どのようにして数値を計測している?
脂肪は電気を通しづらい。その性質を利用して測定
体組成計に乗るだけで「ピッ」と表示されるあの数値。ただ乗っているだけなのに、一体どうやって導き出されているのだろう?
「脂肪はほとんど電気を通しませんが、筋肉など電解質を多く含む組織や水分は電気を通しやすい。その特性を利用して、カラダに微弱な電流を流し、そこで得られる電気抵抗値“インピーダンス”と体重などの生体データによって推定しています。
一般に体脂肪の多い人は電気抵抗値が大きく、少ない人は低いという傾向があります」(タニタ開発部の宮下真理子さん)
まずは筋肉量を把握し、体脂肪量を割り出す
その仕組みを詳しく解説するとこうだ。
筋肉の断面積が大きいほど電気抵抗値が低くなるという性質を利用し、まずは筋肉の太さを算出。そこに、身長から分かる筋肉組織の長さを掛け合わせて筋肉量を得る。この数値に体重や、年齢、統計データを組み合わせると、どれくらいの脂肪が溜まっているか、つまり体脂肪率を推定することができる。
「筋肉の電気の通り具合は年齢のほか、運動習慣や水分変動によっても変わります。タニタでは異なる周波の電流を使った測定法なども導入し、より正確な計測を目指しています」
体組成計にはどんな種類がある?
両手両足か、足のみの2種。目的に応じて選ぼう
体組成計には、体重計のようにただ乗るだけの両足計測タイプと、電極が付いたグリップを持って乗る両手両足計測タイプの2種類がある。
「手足タイプは計測に1分ほどかかりますが、両腕と両脚、体幹、と部位別に筋肉量や脂肪量などを知ることができるのがメリット。自分のカラダをより細かく把握したいアスリートタイプの方におすすめです。脈拍なども測れます」(宮下さん)
一方、足のみタイプは、最低限必要なデータが網羅できて、計測も短時間。乗るだけなので続けやすいところが長所だ。
「水泳選手のように上半身が発達しているなどよほど体格に特徴がない限り、2種の間で精度の差はありません。部位ごとまでは不要というなら、まずは足のみタイプでも」
機種選びもだけれど、より大切なのは正しい使い方
どちらを選んだとしても肝心なのは、正しい使い方だという。
「足を平行にして、必ず踵が電極の上に来るように乗ってください。特に体脂肪量の計測には重要です。また、手足タイプの場合は、肘が曲がった状態だと抵抗値が大きくなり、正確な数値が得られません。肘を伸ばした状態で電極グリップを握り、測るように心がけましょう」
測るタイミングで注意すべきは?
運動&入浴直後はNG。測るならその前に
「カラダの状態を正確に把握するなら、測る時間や条件を一定にすることがポイントです」と、宮下さん。
たいていの場合、ジムで汗をかいた後、あるいは風呂上がりに「測っとくか」となりがちだが、実はいずれも避けたいシチュエーションという。電気の抵抗値から推定される体脂肪率や筋肉量は、体水分や体温の変動に影響を受けやすいからだ。
「発汗や発熱で水分量が減ると抵抗値が低下。また体温が高い場合も電気が流れやすくなり、実際より筋肉量が過大評価される傾向があります。運動や入浴時に測る習慣があるのであれば、終わってからではなく前に測定することをおすすめします」
無理のないタイミングでルーティン化、が大事
ワークアウトの成果は、直後ではなく平時に確認するものと心得よう。そのほか食事後や起床の直後も、体内の水分バランスの偏りで数値にばらつきが出やすく、避けたいところ。ベストは昼食か夕食、または就寝の直前ということになるが、
「なるべく数値のブレがなく、かつ自分が現実的に続けやすいタイミングでいいと思います。計測をルーティンにすることが大事。体調も考慮しながら、長い目で体組成計のデータを活用してください」
体脂肪率計測はいつから始まった?
成人病急増のバブル後に、世界初の体脂肪計が誕生
体脂肪という概念はそう古くはなく、平成の世に入ってから登場したものであることをご存じだろうか。タニタが日本初のデジタルヘルスメーターを発売した1978年(昭和53年)は、健康管理といえば体重が主役の時代。
その後、経済成長とともに糖尿病や高脂血症、動脈硬化など今でいう生活習慣病が急増し、原因である脂肪が問題視されるようになる。体重そのものだけでなく、体重に占める脂肪の割合が高いことが問題だと医学的に分かったのだ。
医療現場での需要を受け、乗るだけで体脂肪率が分かる業務用体脂肪計を、タニタが世界で初めて製造・発売したのが1992年(平成4年)のこと。2年後には家庭用の体脂肪計付きヘルスメーターも誕生した。
「実は“体脂肪”という言葉も、タニタの開発室で生まれたものなんです。脂肪の割合を“脂肪率”とすると“死亡率”に聞こえてしまうため、体の1字を付けて“体脂肪率”に。そこから、“体脂肪”が広く使われるようになったのです」(宮下さん)
体脂肪計から体組成計へ。さらなる分析が可能に
やがて2000年前後になると、特に注意すべきは腹腔内の脂肪であること、そして食事量制限だけのダイエットは筋肉を減らしてむしろ逆効果であることなどが広く知られるようになり、あわせて内臓脂肪レベルや基礎代謝量といった指標が登場。
それらを組み込んだ体組成計が各社から発売される。
以降、さまざまなモデルが世に送り出され、指標もさらに専門的・詳細に。体脂肪の計測に始まった飽くなきカラダ探求のテクノロジーは、現在も歴史を刻み続けている。
他にはどんな測定方法がある?
二の腕と背中の厚みから割り出すアナログ方式
体組成計以外の測定法として代表的なのが、キャリパー法だ。
「二の腕の、三頭筋のすぐ下と、肩甲骨下部の2か所をキャリパーという専用の測定機器でつまみ、皮下脂肪の厚さから体脂肪を推測するという方法です。体組成計が開発される前は一般的で、広く採用されていました。お腹を1か所つまんで測る方法もあります」(宮下さん)
測定値と身長、体重をもとに、複雑な計算式によって体表面積と身体密度、さらに体脂肪率を導き出す。
「今でも、部位を絞って追い込みたいなどの目的で、プロアスリートには需要があるようです」
体格や測定者によって結果にばらつきあり
ただキャリパー法は、手作業ゆえに偏りが出やすいという特徴も。
「脂肪も筋肉もあるようなタイプだと挟みにくいなど、体格にも左右されます。そもそもこういう誤差をなくして誰でも簡便に、と開発されたのが体組成計なのです」
お腹の肉をむにっとつまんで体脂肪チェック…という感覚はあながち間違いではないようだが、体脂肪を的確にコントロールするならやはり、最先端の機器に頼るのが早道だ。