「ヒューリスティックス」でモチベーション管理|痩せる行動経済学④

健康的に痩せたい! そう思っていても目標達成が難しいと感じるのにはワケがある。行動パターンを解明してダイエットにつなげる「痩せる行動経済学」シリーズ。今回は「ヒューリスティックス」を活用したモチベーション管理について、経済学者の古川雅一さんに聞きます。

取材・文/石川優太、村上広大 イラストレーション/平井利和

ある日やってくる“急激な焦り”を逆手にとる。

友人からダイエットに成功した話を聞くと、なんだか自分もできそうな気がしてこないだろうか? 実はこれ、行動経済学で説明ができる。

「隣の家に泥棒が入ったと知ると急に不安になりますよね。あるいは、地震が起きると防災グッズがほしくなる。人は物事の起こりやすさを判断するとき、このような具体的な出来事の影響を受ける傾向があります。これを『ヒューリスティックバイアス』と呼びます」(経済学者・古川雅一さん)

「ヒューリスティックバイアス」とは、いわば経験則に基づいた思い込みのこと。たとえば欧米人を見たら、英語が話せるだろうと自然と考えてしまうだろう。 だが、必ずしもそうとは限らない。このような先入観は、偏見とも言えるだろう。そうやって人は不十分な情報で物事を判断することがあるわけだ。

ベスト体重だった頃の自分を思い出してモチベーションを維持。

このヒューリスティックスバイアスをダイエットに活用できると古川さんは説明する。

「痩せていた頃の自分の写真があれば、普段よく目にする場所に貼ってみてください。そうすると、その写真を見るたびに当時の体重まで戻せるはずという自信が湧いてくるはずです」

昔の写真が手元にない人はクローゼットの中を覗いてみてほしい。今ではサイズ違いで着られなくなった服があるはずだ。「この服をもう一度着たい」その目標からダイエットを頑張るモチベーションが生まれてくる。

最悪の状況を想像してみるとモチベーションにつながる。

先述の過去のベストな自分を想像するのとは逆に、最悪の状況をイメージするのも効果的だという。

「高速道路のサービスエリアで、交通事故の様子を写真で掲載していますよね。ドライバーに最悪の状況をイメージさせることで、交通事故の予防につながっているわけです」

では、これをダイエットにつなげるためにはどうすればいいのだろうか。

「目隠しながら生活してみると、目の不自由な生活がいかに不便かわかります。それと同じように、生活習慣病になってカラダが思うように動かなくなるなど、こうなったら嫌だと思う状況をイメージしてください」

ポジティブなイメージとネガティブなイメージ、両方をうまく駆使しながらダイエットのモチベーションを維持していこう。

教えてくれた人
古川雅一先生
古川雅一(ふるかわ・まさかず)/東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 特任准教授。専門は、行動経済学、健康政策。人間の意思決定や行動に関する研究、医療・介護・年金制度や社会経済システムに関する諸問題の研究などを行っている。
主な著書に「ねじれ脳の行動経済学」(日本経済新聞出版社)、「わかっちゃいるけど、痩せられない ~メタボの行動経済学~」(NHK出版)など。