脅威は一年中…12か月分「食中毒」カレンダー
一年中、いつだって脅威はすぐそこに。見えない相手の正体を知り、リスク回避を。
取材・文/廣松正浩 イラストレーション/徳永明子 参考文献/『ウイルス・細菌の図鑑』(技術評論社)
初出『Tarzan』No.788・2020年5月28日発売
感染症や食中毒、アレルギーには多発する”シーズン”はあるのか?
食中毒に関して信頼できる情報源には、食品衛生法に基づく「食中毒統計調査」がある。今回はこちらを参考にした。冬場も用心が必要な細菌もいるため、傾向を知っておこう。
できたては安全性高し。が、耐熱性の菌も…。
病原細菌の増殖速度は恐ろしく速く、大腸菌は条件がよければ20~30分に1回のペースで分裂し、食品中で大量に増える。手作りしたお弁当などの食品は温かい環境(20度以上)に放置せず、できるだけ早めに食べることが食中毒の予防につながる。
多くの食中毒は食べる前に食品を加熱することで予防が可能だ。しかし、一部の細菌は熱に強い毒素を食中に産生してしまう。また、芽胞という状態になった細菌は100度でも死なない。このような耐熱毒素・芽胞細菌に汚染された食品は食前に加熱しても食中毒の予防はできない。
食中毒の用語解説。
・ノロウイルス
経口感染で急性胃腸炎を起こす。潜伏期間は1~2日。ウイルスと細菌による食中毒全ての中で最も多い。主な感染源は①二枚貝の生食、②感染した同居者からの二次感染、③感染した調理従事者による食品汚染がある。少量のウイルスでも感染し、アルコール消毒が無効なのでやっかいだ。
・カンピロバクター
原因菌、カンピロバクター・ジェジュニは牛、豚、鶏の常在菌。市販の鶏肉は高率で汚染されている(厚労省平成14~16年度報告)。細菌を原因とする食中毒では最多。わずか数百という少ない細菌数で感染する。海外旅行中の下痢の原因としても多く、全原因菌の11%に上ったことがある。
・ウェルシュ菌
悪玉菌としてヒトの腸内をはじめ、土壌中、水中、動物では牛、鶏、魚などに広く棲息。酸素を嫌い、芽胞という特殊構造を作って100度×6時間の加熱にも耐えるため、シチューやカレーなどの煮込み料理の中心部や鍋底に大発生することが。コンロの上で常温のまま、ひと晩寝かせたカレーは要注意。
・病原性大腸菌
病原性大腸菌にはいくつか種類があるが、腸管出血性大腸菌Oー157は恐ろしい。この大腸菌はベロ毒素を産生し、腸管だけでなく毛細血管の細胞も破壊する。合併症の溶血性尿毒症症候群は致死率が高い。食中毒で命に関わることはめったにないが、この腸管出血性大腸菌は命に関わるので要注意だ。
・サルモネラ菌
下水、河川などの屋外のほか豚、鶏などの腸内に広く棲息し、汚染された肉や卵を食べることで感染する。衛生状態のよくなった日本では減ったが、国によってはいまなお食中毒の大きな原因。昔は生卵で食中毒を起こすことがしばしばあったが、いまは日本の生卵でサルモネラにあたることはほぼない。
・ブドウ球菌
手指、鼻、喉、耳、皮膚などの常在菌で手荒れや化膿した傷口に特に多く、しばしば集団食中毒に。おにぎりやサンドイッチなど手作り食品に付着すると、旺盛な繁殖力で増殖し、その過程でエンテロトキシンという毒素を作る。この毒素は熱に強く、加熱しても壊れにくい。食前加熱で予防できないので要注意。