暦で学ぶ傾向と対策・花粉症やハウスダストの「アレルゲン」カレンダー
一年中、いつだって脅威はすぐそこに。見えない相手の正体を知り、リスク回避を。アレルゲンについては鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会がデータを出している。今回はこちらを参考にした。
取材・文/廣松正浩 イラストレーション/徳永明子 参考文献/『アレルギー検査のミ・カ・タ』(インプレスR&D)
初出『Tarzan』No.788・2020年5月28日発売
花粉は明確にシーズンが存在する。
花粉症の場合、開花し、花粉が飛散する時期の近い植物がいくつもあると、どれが犯人か患者が自分で見極めるのは難しい。表の上から3つの樹木は時期が重なる。スギ花粉症だと思っていても、アレルギー検査結果はハンノキだったなどというのはよくある話。
表からわかるもう一つのことは、結局のところどの月も量の多少はあれど、何かしらの花粉が飛散していることだ。12月、1月だけ奇跡的に0と1が並んだが、年末は多くの家庭が大掃除をするはず。身の回りにハウスダストが増えている可能性も考えられる。人はいつでもアレルゲンとともにある。
アレルゲン用語解説。
・ハンノキ
カバノキ科で北海道から九州までの湿原に多い。開花は12~2月ごろで花粉は1~6月と長期間飛散し続ける。花粉症患者の10~30%はカバノキ科の花粉症といわれている。カバノキ科の主なアレルゲンとバラ科の果物、野菜が持つアレルゲンは形が似ているため、食事で口腔アレルギーを起こす人がいる。
・スギ
花粉症患者の大多数がこれで苦しむ。猛暑だった夏の翌年は飛散量が多く、冷夏の翌年は少ない傾向があり、飛散する時期は2~4月だが、季節外れに咲く年があり、10月後半から飛散の報告も。アレルゲンはスギ花粉の表面と内部に2種類存在するが、患者の80%は2種類の両方に感作されている。
・ヒノキ
スギと同じくスギ科植物で、北海道や沖縄を除く全国で繁茂する。2種類持っているアレルゲンもそれぞれがスギのアレルゲンと酷似している。花粉の飛散する時期はスギにひと足遅れて3月下旬~4月と比較的短い。アレルゲンの形がナス科のそれと似ているため、トマトに口腔アレルギーを持つ人がいる。
・シラカバ
ハンノキと同じくカバノキ科植物だが北海道に多い。北海道ではアレルギー性鼻炎患者の約30%がシラカバ花粉症で、そのうち35.1~62.3%が口腔アレルギーを合併していたという報告がある(2014年、旭川医科大学耳鼻咽喉科)。バラ科の他にもたくさんの科の野菜、果物に反応する。要注意!
・イネ
米を炊飯で加熱するといくらか抗原性が弱まるのと、普通はおかずと一緒に食べるため、下痢、頭痛、皮疹が出てもそれが原因とは気づきにくく、発見が遅れがち。一般の食品店では扱いが少ないが、アレルゲンになっているタンパク質をカットしたAカットごはんやケアライスはネットで購入できる。
・ブタクサ
北米原産のキク科植物。空き地や河川敷に多く、花粉の飛散は8~9月と限定的だが、抗原性が強くこれに感作すると、他の花粉症よりも強い症状に苦しめられることがある。花粉の飛散距離は数百mと若干短いので、発見したら近づかないことで対応できる。ウリ科、バショウ科に交差反応を示す。
・ヨモギ
繁殖力の強いキク科植物で、地方だけでなく都市部にも自生する。花粉の飛散は7~10月が多い。彩りとして料理に使ったり、薬としても使われてきたが、アレルギー性鼻炎の15~25%はこれが原因だという。生花を扱う職種の人に多発する。同じキク科やセリ科、ナス科などの植物に交差反応を示す。
・カナムグラ
アサ科のつる草で繁殖力が強いため、日本全国の空き地、道端、民家の庭などに自生する。花粉の飛散は8~10月に多く、飛距離は数十mなので、見つけたら近づかないに限る。人にもよるがきつい鼻炎、結膜炎を生じることがある。メロンやスイカなどウリ科植物に交差反応を示すことがある。
・ダニ
ハウスダストに含まれるアレルゲンの大半はこれ。ダニの糞や死骸は人の活動で空中に舞い上がり、人が寝静まる夜半に舞い降り呼吸器に侵入する。生きたダニは天ぷら粉など味付きの粉ものが大好物。侵入したダニごと食べるときつい症状を起こすことがあるので、予防のため開封後は冷蔵庫で保管せよ。
・ガ
翅の鱗粉は呼吸器に侵入する昆虫アレルゲンの中で最も重要視されている。強い抗原性からアレルギー性鼻炎、喘息の患者の40~50%は、ガに対してもアレルギーを持つという。曝露のピークは5~7月と9~11月の二峰性を呈する。どこにでも棲息するため、ハウスダストにも多く含まれる。
・ユスリカ
初夏から秋にかけて富栄養化した沼沢、河川、用水路などで大量発生し、ときに集団化して蚊柱を作る。光に吸い寄せられ、光源に焼かれて死ぬと路面に堆積し、そこを通る際に気づかず吸引してしまい、アレルギー性鼻炎や喘息の引き金に。窓枠、照明器具の傘の中などに溜めやすい。小まめに掃除を!
交差反応が起きると食に制限が生じる!?
スギ花粉に反応する人はトマトやメロン、スイカなどを食べると口が腫れたり、イガイガすることがある。これを口腔アレルギーという。これらの食材が含むタンパク質はスギ花粉のタンパク質と形が似ているため、免疫システムが誤作動したのだ。こうした誤作動を交差反応という。また、日本では少ないが、マダニに咬まれた人は赤身の肉に口腔アレルギーを発症することがある。犬や猫を飼う人にも同様の交差反応の起きることがあり、やはり赤身の肉が苦手になることも。
厳に避けるべきは、アレルゲンとの接触。
残念ながらアレルギーの発症リスクには遺伝的要因が否定できない。近親者にアトピー性皮膚炎や花粉症、喘息などを発症した人がいたら要注意。とにかくアレルゲンの除去を心がけよう。花粉以外で特に注意すべきはダニ。布団は干すだけでなく、小まめに掃除機をかけるべし。キメの細かい防ダニシーツの使用もお勧め!
舌下免疫療法は、専門医の監督下で。
適切に調整されたアレルゲンを含む薬液を、自宅で経口摂取することで体質を改善し、アレルギー反応をなだめる舌下免疫療法が一部医療機関で実施されている。保険適用はまだスギ花粉とダニだけだが、一定の効果を挙げている。日本アレルギー学会専門医と相談のうえ治療を受ければトンネルの出口が見えてくるかも。