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2021.04.21

【加齢のトリセツ】放置してはいけない「脂肪肝」のリスク

脂肪肝
リモートワーク続きでつい運動不足になり、生活のリズムが狂い、食事の回数、質も乱れがちとなり、いつしか肝臓にしわ寄せが…。

酒の飲み過ぎ以外にも、食べ過ぎ、運動不足から使い残したエネルギーは脂肪として肝臓に蓄積され、やがて慢性炎症をもたらし、肝臓からは遠く離れた臓器にも悪影響を及ぼす危険性もあるのだ。

お酒と無縁でも脂肪肝になる。

脂肪肝と聞くと酒飲みを思い浮かべる人は多いだろう。飲酒が原因の脂肪肝をアルコール性脂肪肝と呼ぶが、酒とはまったく関係なく、食べ過ぎや運動不足が原因で起きることがある。こちらは非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)と呼ぶ。

脂肪肝

これら2つを合わせた脂肪肝が増えているという。統計によれば2000年以降は増加傾向が止まったようにも見えるが、止まらない食の欧米化もあって、この30年で患者数は3倍、約3000万人に膨れ上がったという報告もある。

脂肪肝
【グラフA】男女とも発見率は10年間増加を続けたが、1989年度と98年度における受診者の平均BMI値はともに22、肥満度にも差はなかった。また2000年代に増加傾向が緩んだのは、特定健診・特定保健指導が開始されたことも影響した可能性がある。
出典/「生活習慣病としての肝臓病―脂肪肝の急速な増加とその意味するものー」(松崎松平/『日消誌』2007; 104: 492‐500)

今回は2つのうち非アルコール性脂肪肝を取り上げる。

健康診断結果は、どの数字が指標?

日本肝臓学会は「NAFLDの有病率の性差に一定の見解は得られていない」と言うが、どうだろうか。下のグラフでは男性が30代を迎えると急増し、女性も更年期ごろから男性を急追し、最終的には追い抜いている。

脂肪肝
【グラフA´】女性の脂肪肝発生率は男性の約半分だが、更年期以降は急増する。要因としては更年期のホルモンバランスの変化が強く疑われる。
出典/「生活習慣病としての肝臓病―脂肪肝の急速な増加とその意味するものー」(松崎松平/『日消誌』2007; 104: 492‐500)

余剰エネルギーを内臓脂肪より皮下脂肪として蓄積させる女性ホルモンが、更年期以降枯渇する影響もあるかもしれない。中年になったら男女とも要注意であることは間違いないだろう。

脂肪肝の正確な診断は患者の肝細胞のサンプルを採取しての生検となるが、定期健診などの現場では血液検査が主流だ。

健診後の検査レポートで見るべき項目はまずASTALT。ともに細胞が破壊されると血中に流れ出す酵素だが、ALTはほとんどが肝臓に含まれる。だからASTが基準値内でも、ALTが高ければ脂肪肝の可能性が高い。

胆道系酵素とされるγ‐GTPALPが両方とも高い人も脂肪肝の可能性がある。なお、脂肪肝の始まっている人は肝臓で作られる酵素、ChE(コリンエストラーゼ)の数値も高くなる。

ただし、これらの項目は肝臓自体の状態を直接表すものではなく、壊れて流れ出た酵素を見ているだけなので、どうしても実態と乖離し、検査で見過ごされる人がいる。こうした“隠れ脂肪肝”は推定で1000万人近くいるという。

脂肪肝の放置が糖尿病に繋がる理由。

では、脂肪を蓄積しつつある肝臓に何が起きているか? 近年よく語られる仮説に、高脂肪食果糖の摂取過多によって腸管壁に破綻を生じると、腸内細菌の一部や産生された毒素(エンドトキシン)などが腸管内からあふれ出し血流に乗り、門脈を経て肝臓に侵入する、というものがある。

これを受けて、異物の処理・排除を目的に免疫細胞の一つ、マクロファージが肝臓内に入り込み、炎症性物質の産生、分泌を始める。

この系がすべてではないが、多くの因子の影響のもとで、単純な脂肪肝のはずだった非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の約1~2割は慢性炎症を伴う危険な非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に発展し、NASHになるとその5~20%の患者が5~10年のうちに肝硬変になるという。

健診で脂肪肝と診断されても、少し生活を改善すれば数値がよくなるだろうと気楽に受け止める人もいるようだが、医師の側は進行性の危険な病気だと考える。それは将来のNASHや肝硬変を視野に入れているからなのだ。

それだけではない。日本人はBMIが正常範囲内でも、脂肪肝を放置すると、内臓脂肪蓄積より強くインスリン抵抗性を抱え込むことが実験でわかった。肝臓の脂肪を増えるがままに任せると、肝疾患になるばかりか糖尿病まで招き寄せてしまうのだ。

脂肪肝
BMIが正常範囲内(21~25㎏/㎡)の日本人男性87人で調査を実施。内臓脂肪蓄積がなくても、脂肪肝があると脂肪組織と骨格筋のインスリン感受性は低下。
出典/「非肥満者では内臓脂肪の蓄積よりも脂肪肝が筋肉の代謝障害と強く関連する」(田村好史・河盛隆造/順天堂大学 News&Information, 2019年6月14日付)

ホルモンが運動効果も阻害?

では、このインスリン抵抗性をもたらすものは何だろう? 脂肪肝の患者、2型糖尿病の患者や高齢者の肝臓が分泌するホルモン(ヘパトカイン)の一つ、セレノプロテインPは骨格筋と肝臓にインスリン抵抗性をもたらすことがわかってきた。

脂肪肝
肝臓はさまざまな生理活性物質(ヘパトカイン)を作り出し、血中に放出している。そのうちセレノプロテインPとLECT2は骨格筋や肝臓自身にインスリン抵抗性をもたらす。また、NAFLD、NASHを抱えている人は乾癬、骨粗鬆症、睡眠時無呼吸症候群、慢性腎不全などの症状を訴えることもある。

しかも、セレノプロテインPが筋肉に取り込まれると、抗酸化タンパクを産生し、運動で生じる活性酸素の量を抑えてしまうため、運動をしても健康増進効果が十分に得られないことがヒトの試験で確認されている。

脂肪肝
運動習慣のない健常者女性31人で8週間の有酸素運動を実施。運動能力のマーカーとして最大酸素摂取量を測定した。トレーニング効果の低かった人ほど血中セレノプロテインP濃度は高かった。
出典/『肝臓ホルモン、「ヘパトカイン」が運動の効果を無効に運動の効果に個人差がある原因の一つを解明!』(金子周一・篁俊成/金沢大学・同志社大学・筑波大学・アルフレッサファーマ共同研究, 2017年)

脂肪肝の治療・改善は食事指導と運動療法が基本だが、運動療法の成果に個人差が大きい原因はここにあると目される。

検査の結果が脂肪肝ならば、担当医と十分に相談し、食事療法を始めるべきなのは明らかだが、成果を期待しすぎずに有酸素運動を中心に運動療法とも気長に取り組もう。運動に気が向かなければ、日常生活の中でアクティブに過ごす工夫もありだろう。

肝臓は再生能力の高い臓器だから、回復は十分に期待できる。あきらめるのは、まだ早い!

脂肪肝 リスクチェック

夜食を食べますか?(寝る前2時間以内の食事を含む)

  • 毎日食べる(3点)
  • ときどき食べる(2点)
  • 食べない(0点)

通勤や買い物などの移動に車を使いますか?

  • ほとんど車(2点)
  • ときどき車(1点)
  • 使わない(0点)

ジュースなどの甘い飲み物を飲みますか?

  • 毎日飲む(3点)
  • 週に1回は飲む(2点)
  • ほとんど飲まない(0点)

20歳のころと比べて10kg以上太りましたか?(30歳未満の人は、最近太った?)

  • 太った(2点)
  • 太っていない(0点)

タンパク質を多く含む食品(肉や魚、卵、豆製品など)を食べていますか?

  • ほとんど食べない(2点)
  • あまり食べない(1点)
  • よく食べる(0点)

平均睡眠時間はどれくらいですか?

  • 6時間未満(1点)
  • 6時間以上(0点)

多量の酒を飲む頻度はどのくらいですか?

  • ほぼ毎日(8点)
  • 週3回程度(3点)
  • 週1回(2点)
  • 多量は飲まない(0点)

血液検査は合格でも、思い当たる節が多かったら生活の修正を!

合計点 5点以下:低リスク、6~7点:中リスク、8点以上:高リスク。

出典/『NHKスペシャル“隠れ脂肪肝”が危ない』 監修/武蔵野赤十字病院泉並木院長

取材・文/廣松正浩 イラストレーション/横田ユキオ 取材協力・監修/吉良文孝(東長崎駅前内科クリニック院長、サイキンソーCMEO、日本消化器学会専門医)

初出『Tarzan』No.807・2021年3月25日発売

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