
動きのバリエーションを増やし、カラダを大きく使うために
まるで天使の羽根のような肩甲骨を持つ、日本を代表するスポーツクライマー・楢﨑智亜選手。全身の柔軟性が求められる競技だが、肩甲骨は特に意識する部位だという。
「試合によってホールドの位置が変わるので、得意な壁だろうと苦手な壁だろうと、スムーズに攻略できるよう、練習ではあえて難しいポジションをとって、肩甲骨をいろんな方向に動かすように心掛けています。そうやって動きのバリエーションを増やしていくと同時に、可動域を広げていくんです」

楢崎智亜(ならさき・ともあ)/1996年生まれ。18歳でプロクライマーとなる。世界選手権で金メダル3個を獲得し、東京五輪では男子複合4位入賞。4月のボルダリングW杯開幕戦で優勝を果たす。その素早い動きはTomoa styleと呼ばれている。
身長169cmと背が高い方ではないのも、肩甲骨を重視する理由。
「腕も長くはなく、握力も50kgと、プロクライマーの中ではかなり低いんです。だからカラダは目いっぱい大きく使いたいし、腕が伸び切った状態でも指をしっかり使ってホールドを摑みたいし、さらにその先のホールドにも届かせたい。それには普段からいかに肩甲骨を柔らかく使えているかが重要になるんですよ」
可動域を広げるべくマシンも使うし、肩甲骨を寄せたり上げ下げした状態から全身を連動させ、カラダを操る動きを繰り返すことも。
当然筋力もすごいのだが、そのパワーを最大限指先に伝えるために肩甲骨の使い方を追求しているのだ。
ストレッチマシンは不可欠!

練習場には肩甲骨、股関節のストレッチマシンが完備。毎日壁に登る前に使い、部位の詰まりをほぐしている。
懸垂するたびに肩甲骨が動く!

「肩甲骨をもっとうまく使うためにも、その間にある菱形筋を鍛えたいんです」と楢﨑選手。カラダをグッと壁に引き寄せ、登りやすくする目的もあるという。
もちろん、股関節も重要な部位。
「競技中は腰が入った方が足に体重が乗って姿勢が安定するんですけど、傾斜がついた壁だと背中が反って腕や指先に力が入らなくなってしまう。そういう状況では、ある程度壁とカラダの距離を取っておきたいんです。
そこで股関節が硬いと腰をうまく引くことができないし、ホールドに足を置く際、股関節を内外旋させて下半身の動きを作ることも。だからどんな体勢でも力を入れられるよう、股関節を含めた下半身で全身の安定感を作る。そんなイメージです」
ホールドに片足で乗って全身を支持したり、両脚を大きく開いて重心移動を繰り返したり。彼曰く“股関節に油を注す”練習は日課。世界で戦うカラダは、こうして作られる。