋肉の総称。これが前に倒れようとするカラダを引っ張っていて、力を緩めれば自然とヒトは前に進む。よくできてる!

立ち姿勢で使われる筋肉

よい姿勢で立つためには体幹の筋肉も必要

前の項で挙げた立ち姿勢を管理する筋肉は必要最低限の筋肉。これにプラスして体幹の筋肉ももちろん、バランスのいい立ち姿勢に貢献している。二本の足で立ってしまったからには、自力で上体をまっすぐキープする必要があるからだ。

体幹の筋肉

上体を支持しているのはインナーユニットと呼ばれる深層筋多裂筋という細かい筋肉群がS字カーブを描く背骨を後ろから支え、腹巻きのような腹横筋が腹腔をキュッと引き締め、横隔膜が上から、骨盤底筋群が下から圧をかけて腹圧が保たれる。

こうしてヒトは上体をまっすぐ保てているわけだ。お腹ぽっこり&猫背体型はインナーユニットが機能していない証拠

立ち姿勢で疲れやすい原因は悪姿勢にあり

電車やバスではいち早く空席を確保し、目上の人より先に着席することもしばしば、なんならエレベーター内の防災椅子にまで座ってしまう。それもこれも立ち姿勢ではすぐに疲れてしまうから

「極端に言えば、ヒトは下腿三頭筋脊柱起立筋が機能していれば、あとは靱帯の力を借りたら立てるようにデザインされています。重心線が整っている状態は効率的に立ててすぐに動き出せるポジションです。

ところが腰が曲がって重心線が後ろ側に来ると、股関節を伸ばすためにお尻やハムストリングスといった筋肉を使わなければならなくなります

悪姿勢で負担がかかる筋肉

つまり、見た目に美しく重心線が整った姿勢では、使われる筋肉は最小限だから疲れにくい。一方、見るからに悪姿勢では重心線が崩れるため、余計な筋肉に負担がかかる。よって少し立っているだけでも疲れてしまうというわけ。

見た目が悪くて疲れやすいって、最悪じゃないか?

立つ時間が伸びるといいことがある

座っている状態を中断して何かと立つ習慣を身につける。するとどうなるか?

ひとつには脳の視床下部という部位でオレキシンという物質が分泌される。オレキシンはカラダを覚醒状態に導き、覚醒レベルを維持するための神経伝達物質だ。

オレキシンが脳の代謝をアップさせると同時に、立つことで物理的に血液循環が促され、グルコース(血糖)が脳の神経細胞に運ばれる。この両方の作用で脳の認知機能の改善が図れると考えられている。

「特に食後やコーヒーブレイクで立つとこうした作用が期待できます」

立ち疲れのないカラダ 基礎知識

食後に立つ時間を設けることで、脳の代謝が上がる。オレキシンが発動し、脳の他の神経伝達物質を活性化、神経細胞そのものの働きが促され、シナプスを介した神経細胞同士の連携もアップする。

さらに歩いている時間に比例して脳の海馬の容積が増えるという研究報告がある。海馬はご存じの通り記憶に関わる部位。目や耳などの感覚センサーから入ってきた情報を一時的に記憶する場所だ。

逆に歩行時間が短いと海馬の容積は減り、記憶障害や認知症のリスクが高まることが分かっている。ここで冒頭に戻る。ヒトをはじめとする動物はなぜ立つのか? そう、歩いて移動する準備をするためだ。立って脳の健康を保つべし。

取材・文/石飛カノ イラストレーション/AZUSA OKUMURA 取材協力/長谷公隆(関西医科大学リハビリテーション科教授)

初出『Tarzan』No.849・2023年1月26日発売

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