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【加齢のトリセツ】男性ホルモンの減少が招く「男性更年期障害」の原因と対策

年とともに男性ホルモンは減少するが、それは性機能の低下だけでなく、全身の不調の一因にもなる。不調の出発点に肥満があって、男性ホルモンの減少を招くこともある。中年太りの放置は禁物だ。

その不調、更年期障害かも。

年のせいか近頃無理が利かなくなった。しっかり眠ったはずなのに、朝から疲労があったり、日中も気分がすぐれず、集中力は途切れがち。意欲どころか性欲さえもどこへやら。もしや病気になったのか?

女性ホルモンの減少、枯渇から更年期の女性をさまざまな不定愁訴が襲うように、男性ホルモン、テストステロンの減少していく中高年の男性にも、心身の不調があちこちに顔を出し始める。身に覚えのある男性は、下のセルフチェックを試してみるべし。

男性更年期障害セルフチェック(AMSスコア)
  1. 総合的に調子が思わしくない(健康状態、本人自身の感じ方)
  2. 関節や筋肉の痛み(腰痛、関節痛、手足の痛み、背中の痛み)
  3. ひどい発汗(思いがけず突然汗が出る、緊張や運動とは関係なくほてる)
  4. 睡眠の悩み(寝つきが悪い、ぐっすり眠れないなど)
  5. よく眠くなる、しばしば疲れを感じる
  6. いらいらする(当たり散らす、ささいなことに
  7. 神経質になった(緊張しやすい、精神的に落ち着かないなど)
  8. 不安感(パニック状態になる)
  9. カラダの疲労や行動力の減退(全般的な行動力の低下、余暇活動に興味がないなど)
  10. 筋力の低下
  11. 憂鬱な気分(落ち込み、悲しい、涙もろい、意欲が湧かないなど)
  12. 「人生の山は通り過ぎた」と感じる
  13. 「力尽きた」「どん底にいる」と感じる
  14. ひげの伸びが遅くなった
  15. 性的能力の衰え
  16. 早朝勃起回数の減少
  17. 性欲の低下(セックスが楽しくない、性交の欲求が起きない)

各項目を「ない」1点、「軽い」2点、「中程度」3点、「重い」4点、「きわめて重い」5点で集計する。合計点で男性更年期障害の重症度を判定。17~26点「ない」、27~36点「軽度」、37~49点「中等度」、50点以上「重症」。

さて男性ホルモンの出発点は脳の視床下部。ここで作られるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)は下垂体を刺激して、黄体形成ホルモン(LH)卵胞刺激ホルモン(FSH)を作らせる。

黄体形成ホルモンは精巣のライディッヒ細胞に働きかけてテストステロンを作らせ、卵胞刺激ホルモンは精巣のセルトリ細胞に働きかけて精子の産生を促す。

だが、加齢に伴いライディッヒ細胞は減るし、視床下部ではゴナドトロピン放出ホルモンの分泌量が減るため、テストステロンはおのずと低下する。そのペースは意外に速く、25歳から年間2~3%ずつ減っていく。

男性更年期障害
出発点は大脳の視床下部。ここで起こったさざ波は下垂体を経て、精巣に及ぶ。下垂体は副腎皮質刺激ホルモンも分泌し、副腎に副腎性アンドロゲンを作らせ、これが前立腺に前立腺液を作らせる。前立腺液は精子に栄養を与え、活性化させる。

テストステロンは男性を男性らしくさせる源だ。これが十分にあればこそ、健全な性欲が湧き、性機能を維持できるし、記憶力、認知力、体力を強靱に保ち、前向きな気分にもなりやすいというもの。

それが不足するとどうなるか? 動物実験ではテストステロンの受容体を働かなくすると脂肪が増え、筋量と運動量は減少した

男性更年期障害
アンドロゲン(男性ホルモン)の受容体を壊し、シグナルを受けられなくなったマウスは対照群に比べ筋肉が少なく、肥満しやすくなったが、運動量の乏しさが影響しているかもしれない。
出典/『アンドロゲン受容体欠損マウスと肥満』(柳瀬敏彦、范呉強/「肥満研究」Vol.12 No.2 2006 〈トピックス〉)

肥満が生み出す“負の無限ループ”。

肥満するとレプチンの分泌量が増え、これはテストステロンの合成を妨げる。さらに脂肪組織が分泌する酵素(アロマターゼ)は、テストステロンをエストロゲンに変換することが知られている。メタボテストステロン減少は互いに相手の原因であり結果となり、いわば無限の悪循環だ。

その辿り着くところは心血管死の増加だとする報告もある。

男性更年期障害
欧米では総テストステロン値で、日本は血清遊離テストステロン値で評価するため単純比較はできないが、テストステロンレベルが閾値より低下すると心血管死の発生が増え、生存率が低下することは読み取れる。
出典/“Low serum testosterone and increased mortality in men with coronary heart disease” Chris J Malkin, Peter J Pugh, Sonia Asif, et al. Heart 2010; 96: 1821-1825. doi: 10.1136/hrt.2010.195412

性機能や性欲の低下を気にする中高年男性は多いが、生活習慣病予防のためにもテストステロンの減少には注意すべきだろう。

テストステロン低下の真の原因を探り、対処を。

加齢以外にもテストステロンの天敵は多く、強いストレスが続けば当然、減ってしまう。過度な糖質制限糖質摂取過多も一因になるし、睡眠不足は言うまでもなくNG。

男性更年期障害
コルチゾールも性ホルモンもコレステロールから合成されるので、過剰なストレスからコルチゾールの産生・分泌が優先されると、テストステロンレベルの低下が起こる。なお、コルチゾールはコルチゾンの前駆物質。

ここでセックスミネラルだなどと聞きつけ、亜鉛のサプリをドカ飲みするなど本末転倒。確かに亜鉛は大事な栄養素で不足は困るが、バランスのとれた食事を心がけたうえでのサプリだ。

まずは良質なタンパク質ビタミンミネラルを食事でしっかり摂ろう。亜鉛だけでなく鉄分も重要だし、微量栄養素では魚介、精肉などに豊富なセレン、タマネギ、ニンニクなどに多い含硫アミノ酸、キャベツ、カリフラワーなどアブラナ科の野菜もテストステロンの強化に役立つという。

男性更年期障害
タマネギ含硫アミノ酸30mgを4週間摂取すると、50歳代男性の唾液にはテストステロンが2週目、4週目とも開始時に比べ有意に増加していた。
出典/中山優也、稲川裕人、抜井一貴ほか「システインスルホキシド類高含有タマネギエキスによる男性更年期症状の改善効果」を改変。Jpn Pharmacol Ther(薬理と治療)vol.45 no.4 2017 資料提供/日清ファルマ
男性更年期障害

運動習慣の確立、維持はもちろん重要だが、この年代には強度の高いトレーニングはストレスになりうる。むしろ中程度の有酸素運動が推奨される。運動が面倒なら、通勤などの移動時に歩く量を、1週間で合計90分多くするなどというのもよい。

改善しなければ、専門医へ。

あれこれ試しても改善が感じられなければ専門医(泌尿器科やメンズヘルス外来)に相談しよう。血液検査で血清遊離テストステロンを測定し、8.5pg/ml未満の場合、LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)と診断される。

※LOHとはlate onset(発症、発病)hypogonadism(性腺機能低下症)の3語の頭文字を取ったもの。

この診断が下ると男性ホルモン補充療法が一つの選択肢となる。一般的には2~4週間に1回、筋肉注射を行い、1クール(10回)投与後の1か月後に採血し、テストステロン値を測定する。

数値が十分に改善すれば、漢方薬やサプリなどによる維持療法に切り替える場合もあるが、改善が不十分な場合は診察のうえ、漢方薬やサプリも併用しながら第2クールを続行することもある。

だが、ここで重要なのは、そもそもテストステロンが減った原因として、加齢以外に何があったかだ。医師とともにそれを探り出し、改善すべき点と十分に取り組むことなしに、薬頼りでだらだらと注射を受け続けるのはよくない。

テストステロンも最終的には肝臓で代謝されるから、使い続ければ肝機能に影響の出ることがある。また、多血症や睡眠時無呼吸症候群を悪化させることがあるという。

期間を限って集中的に取り組むことが望ましい。よく効く薬でも、距離感は見失わないように。

取材・文/廣松正浩 イラストレーション/横田ユキオ 取材協力・監修/岡宮 裕(代官山パークサイドクリニック院長)

初出『Tarzan』No.811・2021年5月27日発売

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