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スポーツはもちろん、車の運転もスムーズに
日本で普及していない目のトレーニングの一つが、「ビジョントレーニング」。視力ではなく、「視る力」を鍛えるもので、もともとアメリカで空軍パイロットの訓練プログラムとして開発されたもの。欧米では、アスリートも熱心に励んでいる。
「目の動きが悪いと、頭や顔が無駄に動いてフォームが乱れますし、死角が生じて不利になります」
そう語るのは、アメリカで視覚機能に関する専門資格オプトメトリー・ドクターを取得した北出勝也さん。プロボクサーの村田諒太選手をはじめ、多くのJリーガーやプロ野球選手らにビジョントレを指導してきた。
ビジョントレが求められるのは、アスリートだけではない。視る力が高まれば、趣味のスポーツはもちろん、車の運転もスムーズに行える。資料やデータも素早く把握できるようになり、仕事力だってアップする。
ビジョントレの基本は、目を思い通りにコントロールする3大眼球運動を鍛えること(下参照)。この3つの眼球運動を高めるのが、6つのビジョントレだ。道具も不要だし、通してやっても3分ほどで終わるから、仕事の合間などに気軽に試そう。
視る力を決める3大眼球運動
①跳躍性 眼球運動
対象物から対象物へ素早く視線を飛ばす運動。バスケットボールのゲームのように、敵味方が狭い範囲で入り乱れる際、あちらこちらへ目線を飛ばしながら、適切な判断を下すために必要となる。
②追従性 眼球運動
ゆったりしたモノの動きに焦点を合わせてフォローし続ける。野球のフライやゴロをキャッチするときに使われる。自分自身は活発に動きながら、静止したモノの動きを見守るのも、コレ。
③輻輳性 眼球運動
左右の目のチームワークを発揮し、距離が異なる対象物を交互に見る運動。サッカー選手がプレスをかけに来た相手選手の動きを見つつ、逆サイドの味方にパスを出すときの動き。
ビジョントレ① コンバージョン
両目をギュッと鼻筋に向けるようにして、目を寄せる力を高める。両目でやりにくい場合、片目を手で塞ぎ、片目ずつやってもいい。焦点が合う限界の距離を、徐々に縮めていこう。
両目の間から、40cmほどの距離に片手の親指を立てたら、その指先に焦点を合わせる。焦点を合わせたまま、ゆっくりと目元に近づけながら、焦点が合う限界の距離に来たら、5秒(5カウント)キープする。5セット。
ビジョントレ② ヘッド・スイング
焦点を一点に固定して頭をいろいろな方向へ動かす。ターゲットとなる親指のポジションはつねにキープ。首まわりの筋肉がリラックスし、スマホなどの見すぎによるストレートネックもリセットできる。
両目の間から、40cmほどの距離に片手の親指を立て、焦点を合わせる。焦点を固定したまま、頭を左右、上下、斜め上・下に振る。最後に、親指にフォーカスしたまま、頭を時計回りと反時計回りに円を描くように振る。
ビジョントレ③ フォローイング
頭の位置を固定し、目の動きだけでフォーカスを合わせ続けるトレーニング。頭が動いてしまうと、眼球を動かす筋肉が働かなくなる。目を動かす筋肉のダイナミックストレッチ効果もアリ。
片手の親指を立て、その腕を上下、左右、斜め上・下へ動かす。頭のポジションを固定し、動く親指の先に焦点を合わせ続ける。最後に、大きな円を描くように親指を時計回り・反時計回りに回し、目線で確実に追う。
ビジョントレ④ サム・サッケード
テンポよく、目線を移動させるためのトレーニング。ムリせず、両腕の幅を徐々に広げる。目を動かすスピードを上げると、動いているモノを見る動体視力の鍛錬にもつながるはずだ。
両手の親指を立て、両腕を目の高さで肩幅ほどに伸ばす。頭のポジションを固定したまま、左右の親指の先に焦点を合わせる。同様に、上下、左右、斜め上・下の方向にも腕を伸ばし、立てた親指の先を目線だけで追う。頭を動かさないように。
ビジョントレ⑤ 弓矢のポーズ
遠くにも、近くにも、素早くピントを合わせるトレーニング。近くばかりを見すぎて疲れた目をリセットする効果もある。弓矢を引くフォームに似ていることから、この名がある。
両手の親指を立て、片腕を目の高さで伸ばし、反対の手は目と目の間から5cmくらいの位置に置く。伸ばした腕の延長線上で3m程度先に焦点を合わせたら、次に遠い方の親指、続いて近い親指に焦点を合わせる。それぞれ3秒(3カウント)静止。5セット。
ビジョントレ⑥ ワイド・ビューイング
周辺視野を広げるためのビジョントレ。目の力を抜いてリラックスして、遠くをボーッと見ながら、視野の片隅で親指を捉える。視野が広がると、気分も明るくなりそう。
親指を立てた両腕を、目の高さで肩幅よりもややワイドに広げる。目線を正面に据えたままで、視界の端に親指の先端を意識しつつ、両腕をゆっくりと左右に広げる。同じように、上下方向、斜め上・下方向にも行う。
コラム:眼球運動でメンタルもコントロール
気分が落ち込むと誰でも伏し目がちになるし、何かを思い出そうとする際は無意識に上を見る。目と脳は神経を介してつながっており、目の動きは脳やメンタルの状態を反映することも少なくない。
「目を上に動かすと視覚的なイメージが浮かびやすく、横に動かすと聴覚的なイメージが生じやすくなり、下に動かすと体性感覚(皮膚感覚や筋肉などの深部感覚)に注意が向かいやすくなるといわれています」
医療の世界では、目の動きを使い、メンタルの不調を取り去る治療法もある。その代表と言えるのが、MDR(眼球運動による脱感作と再処理法)。パニック障害やPTSDなどの治療に用いられて一定の効果を上げているようだ。