根治も目指せる!? 花粉症治療の最前線|花粉症を軽減するひと工夫④
埼玉医科大学病院アレルギーセンター長・永田真さんに聞く、「花粉症を軽減するひと工夫」シリーズ。今回は花粉症の人も、花粉症予備軍も知っておきたい最新の花粉症治療について紹介する。
取材・文/石川優太、村上広大 イラストレーション/killdisco
根治が期待できる舌下免疫療法。
2017年に実施された東京都の花粉症患者実態調査報告書によると、都内のスギ花粉症有病率は、48.8%(推定)だった。都民の約2人に1人は花粉症という計算だ。ただ、患者の約6割は幸いなことに日常生活への支障はないという。(参考:花粉症患者実態調査報告書)
上の図のとおり花粉症の症状は人によってさまざま。マスクをするだけで花粉シーズンをやり過ごせる軽症の人もいれば、1日1箱ティッシュが必要になるくらい鼻水が止まらないという重症の人もいる。重症の場合は、強い目のかゆみに苦しんだり、咳や喘息症状が出たりする人も。
軽症の人は身近な一般医から抗アレルギー薬を処方してもらうだけで対処できるそうだが、重症の人はそうはいかない。何か有効な手立てはないのだろうか。
「WHOでは根本的な体質改善として、アレルギーの原因物質となるアレルゲンを少しずつ投与し、生体に免疫をつけていく『アレルゲン免疫療法』を有効な治療として推奨しています。それに伴って近年は、治療薬を舌の下に投与する『舌下免疫療法』が多くの病院で行えるようになりました。3〜5年かけて軽症を治したり、重症を軽症に抑えることが期待できます」(埼玉医科大学病院・アレルギーセンター長の永田真さん)
舌下免疫療法は、スギ花粉症、ダニアレルギー性鼻炎と確定診断された人が治療対象となる。根治が期待できる夢のような治療法であるものの、体質によって副作用が生じる可能性もあるため、治療に対して正しい理解が必要となる。
また、重症の花粉症に対しては、アレルギーを引き起こす原因となるIgE抗体という免疫を抑制する抗IgE抗体を利用した抗体治療が、2020年から健康保険の適用範囲となった。専門医が常駐している病院であれば治療ができるそうだ。
花粉症以外のアレルギーにも注意!
春はついつい花粉症にばかり意識がいきがちだが、目の痒みや鼻水が1年続くような人は、ダニ(ハウスダストの中の主なアレルゲン成分)のような別のアレルゲンがアレルギー症状を引き起こしている可能性も考えられる。放置しておくと、どのような危険性が考えられるのか?
「花粉のみのアレルギー反応であれば、重篤な症状に陥って命を落とす可能性は極めて低いと思います。ただ、アレルギー症状によってもともと持っていた基礎疾患が悪化する方がいます。たとえば喘息はスギ花粉の飛散時期にしばしば悪化します。大きな発作では最悪のケースだと命を落とす可能性もあるので、咳が止まらない、症状が辛くて十分な睡眠が取れないといった症状がある場合は、躊躇せずに病院に行ってください」
いずれにしても、辛い症状を我慢して日常を送るより、医師に相談し、自身のアレルギー症状についてしっかり調べてもらった方が快方に向かう可能性は高い。市販の薬が効かないと感じたら、迷わず病院へ!
教えてくれた人
永田真(ながた・まこと)/埼玉医科大学教授・アレルギーセンター長。埼玉医大大学院卒業後、米国ウイスコンシン大学病院アレルギー科でアレルギー学を学ぶ。日本アレルギー学会理事と関東支部長を務め、2020年度の日本アレルギー学会学術大会会長に。