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未来の“痩せ”より、目先の“食事”を優先してしまう理由|痩せる行動経済学②

ヒトは将来の利益よりも、目先の利益を優先させてしまう。ダイエット成功の鍵は「飴とムチ」の設定にあり。

健康的に痩せたい! そう思っていても目標達成が難しいと感じるのにはワケがある。行動パターンを解明してダイエット成功につなげる「痩せる行動経済学」シリーズ。今回は、モチベーションを長続きさせるコツについて、経済学者の古川雅一さんに伺った。

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価値の大きさが逆転する「選好の逆転」。

「よし、今日からダイエットを頑張るぞ!」と意気込んでみたものの、おいしそうな食事を目の前にすると誘惑に負けて食べてしまう。そんな経験をした人はいないだろうか。こうした行為は、行動経済学において『選好の逆転』と呼ばれている。

「人間は、遠い将来に得られる大きなものと、近い将来に得られる小さなものとを比べた時、普段なら前者のほうが価値があると認識していても、後者にいっそう近づくとそちらのほうが価値が高いと錯覚してしまうんです。同様に、ダイエットにおいてもいざ食事の時間になると、目の前の食べ物の価値が急に大きくなるのです」 (経済学者・古川雅一さん)

これは東京スカイツリーをイメージするとわかりやすい。世界一の高さを誇る電波塔であっても、遠ければ遠いほど小さく見えるし、むしろ近くにあるビルの方が高いと感じるはず。それと同じように、人間は、今の自分にとって、遠くの方にあるものの価値を実際より小さいと感じてしまうわけだ。

ダイエット成功の鍵は、飴と鞭の設定。

では、この選好の逆転を防ぐために、どういった工夫をすればいいのだろうか。

「ポイントとなるのは、飴と鞭の設定です。目標を達成できたときのご褒美、達成できなかったときのペナルティをそれぞれに適宜設けることで、選好の逆転が起きにくくなります」(古川さん)

「1か月間食事制限ができたらほしかったものを買う」「半年間トレーニングを続けられたら旅行に行く」など、自分自身が価値を感じるご褒美があると、ワクワクしながらトライできると古川さん。一方で、ペナルティは我慢するほうがマシだと感じられる程度に辛いラインで設定するのがコツだという。

「たとえば『ケーキを食べてはいけない』というルールを設け、もし食べてしまった場合は2000円を罰金として貯金箱にいれる、などのペナルティをセットで用意しておけば、満足度から不満足度が差し引かれるので行動に移しにくくなるんです」

だが、こうした飴と鞭を設定してもなかなか目標が達成できない人は、どうすればいいのだろうか。

「うまく家族や友人を巻き込むと良いですね。というのも、人は外圧がかかる方が行動しやすいんです(こちらの記事を参照)。

身近な人にダイエットを宣言しておいたり、同じ目標を設定して競争したりすると、達成できたときの喜びもひと塩ですし、達成できなかったときに“約束を守れない人”というレッテルを貼られる可能性を恐れてモチベーションを維持することができます」(古川さん)

外圧をかける方法は、人の目を気にする人ほど有効だという。目標を定めてもなかなか頑張り続けられないという人は、ぜひ試してみてほしい。

教えてくれた人
古川雅一先生
古川雅一(ふるかわ・まさかず)/東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 特任准教授。専門は、行動経済学、健康政策。人間の意思決定や行動に関する研究、医療・介護・年金制度や社会経済システムに関する諸問題の研究などを行っている。
主な著書に「ねじれ脳の行動経済学」(日本経済新聞出版社)、「わかっちゃいるけど、痩せられない ~メタボの行動経済学~」(NHK出版)など。

取材・文/石川優太、村上広大 イラストレーション/平井利和

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