失敗傾向から考える、ダイエットを継続する3つのコツ|痩せる行動経済学③

健康的に痩せたい! そう思っていても目標達成が難しいと感じるのにはワケがある。行動パターンを解明してダイエットにつなげる「痩せる行動経済学」シリーズ。ダイエットが続かない人に知っておいてほしい、行動経済学的ダイエット継続方法を経済学者の古川雅一さんに伺いました。

取材・文/石川優太、村上広大 イラストレーション/平井利和

ダイエットを継続するコツ① 基準値(=参照点)を決める。

「継続は力なり」という言葉があるように、間違った方向を向いていない限り、努力は必ず報われる。それはダイエットも同じ。だが、なかなか結果に表れないと心が折れそうになる。その背景には、認知の歪みが生じているのかもしれない。

「普段は合理的に考えられる人でも、損得が絡むケースだと非合理的な解釈をしてしまうことがあります」(経済学者・古川雅一さん)

ダイエットで成果を出したいのであれば、体重計に乗って定量化するのは必然だろう。しかし、その体重の変化を感覚だけで捉えて、誤った解釈をしているというケースも多い。古川さん曰く、体重の変化を正しく捉えるためにも、基準値をコロコロと変えないことが大切だという。

「参照点依存性といって、人は利益や損失を何らかの基準からの変化で捉えるという心理的特徴があります。この基準を変えてしまうと、物事を適切に捉えられず、ダイエットも成功しません。

例えば体重49kgだった人が50kgになり、その後51kgになったとしましょう。49kgの時からみると2kgもの増加ですが、基準を変えて50kgからの変化でとらえてしまうと、1kgしか増えていないなどと解釈し油断してしまうのです」

こうしたミスリードを起こさないためにも、最初に基準となる数字(ダイエットを始めたときの体重や目標とする体重)を記録しておくことが大事になってくる。また、見た目を引き締めたいなら、ウエストが10cm細くなったらOKとするなど、何を基準にダイエットの成功・失敗とするのかという参照点を定めることも重要だ。

ダイエットを継続するコツ② 小さな目標をコツコツ達成する。

ダイエット初心者が心を折る要因として、目標が大きくなりすぎているケースも考えられる。中長期的な目標を立てることは、成功体験がない限り難しい。だからこそ、短期的な目標へと因数分解することが大切だ。

「英単語を3か月で1000個覚えるのと1日10個ずつ覚えるのでは、後者の方ができそうな気がしますよね。それと同じで、達成可能な目標を小分けで立てることが重要です」

もし1年で20kg痩せたいのであれば、それを半年、3か月、1か月、1週間と分解していこう。そうすると、漠然としていた目標が一気に具体性を帯びてくる。

ダイエットを継続するコツ③ 数字を客観的に記録していく。

そして、もうひとつダイエットに欠かせないのが記録だ。

「脳は記憶を都合の良いように書き換える性質があるので、きちんと事実を記録していくことが大切なんです。そうすると、自分の状況が明確になっていきます。あまり食事をしていないつもりだのに意外と食べているとか、運動していると思っていたけれど全然足りなかったとか」

かつて「レコーディングダイエット」というものが流行したが、行動経済学的にも理にかなっていたというわけだ。

記録するものは、食べた料理・量・カロリーはもちろん、走った時間・腹筋の回数など運動に関するものなどもいいだろう。メモができない人は、食べた料理の写真を撮るだけでもいいそう。

とにかく事実と向き合う。そこからダイエットははじまるということだ。

教えてくれた人
古川雅一先生
古川雅一(ふるかわ・まさかず)/東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 特任准教授。専門は、行動経済学、健康政策。人間の意思決定や行動に関する研究、医療・介護・年金制度や社会経済システムに関する諸問題の研究などを行っている。
主な著書に「ねじれ脳の行動経済学」(日本経済新聞出版社)、「わかっちゃいるけど、痩せられない ~メタボの行動経済学~」(NHK出版)など。