20〜30代だって他人事じゃない|老眼のウソ・ホント
他人事ではいられない。気づかぬ間に、確実に侵されている“老眼”という現象について4つのウソ・ホントから正しい知識を学んでおこう。進行を食い止めるには? 回避することは可能?
取材・文/井上健二 取材協力/平松類(二本松眼科病院副院長、医学博士)
初出『Tarzan』No.844・2022年10月21日発売
① 30代から老眼になるってホント?
ホント
老眼は40歳前後で起こるという常識を覆し、20〜30代で老眼に悩む人が増えている。「スマホ老眼」だ。
目本来の焦点距離は2m程度。それより近くも遠くも、目のレンズに当たる水晶体の厚みを変えて焦点を合わせる。加齢で水晶体が硬くなったり、水晶体の厚みを変える毛様体筋の働きが衰えたりすると、焦点を近くに合わせる調節機能がダウン。手元が見づらくなる。これが老眼の正体だ。
「調節機能は10代から落ちる。手元が見えづらくなるまで低下するのが40歳前後なので“老眼は40歳から”と思い込んでいるのです」(眼科専門医の平松類さん)
スマホ老眼では近くばかりを長時間見続け、毛様体筋が固まり、ピント調節機能が落ち、手元がボヤける。
老眼は老化現象。元に戻せないが、スマホ老眼の多くは一過性。スマホを見る時間を減らし、毛様体筋をほぐすルーティンでも改善可。
② 近視の人は老眼にはなりにくい?
ウソ
「近視の人は、老眼になりにくい」という都市伝説がある。それが事実なら、まさに怪我の功名だが、残念ながら誤解のようである。近視では、ピントが合う範囲が手前にあり、遠くが見えにくい代わりに、近くは見えやすい。
一方、老眼は手元にピントが合いにくい。そう考えると、都市伝説は正しいようにも思えるのだが…。
「裸眼なら、近視はそうでない人に比べると、手元が見えやすいので、老眼が始まっても自覚しにくい。ただ、近視をメガネやコンタクトで矯正すると、近視がない人と同じ状況ですから、老眼になると近くの見えづらさを早々に自覚します」
近視でメガネをかけているのに、スマホを見るときは眼鏡を外した方がラクに感じたら、老眼が進んでいる証拠。老眼は正常な老化現象なので、自覚する時期に多少の差はあれど、誰も逃れることはできない。
③ 老眼鏡をかけると老眼は進む?
ウソ
老眼絡みの都市伝説を、もう一発。「老眼鏡を早くからかけると、老眼が進みやすい」というものがある。こちらは正しいのか。
「老眼は40歳以降で徐々に自覚できるようになり、60〜70歳まで進行します。老眼鏡をかけても、老眼の進行にストップがかけられるわけではないので、早々に老眼鏡をかけても老眼が進むことから、そういう俗説が生まれたのでしょう」
むしろ老眼を意識したら、老眼鏡は早めにかけた方がいい。老眼鏡でストレスなく近くを見るには、一定の慣れが求められるからだ。
「老眼鏡は早めにかけた方が早く慣れるので、老眼によるストレスを感じにくい。痩せ我慢して老眼鏡をかけるタイミングを遅らせると、慣れるまでに眼精疲労を起こす恐れもあります」
老眼を自覚したら、さっさと眼科を受診して、老眼鏡か老眼対応のコンタクトレンズを作ろう。
④ 遠視の人は老眼が早い?
ウソ
遠視でも老眼でも、近くが見えにくくなる。だが実際、両者の本質はまるで別物。遠視は、近視と同じく屈折異常。角膜や水晶体で光を屈折させる力と、網膜までの距離が合わないのだ。
近視は角膜から網膜までの距離=眼軸が長く、網膜の手前で焦点が合いやすい。逆に遠視は眼軸が短く、網膜の後ろで焦点が合いやすい。屈折力の修正で網膜上に焦点を結ぶには、遠くは軽い調整で済む一方、近くは強く調整しないと見えにくい。だから近くを見すぎると眼精疲労を招きやすくなるというわけ。
老眼は、老化などで屈折させる力の調整がうまくいかなくなる調節異常。
「遠視だと老眼が早いといいますが、老眼が始まる時期に遠視も近視も影響しない。遠視だと近くを見る際、近視より老眼鏡を使う場面が多くなるため、老眼を早く自覚しやすいのです」
コラム:老眼鏡の正しい選び方
眼鏡は、眼科で視力などの精密検査をしてもらい、処方箋に基づいて作るべき。
「老眼鏡で大切なのは何をよく見るかを踏まえること。焦点距離で老眼鏡の度数は変わるからです。読書のためなら焦点距離は30cm前後ですが、パソコン画面をクリアに見たいなら50〜60cmでしょうし、スマホしか見ないというなら20cmを前提に作るべきです」
本来なら、読書用、パソコン用、スマホ用と3種類作り、使い分けるのが理想的かも。また、老眼は進行性なので、2年おきくらいに作り直す必要がある。