2人に1人が罹る。知っておきたい“がん”のウソ・ホント
がんという病になった自分を想像したことがありますか? 日本人が一生のうちでがんに罹る割合は2人に1人。これはもう他人事とは言えない数字。でも恐るるなかれ。もし将来がんになっても怯まないためにがんの原因、治療法について正しい知識を学んでおこう。今はもはや“withがん”の時代なのだから。
取材・文/石飛カノ 編集/堀越和幸 写真/AFLO 監修/勝俣範之(日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科)
初出『Tarzan』No.842・2022年9月22日発売
目次
がんは生活習慣病である?
がんになってしまった。そのとき人は己のこれまでのライフスタイルを振り返る。
野菜嫌いだったから? 運動不足の生活を送ってきたから? 長年ストレスの多い仕事に就いていたから? と。
でもがんの専門家、腫瘍内科医・勝俣範之先生によれば「がんが生活習慣病といわれているのは日本だけです。一部のがんは生活習慣が原因で起こるというのが正しい表現だと私は思っています」
そう、がんの種類によっては生活習慣の影響をあまり受けない。お酒もタバコもやらず運動好きで健康的な食生活をしていてもがんになる患者は実は少なくないのだという。ただ、一部のがんの原因になり得る生活習慣を敢えて言うなら喫煙だ。
「口腔がん、咽頭がん、食道がん、肺がん、このあたりは喫煙と深く関わっています。飲酒と喫煙がダブルになるとさらにリスクが上がります」
喫煙者が注意すべきは口から肺の気道周辺のがん。というか喫煙習慣だけは即やめるべし。
日本人のがんの環境要因
結論→ウソ
定期的に検診を受ければがんは予防できる?
毎年がん検診を受けているから自分は大丈夫。と思っている人、実はそうとも言い切れない。
「がん検診の意味のあるがんとそうではないがんがあるからです。意味があるのは進行が緩やかだけれど放置しておくと死に至るようながん。胃がん、子宮頸部のがん、乳がん、肺がん、大腸がんなどです」
これらにも急速に進行するがんもあるが、多くは検診で見つかり治療できる確率が高い。一方、検診の意味があまりないのが進行が非常に早い血液などのがん、あるいは前立腺や甲状腺がんなど進行が遅いがんだ。
前者は検診で発見するのが難しく、発見されたときは進行している可能性が高い。後者は放置してもすぐに命につながるリスクはない。さらに後者は、本来はしなくてもいい検診で過剰診断をされたり、しなくてもいい治療を受ける過剰治療という問題を孕んでいる。
つまり、検診さえ受けていればすべてのがんが予防できる、というわけではない。
進行速度によるがんの分類
結論→ウソ
日本人はがんになりやすい?
日本人は一生のうちで2人に1人ががんになる。たとえば今から30年後、クラスの同窓会をやったら半分くらいの同窓生ががんになっている可能性もあるわけだ。
実際、日本人の死因で最も多いのはがん。2021年にがんで死亡した人は38万1497人。全死因の26.5%に当たるダントツ1位。
「日本は先進国の中でもがんの罹患率が高い方です。アメリカなどの肥満大国では心疾患で亡くなる方が多いですが、一方、日本人は痩せ型で食生活も比較的いいため長寿。だから超高齢化社会を迎えて、心疾患よりがんの罹患率が増えたとも言えます」
ある意味、がんは日本人の運命?
結論→ホント
がんは偶然起こる病気?
生活習慣でもなければストレスでもない、聞けば遺伝的要因によるがんも5〜10%程度という話。それならがんの原因って一体なんなんだ?
「原因の多くは遺伝子の突然変異です。人の臓器や組織は細胞を新たに再生させています。その細胞分裂の際に遺伝子異常が起こってしまうことがあるのです」
遺伝子異常は細胞のプログラムエラー。それが起こっても免疫システムが対応してくれる。ただプログラムエラーが蓄積することで最終的に細胞や組織が機能不全になることも。これが細胞のがん化だ。
正常細胞とがん細胞のライフサイクル
「また、加齢によって細胞の自己再生回数が増えれば、それに比例してプログラムエラーも増えます。高齢化社会でがんが増えたのは、そういった意味もあります。がんの3分の2はこのように偶然に起こっているともいわれているのです」
日本人の2人に1人。しかもランダムに誰にでも罹る可能性がある。これががんの現実だ。
結論→ホント
緩和ケアを勧められたらもう終わり?
緩和ケアとは身体的な苦痛の緩和や精神的心理的な問題などの援助を意味する。長らく「終末期医療」というイメージが強く、それって、もう末期だから打つ手がないということ? 治療をあきらめろということ?緩和ケアを勧められた患者はそんな絶望感を感じることも少なくなかった。
ところが2010年、権威ある医学雑誌で、抗がん剤治療と緩和ケアを同時に行うと、抗がん剤単独の治療よりも生存期間が延びたという衝撃的な論文が発表された。
「この論文によって世界の医学会では緩和ケアの重要性が認められつつあります。その最大のメリットはQOL(生活の質)を改善するという点です」
抗がん剤単独グループ vs早期緩和ケアグループ
結論→ウソ
先進医療は標準医療より効果がある?
標準治療とは現在日本の病院で受けられる保険適用の治療のこと。手術、放射線治療、抗がん剤治療の3つで構成されている。ちなみに緩和療法は第4の標準治療だ。
一方、保険が適用されていない未承認治療は下に示した通り。先進医療と呼ばれる治療法がここに分類されているのを意外に思うかもしれない。
でもこれは研究で効果はある程度認められているものの、保険適用にするほど信頼性の高いデータが得られていない治療法。1999〜2016年までで保険適用になったものはわずか6%にすぎない。
標準治療と未承認治療
「日本は世界に誇る医療保険の国。いい治療は保険適用になっているので標準治療は今受けられる最高のがん治療法と言っても過言ではありません。がんは未だ治すことが難しい病気ですが、標準治療で共存はできる時代。
日本人はずっとがんに怯えて直視することを避けてきましたが、今こそ“withがん”という心構えが必要な時代です」
結論→ウソ
がんの専門医は外科医ではなく内科医?
がんと宣告された患者が有名な外科医の元を訪れる。日本ではなんとなくそれが当然の流れのように思えるが、当然、外科医の仕事は手術。標準治療としてまっさきに手術を勧められることになる。
「世界的にはがんの専門家はオンコロジストと呼ばれる腫瘍内科医です。腫瘍内科はがんの総合内科のようなもの。腫瘍内科医は抗がん剤の処方や検査の相談、治療、手術のコーディネートまで、がん患者を最初から最後までサポートする専門医のことです」
がんによって最適の標準治療はそれぞれ異なるため、腫瘍内科医は公正な判断で治療方針を見極める。日本ではまだまだ少ない腫瘍内科、今後の普及が望まれるところ。
結論→ホント