脳を騙して体重10kg減。行動経済学者が実践したダイエット術|痩せる行動経済学⑤

行動パターンを解明してダイエットにつなげる「痩せる行動経済学」シリーズ。実は今回のシリーズでナビゲーターを務めている経済学者の古川雅一さんは、脳を騙すことで10kgのダイエットに成功した過去を持ちます。一体どのような方法を用いたのでしょうか。

取材・文/石川優太、村上広大 イラストレーション/平井利和

自分の食事傾向を把握して、好物をカテゴライズする。

古川雅一さんがダイエットをはじめる際に取り組んだのが次の3つ。

  • 自分が食べたものを記録する
  • カロリーが低い食べ物を知る
  • 満足度が高い食べ物を知る

ダイエットのために食事制限は欠かせない。しかし、ただ闇雲に制限すればいいというわけではないのだ。

「自分が普段好んで食べている物をカロリーと満足度の軸でポジショニングしていくんです。そうすると、カロリーが低くて満足度が高い食べ物、カロリーが高くて満足度の低い食べ物などがわかってきます」(経済学者の古川雅一さん)

満足度とカロリーの関係図(おかず1品あたり)
満足度とカロリーの関係図(おかず1品あたり)
  • POINT①|似たようなカロリーなら満足度が高いほうがベター(ダイエットの継続に最適)
  • POINT②|同じ満足度ならカロリーが少ないほうがベター(ダイエットの達成に最適)
  • POINT③|カロリーが低いわりに満足度も高い(ダイエットの継続や達成に最適)
  • POINT④|カロリーが高いわりに満足度が低い(=摂取OKなカロリ-に制約がある中で、これを食べるのはカロリー的にもったいない)

自分の好物の傾向がわかったら、次はカロリーが高くて満足度の高い食べ物へのアクセスを悪くしていく。

「ポイントは意識から遠ざけていくこと。いくらダイエットを頑張ろうと思っていても、好物が冷蔵庫に入っていたら食べるのを我慢するのは難しいですよね。

でも、それが10分歩かないと手に入らない場所にあったら、“好きなものを食べること”と“10分歩くこと”を天秤にかけることになるので、面倒くさいというマイナス感情が沸き起こって食べたい気持ちを抑えることができます」

そして、カロリーが低くて満足度が高い食べ物を手の届く範囲に揃えていくと、それだけでカロリー制限をかけることができる。

食べる喜びより、痩せる喜びを感じよう。

とはいえ、古川さんがダイエットをはじめて1か月は、精神的に辛い状況が続いたという。どうやって切り抜けたのだろうか。

「私は、『夜の決められた時間以降にご飯を食べてはいけない』というルールを設けていたのですが、それでも我慢できないことがありました。

そこで『ルールを破ってしまったときはフィットネスクラブに行って1km泳ぐ』というペナルティを追加で課すことにしたんです。食べてしまったら最後。深夜だろうと絶対に泳ぐようにしました」

古川さんが10kgのダイエット成功にかかった期間は約半年。どのようにしてモチベーションを継続させたのだろうか。

「人は飽きる生き物。最初はちょっと痩せるだけで嬉しいですが、慣れてくるとそこまで大きな感動を味わえなくなっていきます。そこで大切なのがご褒美の設定です。1kg痩せていくごとにグレードを上げていくと、痩せることへの価値を高められます」(古川さん)

ダイエット成功への道は長く険しい。もし途中で負の感情が芽生えたときは、これまでの「痩せる行動経済学」シリーズで紹介した数々の方法をぜひ試してみてほしい。

教えてくれた人
古川雅一先生
古川雅一(ふるかわ・まさかず)/東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 特任准教授。専門は、行動経済学、健康政策。人間の意思決定や行動に関する研究、医療・介護・年金制度や社会経済システムに関する諸問題の研究などを行っている。
主な著書に「ねじれ脳の行動経済学」(日本経済新聞出版社)、「わかっちゃいるけど、痩せられない ~メタボの行動経済学~」(NHK出版)など。

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