腕や手のしびれ・痛みを引き起こす「胸郭出口症候群」
連載「コンディショニングのひみつ」。第38回は腕や手のしびれ、痛みや筋力低下を伴う「胸郭出口症候群」について。
取材・文/オカモトノブコ 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.845・2022年11月2日発売
神経や血管の圧迫で起こる「胸郭出口症候群」
肩関節とその周辺に起きる障害について、最終回のテーマは腕や手のしびれ、痛みや筋力低下を伴う「胸郭出口症候群」だ。“胸郭出口”とは、首と胸の間を通る通路のことを指す。下の図から詳しく解説しよう。
上肢や肩甲骨まわりの運動や感覚を支配する神経の束(=腕神経叢:わんしんけいそう)は脊髄から始まり、鎖骨下動脈とともに①前斜角筋と中斜角筋の間、②鎖骨と第1肋骨の間、③肩甲骨と肋骨をつなぐ小胸筋の後方を走行する。
ここで締め付けや圧迫が起きることで、神経や血流が阻害されて不調が表れるのだ。
それぞれ発生部位により、①斜角筋症候群、②肋鎖(ろくさ)症候群、③小胸筋症候群(過外転(かがいてん)症候群)という診断名があり、これらの総称が胸郭出口症候群と呼ばれるものだ。
症状として強烈な痛みは少ないものの、腕や肩甲骨周辺のしびれや痛み、また手の小指側にうずくような感覚障害が発生するなど不快感を伴う。
握力が低下して力を入れづらく、細かい作業がしにくくなるといった運動麻痺を引き起こすこともある。
長時間のデスクワークも原因に
おもな原因として挙げられるのが、上肢や肩を偏った状態で酷使すること。デスクワークやPC作業、重いものを持ち運ぶ、手元に集中するなどの作業を長時間続けることによって周辺の筋肉が過緊張し、弾力性を失うことが問題なのだ。また、加齢による筋肉の硬化も少なからず影響していると考えられる。
ちなみにこの胸郭出口症候群、実は女性に多く発生する疾患でもある。一方、日常的にトレーニングを行う人にはあまり見られない。筋量が少ない前者に対し、後者の筋肉は柔軟性や耐久性に勝るという点からも、リスク要因が理解しやすいだろう。
またカラダの使い方においては、猫背や巻き肩といった不良姿勢も症状を助長する要因だ。
実際のところ胸郭出口症候群の初期には、姿勢とも関連が深い首こり・肩こりといった一般的な症状が出現する。これが長期的に続くことで神経や血管の圧迫につながるため、たかが肩こりといっても油断は禁物なのだ。
つまり改善を目指すにしても、まずはこれらの要因を取り除くことが大前提。具体的にはオフィスの環境やデバイスの角度、作業中の姿勢などを見直すことが根本的には必要となる。
そのうえですすめられるのが、症状が悪化する急性期を除いた日常的なケアとして行う保存療法だ。
ケア① 筋膜リリースマッサージ
胸郭出口の付近は、斜角筋、僧帽筋などの筋肉に取り巻かれている。首と肩の境目を触ってゴリゴリしていたら、これらの筋肉が硬く緊張し、筋膜が癒着しているサイン。自分の手でイタ気持ちよくさすって、筋肉の硬直が慢性化するのを防ごう。
ケア② 肩の後ろ回しストレッチ
前述の筋肉を収縮・弛緩させる動きを繰り返し、弾力を取り戻す。胸郭出口症候群では肩が前に丸く縮まり、肩甲骨が前上方へ持ち上がって周辺が張っているケースが多い。これを改善するため、ここでは後ろの一方向へ回すことがポイントだ。
復習クイズ
答え:野球の投球動作